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(更新: ORICON NEWS

人手不足に原材料高騰…岐路に立つ飲食業界で進む“AIロボット”導入 果たして救世主になりえるのか?

  • エビノスパゲッティ丸ビル店

    エビノスパゲッティ丸ビル店

 飲食チェーンのプロントコーポレーションが、昨年6月に新業態となる「エビノスパゲッティ」を東京・丸ビルにオープンした。同店では、調理ロボットを開発するTechMagic(テックマジック)と約4年間の共同研究開発期間を費やし誕生した、世界初のパスタ自動調理ロボット「P-Robo」を導入している。同製品は、熟練の調理技術を再現できることがウリで、最速で約45秒に1食の調理が可能。だが“天下の丸ビル”で調理場がロボット化されることは、即席や手軽といった負のバイアスがかからないか、人間の仕事を奪われないか…。プロントが調理ロボットを共同開発した理由には“効率化”以外の理由があった。

ゆでる、あえるを同時進行で行ない、1食約45秒で調理が可能

ゆでる、あえるを同時進行で行ない、1食約45秒で調理が可能

新たな食のインフラ社会を創る「浮いた時間はホスピタリティの向上に充てる」

  • 木のぬくもりも感じる店内

    木のぬくもりも感じる店内

 「P-Robo」の開発が始まったのは2018年。プロントとTechMagic双方の、『飲食業の人手不足などの課題を解決しつつ、世の中に貢献できるものを作りたい』という想いがきっかけだったという。「少子高齢化による人手不足、同時に進化し続ける食の追及という面で、作り手のブレがなく誰でも熟練のシェフの美味しさを再現できるというところに魅力を感じ、共同開発するに至りました」と話すのはプロント広報担当の山下夏子さん。

 一方、調理ロボットのパイオニアであるTechMagicも「弊社が人手不足など外食産業の課題解決に向けて調理ロボットの開発を志す中で、プロントコーポレーションも同様の課題を感じていたのを知り、未来の外食産業に向けて、共にソリューションを提供できないかと考え作った製品です」(広報・杉山紗友里さん)と、開発への狙いを語る。

 これまで飲食業は、ポーション(一人前)の減量や味の改良により“フードロス”をなくすなど、考えに考え抜いて存続してきた。値段を上げずにクオリティを向上するのが課題であり、その試行錯誤の1つの答えが「P-Robo」と言える。

 自動化・効率化によって利益率の向上とともに何が得られるのか。それは「ホスピタリティだ」と山下さん。
「キッチン人員が1〜2名になり、残りはフロア。効率化されることにより、空いた時間はお客様をもてなすホスピタリティに充てたり、人件費が浮くことでお金の使い方を見直せる。さまざまな飲食業界の課題を解決するポテンシャルは秘めていると思います」

 気になる“味”についてだが、実際に試食してみると、まさかロボットが作ったとは思えないほどの深みのある味わいだった。ただし、盛り付けだけは“人”の手が入る。料理というものは見た目も合わせて、その“味”が決定する。ロボットが作り、人が盛りつけし、人が届ける。メカと人間の共存の世界がここにはある。
「店内の装飾も木材などの古材を使用。ただ最新技術だけではなく、あたたかみを兼ね備え、ハイテクとローテク、あたたかさの共存を目指しています」(同)

味ムラのない“安心感”、離職もカバーできる“即戦力”

 しかし、その1号店が何故、東京でも随一のハイソな場所・丸ビルなのか。東京駅周辺では高級、もしくは名店が軒を連ねている印象があるのだが…。
「丸ビル自体が日本のセントラルステーションで様々なものを牽引している場所。コンセプトでもある“ハイテク×ローテク”という掛け合わせが、明治時代に建設された東京駅が最適だと判断したからです。特にターゲット層はオフィスワーカーですので、ささっと食べてささっと出たいという利便性も加味して出店を決めました」(山下さん)

 両社は「P-Robo」を「ファストフード+α」と位置づけている。ファストフードのようにすぐ料理が出てきて、味は専門的。つまりファストフードと専門店の中間という立ち位置だ。一定の質が担保されつつ、短時間で帰りたい人に向けては最適であり、実際ランチタイムは持ち帰りも含め満席であり、回転率も早いという。

 また“映え”もウリになっている。「P-Robo」の大きさは4800×840×2000(mm)であり、ガラス張りで同製品が実際にパスタを作っていく過程を間近でみることができる。この物珍しい光景を一目見ようと、ベストポジションを予約したり動画撮影したりする客も少なくないという。いわば食の要素の1つ、エンタメ化にもつながっているのだ。
「さらに同ロボットは、洗浄まで自分で行なえる世界初のロボ。小型化には苦労しましたが、今後同ロボットを、炒飯などの炒めものなど、多くの飲食店で活躍できるよう研究中です」(杉山さん)

提供前の盛り付けは“人”の手で行なう

提供前の盛り付けは“人”の手で行なう

 2号店には神奈川県あざみ野を選んだ。こちらは住宅街にあり、忙しいオフィスワーカーではないターゲット層にも受けるかどうかのテストも兼ねている。現状は家族連れで賑わっており、おおむね成功。しかしまだスタートしたばかりのため、今度どんな課題が生まれるか注視する。

 つまり現代人は「ロボットが作った」というところにネガティブな印象を抱く人が意外と少ない。そもそも「P-Robo」は、従来の2倍以上の温度での調理が可能であり、スピードも高回転。この2つの技術の組み合わせにより、人間では熱くてできなかったことをロボットだからこそ、可能にしてくれる。熟練のシェフの技術を、ロボットゆえにまったく同じ味で仕上げ、出来栄えにムラがない。人が調理したものとはまた違った“安心感”があるのだ。

 ただし、自動化されているからこそのデメリットもある。もし万が一、「P-Robo」が故障してしまった場合、現状「エビノスパゲッティ」では従業員が調理を代わるフローにはなっておらず、調理場も設置がない。料理を作る手段がないので「閉店」となってしまう。

「そのようなデメリットもありますが、飲食業は若い人のバイトも多いので、例えば大学生だと卒業すると辞めてしまう。すると引き継いだ従業員に再度教育を施さなければならないので効率が悪い。「P-Robo」であれば、研修期間もなく即戦力ですので、研修時間の短縮にも役立ちます」(杉山さん)

膨大なオペレーションをボタン1つで簡略化、効率化が生み出す新時代

  • ロボットが作ったとは思えない味のクオリティ

    ロボットが作ったとは思えない味のクオリティ

 さらに言えば、「エビノスパゲッティ」は丸ビルという一等地にありながら一品の値段がほぼ1000円以下と安い。東京駅周辺ではこの価格でパスタを食べられる店はそう多くはないはずだ。これも効率化、自動化による効果の1つになっている。

「プロの職人が一からこだわった専門的な料理は、それはそれでずっとあるべきだと思います。ただ、1つの料理をカスタマイズをするとなると、膨大なオペレーションが必要になります。ですが、同ロボットはボタン1つで出来る。今後「P-Robo」はフードコートや食堂などで活躍できるでしょう。プロの手作り、ロボットの料理、いいところをそれぞれが担っていく未来が理想です」(杉山さん)

 とはいえ、ロボットゆえにシステムのメンテナンスは必要不可欠であり、アップデートも課題になってくる。エラーが起こる可能性もゼロではないため、「まだまだこれから」というのが本音のようだ。だが両社の想いは1つ、外食産業が抱える課題を解決したい、ということ。

 TechMagicの社長は、一度大手ファストフードのチェーン店でのアルバイト経験があり、調理場はある程度のオペレーションが決まっていることを知っていた。自動化できる部分は「P-Robo」で改善し、人手不足などの飲食店全体で抱える課題を解決していきたい、という想いも開発する要因の一つだった。

 「P-Robo」以外にも、プロントコーポレーションでは各店舗で配膳ロボットを導入している。山下さんは今後の展望について「人にしかできないことは人で、ロボットでもできることはロボットで、食とロボットの共存を作っていくパイオニアになっていきたい」と語る。
 
 「給料が低い」や「長時間労働」といったイメージから、就職する時に飲食業を避けてしまう人も少なからずいる。コロナ禍によって人との接触がはばかられるという現代の問題も。そうした点はロボットで改善することができるかもしれない。TechMagicでは、2027年には国内外を問わず、このパスタ自動調理ロボットを150台の納入を目指しているという。

 かつて寿司ロボットが登場した際、客は「人が握ってないなんて」とランク下げ、敬遠していた。だが時代はそれから数段変化している。インターネット、スマートフォンなどのテクノロジーの発展で、人はすべてを記憶しなくても手軽に情報を得られるという“第2の脳”=スマホを手に入れた。こうした間接的な“サイボーグ化”が、問題が山積みの外食産業にどのような影響を与えるか、興味は尽きない。

(取材・文/衣輪晋一)

イタリア産のワインも多数用意されており、ランチからディナーまで楽しめる

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