ORICON NEWS
美味しすぎない味でロングヒット? 『サッポロ一番』半世紀支持される理由は「ひと手間の余白を残したこと」
「美味しすぎる」ことへの疑念 “一歩引いた味”が家庭で愛される要因に
1966年、高度経済成長で食のバリエーションが豊かになる中、インスタント袋麺の『サッポロ一番 しょうゆ味』は発売された。その2年後に『サッポロ一番みそラーメン』、さらに3年後に『サッポロ一番 塩らーめん』が発売されている。
時代のニーズにあった簡単、便利な即席麺の売上推移は右肩上がりだったという。なかでも『サッポロ一番』シリーズはいずれも好調だった。その後、半世紀以上にわたって愛されるロングセラーブランドへと成長するが、水谷さんは井田氏の目指した味わいこそが人気の要因ではないか、と話す。
「発売当初から『サッポロ一番』は、野菜などの具材をプラスして食べることを推奨していました。栄養が偏らないように食べてもらいたいとの配慮もありますが、ひと手間かけてさらに美味しく、各ご家庭でお好みの味に仕上げていただくための余白を大切にしていたんだと思います。井田氏の目指した“一歩引いた味”とは、“そのままでも美味しく、アレンジの余地もある、いつまでも食べ飽きない味わい”だと考えています」
開発時、井田氏は「一番美味しい試作品を製品化しなかった」というエピソードも伝わる。味覚のトレンドは時代とともに変化する。当時の“一番美味しい”を目指すのではなく、食べ飽きない美味しさ、家庭のひと手間で完成する味わいを目指した発想こそが商品の強度となり、ロングセラーにつながった。
その言葉を裏付けるように、人気レシピサイトで『サッポロ一番』を検索すると、6,000件を超えるアレンジレシピが表示される。このアレンジレシピ数は群を抜いており、いかに同商品が家庭ごとの味わいで親しまれているかを物語る。
「ラ王」「正麺」の本格志向が登場 苦戦する“油揚げ麺”
「“油揚げ麺”の良さと言うんでしょうか、“この味がいい”というお客様たちが戻ってきてくださって。さらに、コロナ禍の内食需要でアレンジできる良さも再評価していただき、勢いが戻っている状況です」
近年、食のトレンドはグルメ志向や健康志向の高まりと反比例する動きもある。濃い味、大盛り、ハイカロリー、ジャンク系といったキーワードが注目され、より嗜好が細分化してきている。こういった流れの中で、“油揚げ麺”特有の味わいへの原点回帰があったのだろう。
『サッポロ一番』の夏のアレンジは、“冷やし”がおすすめ
「夏におすすめしたいのは、冷やしラーメンですね。麺のゆで時間を通常より1分多い4分にして、ゆで上がったら冷たい水で麺をしめます。粉末スープは水にサッと溶けますから、あっという間にできますよ。エスニック好きの女性には、塩らーめんにナンプラーとレモン果汁を入れたアジアンテイストのアレンジも人気です」
同社のサイトでは95品に及ぶ“冷やしラーメン”レシピが紹介されている。ユニークなものをいくつかあげると…
・サバ缶で冷や汁風つけ麺(みそラーメン)
・冷やし納豆ラーメン(ごま味ラーメン)
・タラトール塩らーめん(塩らーめん)
冷やし中華ならぬ、冷やしラーメン。夏休みも終盤、子どもや家族のお昼ごはんに頭を悩ませている人は、ぜひ「ひと手間」かけた袋麺を試してほしい。
(取材・文/福崎剛)