ORICON NEWS
なぜ初代はしょうゆ味だった? 『サッポロ一番』が札幌の定番“みそ味”より先にしょうゆ味で勝負した意外な真相
「札幌ラーメン=みそ」は『サッポロ一番』が定着させた?
「井田が札幌のラーメン横丁で食べた一杯に感銘を受け、この美味しい体験が新商品のイメージへと結びついたと聞いてます。そのときに食べたのがしょうゆラーメンでした」(サンヨー食品・マーケティング本部 広報宣伝部課長 水谷彰宏さん/以下同)
現在はラーメン通でなくても“札幌ラーメンと言えばみそ”が定着しているが、当時、ラーメンはしょうゆ味が一般的だった。札幌でも1960年代までしょうゆラーメンがメインだったと言われている。
北海道・すすきの地区にある「元祖さっぽろラーメン横丁」の歴史年表を見ると、札幌の地にみそラーメンが登場するのは1961年(昭和36年)だ。それから1964年(昭和39年)に高島屋(東京・大阪)の北海道の物産展で実演販売したことで、“札幌のみそラーメン”が評判になったとある。つまり、井田氏が札幌の食べ歩きをしていた頃は、しょうゆ味とみそ味が同程度の知名度だったと推察される。
そうした時代背景もあって、『サッポロ一番』の初代製品がしょうゆ味だったのは自然の流れだった。『サッポロ一番みそラーメン』がリリースされたのは、その2年後の1968年。“札幌のみそラーメン”が物産展で話題になった4年後のことだった。
『サッポロ一番』は札幌のご当地テイスト“みそ”をあえて初代に選ばなかったのではなく、物産展と『(同)みそラーメン』の登場によって、“札幌ラーメン=みそ”のイメージが全国に広がり定着したとみていいだろう。
「確証はありませんが、もしそうでしたら多くの方にご支持いただけた結果なので嬉しいですね。寒い北海道でいただく濃厚なみそラーメンは格別ですから、そういった部分もマッチしたのではないでしょうか」
当時、目新しかった地名入りネーミングも人気を後押し
サッポロ一番の開発を手がけた井田毅氏は、インスタントラーメン業界では日清食品の創業者である安藤百福と並び称されるラーメン王の異名をもつ。その井田氏は『サッポロ一番』の発売に先駆け、1964年に塩味ベースの『長崎タンメン』を製品化させて爆発的にヒットさせた実績を誇る。
しょうゆラーメンが主流の時代に、いち早く塩味を製品化したことも斬新だったが、長崎という地名を製品名につけたところに先見の明があった。今でこそご当地名を冠した商品はあふれかえるほどだが、地名から異国情緒が漂うイメージを広げ、消費者の心をしっかりつかんだこのネーミングセンスは見事だったというしかない。
「ところが、製品名にした『長崎タンメン』は一般名称の組み合わせのため、当時、類似品が横行したんです。この経験が、2年後に発売された『サッポロ一番』のネーミングに生きたんだと思います。札幌ラーメンからヒントを得たので、地名を入れることを考えたようですが、前例もあり、どうするかずいぶん悩んだようです」
当時、札幌には輸入雑貨や外車販売も手がけトレンドを先取りする評判の百貨店「五番舘」があり、外観のレンガ造りもシンボリックで目をひいていた。そこで製品名の候補として“サッポロ五番館”も考えられた。しかし最終的には、製品として一番を目指すという意味を込めて『サッポロ一番』に決まったという。この斬新で印象的なネーミングが当時の人々の目を引いたことは間違いない。
ちなみに、井田氏は商品パッケージのデザインも手掛けていたという。
「よく、しょうゆ味のパッケージ右上にある“矢印と星”について由来を聞かれますが、社内でも諸説あり、詳しくは分かっていないんです。井田氏は何か特別な想いを込めていたのかもしれません」
2強はみそと塩 課題は「みそと塩以外のテイストの知名度アップ」
「お客様の間で以前から“みそラーメン”VS“塩らーめん”の構図で熱く語られていたのは知っていましたが、あまりの反響に驚きました。今でも、このふたつのテイストが圧倒的に人気です」
そんな人気の『サッポロ一番みそラーメン』でスープの改良が行われたのは広く知られていない。
「発売45周年のときに7種類みそのブレンドから8種類にし、味に少し奥行きをだしました。ただ、そのほかはほぼ発売当初から変えていません。長く愛されてきた味こそが『サッポロ一番 みそラーメン』なので、これからも味のベースは変わらないと思います」
袋麺市場で最も売れているとも言われる『サッポロ一番』シリーズ。今の課題は「みそと塩以外の知名度アップです(笑)」と、水谷さん。
「しょうゆベースの味わいに、香ばしいごまの風味が食欲を刺激する非常に美味しい商品です。しょうゆ味もおいしいですが、ごま味はコクがあって個人的にはこちらもおススメです。みそ・塩ファンの方にもぜひ、いろんな味わいを食べ比べてほしいですね」
(取材・文/福崎剛)