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韓国メイクと加工アプリの影響で変化した“すっぴん”の定義 美容医療においても変化より“ほどほど整形”が主流に
無加工写真がない若者も…すでに加工された顔が“デフォルト”だと考えるユーザーが急増
實藤健作さん 近年の美容医療で最も人気なのは、美しい素肌を目指す「肌育」です。その意味では「すっぴんで美しくありたい」というニーズは高まっていると言えるでしょう。ただ最近は“すっぴん”の定義がかつてと変わっており、「どこからどこまでが“すっぴん”なのか?」という線引きが難しくなっています。それもやはり写真加工アプリの影響が大きいと感じます。SNSに投稿されている“すっぴん写真”で加工されていない画像は、ほぼないと言って良いでしょう。
──現場のどのような場面で写真加工アプリの影響を感じますか?
實藤健作さん 施術の前には基本的にすべてのメイクを落としていただきます。その上で普段の雰囲気をチェックするために、ご自身の写真を見せていただくのですが、特に若い方の場合、加工なしの写真を持っていない方はとても多いです。現行のカメラアプリは、自分用にカスタマイズができますよね。目は○%大きく、肌の状態は◯◯とか。その設定でしか写真を撮らないわけですから、すでに加工された状態が自分の顔のデフォルトになっているのだと思います。他人のスマホで撮った写真に違和感を覚え、「私の顔じゃない」と感じる方もいるようです。
“すっぴん”本来の意味合いが時代にそぐわない? 韓国メイクの影響もありナチュラル志向に
實藤健作さん 一概には言えませんが、芸能人のグラビアもある程度の加工・修正をしていますよね。ただいまは誰でも高解像度の写真を撮影でき、加工も手軽にできますので、むしろ一般の方の写真の方がインパクトを出せるのかもしれません。おそらくSNSで拾ったのであろう、人間の骨格ではあり得ない鋭角な顎の写真を「こうなりたい」と見せられたこともあります。医療技術を用いてもそれは実現不可能だと説明はしましたが──。ただ、そこまで極端ではなくても、加工済みの“すっぴん風”写真を現実と認識している方は非常に多いです。
──先ほど「すっぴんの線引きが難しくなった」とのことですが、すっぴんとは“完全にノーメイクな状態”を指すのではないのですか?
實藤健作さん 本来はそうですね。ただいまはアートメイク(皮膚の表層部に色素の入った薬液を注入していく施術)やカラーコンタクト、まつ毛エクステなどを付けた状態を含めて“すっぴん”“素の自分の顔”と認識している方も多いのではないでしょうか。メイクを落としてもその状態がキープされるわけですから。また加工設定済みのカメラで撮れば、ノーファンデでも毛穴のない美肌が映し出されますよね。そうしたさまざまなツールや選択肢があるいま、“すっぴん”という言葉から想起されるイメージは、世代や個人によってもバラつきがありますし、本来の意味合いが時代にそぐわなくなっているのかもしれません。
──2022年には韓国からの化粧品の輸入額が、30年近くトップだったフランスを上回り、美のトレンドが韓国から発信されることが増えています。なかでも最近は「クアンクメイク」と呼ばれる“すっぴん風メイク”がトレンドです。Kビューティーへの憧れは美容医療の現場でも感じますか?
實藤健作さん 「クアンクメイク」に通じるのかもしれませんが、かつて以上にナチュラル志向になっています。二重整形も最近はくっきり・はっきりというよりも、まぶたの食い込みが強くない緩やかな二重が好まれます。唇も一時期はM字リップがもてはやされましたが、最近はむしろコンプレックスだとおっしゃる方もいます。唇にヒアルロン酸を入れるにしても厚くならず、それでいてぷるんと潤いのある唇にしたいという要望が多いですね。
──顔の全パーツを整形したことを公言するインフルエンサーが「整形のコツは、すっぴん軸」と語っています。“整形=変化を求めるもの”ではなくなっているのでしょうか?
實藤健作さん 変化はしたいけれど、大幅には変化したくないという方は増えています。かつて整形には「新しい自分に生まれ変わりたい」というニーズがありましたが、最近はむしろ「いまの自分にプラスアルファしてより魅力的に」という志向になっています。何事もやりすぎず、ほどほどに。“すっぴん軸”という志向もその現れかもしれないですね。
新しい自分でなくいまの自分を魅力的に…“ほどほどの整形”へのニーズ変化も
實藤健作さん それこそ生まれ変わり級を求める施術は切開なども伴いますし、ダウンタイムも長くなりますので、ある程度の覚悟も必要だと思われます。一方で近年は、美容医療器具や製剤の技術革新でダウンタイムが短い施術も増え、多様な“ほどほどニーズ”に応えられるようになりました。またカラーコンタクトやアートメイクなど多様な美容グッズもあります。そうした商品や“ほどほどの整形”を活用しながら、普段は自信を持ってすっぴんで過ごし、ここ一番の時だけメイクをする。“肌育”が人気となっているのも、そうしたライフスタイルに憧れる人が増えているからではないでしょうか。
──「クアンクメイク」は抜け感のあるすっぴん美肌が特徴です。しかしに投稿されている写真の肌はお人形さんのように毛穴が全くなく、どこか塩化ビニールっぽさもあり、「むしろ不自然ではないのか?」とも思うのですが、先生はどうお考えですか?
實藤健作さん それはやはり写真加工されているからでしょう。ただそれを不自然と感じるか、すっぴんと感じるかは価値観の違いかもしれません。繰り返しになりますが、現代の“すっぴんの定義”は曖昧です。また先ほど最近は“ナチュラル志向”になっていると言いましたが、この言葉の定義も難しく、患者さまの考えるナチュラルと私の考えるナチュラルは違うかもしれません。そうした“ふわっとした要求”が多くなっているぶん、カウンセリングはますます重要になっています。
──クアンクメイクのようなすっぴん風の美肌は肌育で実現可能ですか?
實藤健作さん クリニックなら「一撃で毛穴が目立たない肌になれる」と思っている方は意外と多いのですが、それはまず不可能です。美肌は積み重ねで実現するもの。食生活や睡眠、日頃のケアも影響します。
──加工アプリによって自己イメージが高まる一方で、鏡を見れば“本当の自分”が映し出されます。それによって美の追求が煽られる──といった現状をどのようにお考えですか?
實藤健作さん 加工アプリの影響は感じますが、それを否定するつもりはありません。患者さまの理想や叶えたいイメージに寄り添うのが美容医療の役割ですので、大切なのはカウンセリングでご要望を深掘りすること。それはいつの時代も変わらないことであり、実現不可能なことはきちんと説明した上で希望のすり合わせを行います。また、カウンセラー主体のクリニックでは医師に決断権がない場合もありますが、共立美容外科では医師がカウンセリングを行い、医師の判断のもと施術を行います。そのため「この患者さまに施術は不要」と医師が判断した場合は、ドクターストップをかけることもあります。
(文/児玉澄子)
共立美容外科 大阪・梅田院院長 實藤健作(さねふじ けんさく)先生 プロフィール
2004年、国立病院機構別府医療センターに勤務。
2005年、西有田共立病院に勤務。
2006年、九州大学大学院に入学。
2009年、医学博士号を取得(甲号)。同年、九州大学大学院を早期卒業し、新中間病院に勤務。
2010年、大分赤十字病院に勤務。
2014年、宗像医師会病院に勤務。
2017年、広島赤十字原爆病院に勤務。
2018年、大分赤十字病院に勤務し、第一外科副部長就任。
2021年、某大手美容クリニックに入職。
2022年、共立美容外科に入職し、翌年に大阪・梅田院の院長就任。
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