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「低年齢化で小学生も…」美容整形、医師に聞く従事者としての倫理観とは?「時には思いとどまらせるのも重要」
中高生だけでなく小学生の美容整形も…医学書のガイドラインはあくまで逆さまつ毛の治療
磯野智崇さん いまも昔も最も多いのは20〜30代女性ですが、最近は中高生が顕著に増えています。小学生が「二重にしたい」と、お母さんに連れられて来院することも珍しくなくなりました。ただ小学生くらいですとさすがに「怖くなっちゃった」と手術に至らないケースが多いのが実情です。
──小学生が整形をしても問題ないのでしょうか。
磯野智崇さん まぶたの整形については7〜8歳からできると、医学書のガイドラインに記されています。ただしあくまで逆さまつ毛の治療についての記述であり、美容目的とはされていません。また、たとえ医学的に問題がなくても、個人的には小学生に整形を積極的に勧めたくないと考えています。
──たとえ本人が強く希望しても?
磯野智崇さん それが測りかねるからです。もしかしたらお母さんに「二重のほうがいい」と勧められたのかもしれないですし、精神的にも発達段階にあるお子さんの意思を的確に判断するのは難しいものです。もちろん親御さんの考えもさまざまですから、すべてお断りするわけではありませんが、手術を“受けさせて”しまうのは避けたい。患者さんの希望を叶えるのが私たちの仕事ですが、求められたら何でもかんでもやっていては、不健全な業界になってしまうと危惧します。
──共立美容外科では「本当は必要のない施術を勧めない」ことをポリシーとしていると聞きます。不要な施術とはどのようなものですか?
磯野智崇さん 他のクリニックで「あなたは二重整形をする前に、眼瞼下垂を直す必要がある」と言われたというケースはとても多いですね。ただ私が診断してみると、眼瞼下垂では全くない。ようは不要な施術を勧めているクリニックが多いのではないかと、そこは非常に問題視しています。
悪質な美容クリニックの乱立も…「医師がカウンセリングをする」クリニックであるかが重要
磯野智崇さん 美容外科は基本的に保険適用外ですので、他の医療に比べて商業主義に走りやすい特性があります。だからこそ高い倫理観が必要なのですが、これだけ乱立すると悪質な美容クリニックも出てきてしまう。日本美容外科学会でも頭を悩ませているところです。
──良質なクリニックの見極め方はありますか?
磯野智崇さん まず第一に医師がカウンセリングをするクリニックであること。医師ではない、カウンセラーと称する人間がカウンセリングから手術の方針まで決めるのは医師法違反です。ただなかには、カウンセラーの説明の最後に医師が登場し、OKを出す。そうした法の抜け穴を潜り抜けるようなやり方をしているクリニックもあります。またそうした悪質なクリニックほど法外な料金で契約を迫ってきますし、判断力を奪うようなセールストークも巧みなんです。
──最近は驚くような低料金を提示したクリニックの広告もよく見ます。
磯野智崇さん 我々からしてみると、広告費なども含めたらどう考えても赤字にしかならない料金を提示している広告も増えました。では実情はどうなのかと調べてみると、その料金で施術しているのは多くて週に1〜2人。それ以外の来院者には「あなたのまぶたの状態ではこの施術では二重にならない」と高額の施術に誘導するケースがほとんどのようです。
──例えば、埋没法の二重整形だったら、適正価格はいくらくらいなのでしょうか。
磯野智崇さん 良質な施術を提供しているクリニックならば、10万前後から高くても30万円。それよりも安すぎるのも高すぎるのも「何かがおかしい」という感覚を、消費者の皆さんにぜひ持ってもらいたいですね。
──整形を繰り返しても満足できない整形依存症、容姿を過度に思い悩む醜形恐怖症が問題視されています。このような症例が増えている実感はありますか?
磯野智崇さん 我々のような美容整形を仕事にしている立場から言えるのは、現段階ではごく少数。バラエティ番組やネットニュースで面白おかしく取り上げられるから、顕著に増えているように見えるだけだと思います。ただ苦しんでいる方がいるのは事実ですし、私たちとしては「これ以上増やさない」という意識を強く持つことが重要だと思います。──不要な施術を勧めるクリニックが後を絶たないのはなぜでしょうか。
患者が求めるままに手術をしない、時には思いとどまらせるのも医師の仕事
磯野智崇さん 先ほども言ったように、患者さんが求めるままに何でもかんでも手術をしないことですね。カウンセリングをしっかりと行い、メンタル面に問題を抱えていると考えられる方にはより慎重に──。なかには非現実的なゴールをイメージされている方もいるので、その際には「それは無理ですよ」ときちんとお伝えし、時には思いとどまらせるのも我々の仕事です。
──美容整形が市民権を得る一方で、ミスコンが廃止になるなどルッキズムへの批判も高まっています。相反するようなこの風潮をどう捉えていますか?
磯野智崇さん 社会的に外見偏重主義に傾きすぎるのは問題だと思っています。見た目による差別があったり、あるいは過度に得するようなことはですね。ただ「きれいになりたい」という願望を持つのは自然なこと。そこまで否定してしまったら、美を追求するすべての業界が成り立たなくなってしまいます。我々の役割も個人の自己満足度を高め、その方の人生や生活をよりよくすることだと考えています。
──ちなみに先生は整形をしている方の顔を見て、すぐにわかりますか?
磯野智崇さん 鼻のプロテーゼは「入っているかな?」とわかることもあります。また天然ではあり得ない幅広の二重にされている方もわかりやすい。ただ美容整形の技術は日進月歩で進歩しており、我々でも全くわからない方が、非常に増えているということはお伝えしておきたいですね。
(文/児玉澄子)
◆共立美容外科の副総括院長・磯野智崇さんについて(外部サイト)