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マンガアプリ戦国時代、“無料”サービスのその先は? 雑誌が育んだマンガ文化延命の鍵に

株式会社カカオピッコマ 常務執行役員の熊澤森郎氏

株式会社カカオピッコマ 常務執行役員の熊澤森郎氏

 スマホでマンガを読むのは当たり前の時代。中でも手軽に読めるマンガアプリのユーザー数は、コロナ禍の2年間で2倍強にまで増えている。多くのマンガアプリは「待てば無料」や「無料チケット配布」といったサービスを推進しており、当初はマンガ業界から批判を受けもした。だが今となってみれば、無料を呼び水としたビジネスモデルは、巡り巡って業界を牽引していると言える。マンガアプリのトップランナーである『ピッコマ』に、無料モデルの可能性、紙媒体との共存が導く日本のマンガ文化の今後について聞いた。

乱立するマンガアプリ、無料サービス合戦が生み出したもの

 昨今、マンガアプリ各社が「待てば無料」のビジネスモデルを展開している。ユーザーにとってもメリットのあるサービスであり、多くのアプリが乱立する中で、差別化を図る施策としても機能している。

 とはいえ、こうしたサービス合戦は「マンガは無料で読むもの」というカルチャーを助長してしまうのでは?という懸念も拭えない。しかし、コロナ禍をきっかけにマンガアプリを含む電子コミック市場が大きく躍進している事実もある(2019年度・2989億円、2021年度・4114億円/出版科学研究所調べ)。

  マンガアプリとしては後発ながら、2021年には業界トップとなったピッコマを展開する株式会社カカオピッコマ常務執行役員の熊澤森郎氏は、「ピッコマに限らず、マンガを購入するユーザーは確実に増えています」と語る。

 ピッコマと言えば、今年のゴールデンウィークにマンガ配信サービスでは最大規模の「マンガ10億円おごっちゃいます」キャンペーンでも話題を呼んだが、そもそも「待てば¥0」サービスを他社に先駆けて導入するなど、「無料サービス」を積極的に推進してきた印象がある。無料で読めるにも関わらず、ユーザーがお金を払ってマンガを読みたくなるのはなぜなのか。

 ピッコマがサービスをスタートした2016年は、悪名高い海賊版サイト「漫画村」が跋扈し始めた時期だった。それ以前より音楽や動画など「ネットコンテンツにお金を払いたくない」文化が根付いていたことも、海賊版サイトを増長させていた原因の1つに考えられる。

 「その作品に愛着があれば、ユーザーはお金を払ってくれます。しかし逆を言えば、その作品に出会う前のユーザーに1円でも払っていただくのは難しい。まずは作品に触れるハードルを下げることが、ゆくゆくは『購入する』、さらには『単行本を買う』と、ファンを増やすことになるのではないか。そうした考えが『待てば¥0』サービスの大元にあります」(熊澤氏)

「失敗したくない」ユーザーの心理、“満足度を担保する”ことの重要性

 「待てば¥0」とは初回エピソードが無料で、読後から一定時間が経過すれば次のエピソードも無料になるサービスのこと。それを繰り返せば、時間と忍耐力次第で作品の大部分を無料で読むことも可能だ。

 しかし、面白いマンガは続きが気になるもの。さらに昨今では、アニメやドラマの「イッキ見」というカルチャーも定着している。忙しい現代人にとって時間は貴重であり、その作品が面白ければ「お金を払っても読みたい」というモチベーションも高まる。

 ピッコマのスタートから6年、現在では多くのマンガアプリが「待てば¥0」をはじめさまざまな「無料試し読み」サービスを導入している。

 「最近の生活者インサイトとして『失敗したくない』というのがあります。たとえば映画を見て面白くなかったら、その2時間が無駄になってしまったことがとても悔しい。日々忙しい中、ある程度は満足度を担保した上で、コンテンツに時間とお金を費やしたいというニーズも高まっているように感じます。アプリゲームなどのビジネスモデルであるフリーミアム(基本サービスや製品は無料、より高度なサービスや機能は課金制)の発想は、コンテンツにおいても重要になっているように感じます」(熊澤氏)

『静かなるドン』が6億円の大ヒット、IT企業のノウハウが旧作をも蘇らせる

  • 『ピッコマAWARD 2022』にも選ばれた『静かなるドン』

    『ピッコマAWARD 2022』にも選ばれた『静かなるドン』

 昨今、出版業界では『静かなるドン』の大ヒットが大きなニュースとなった。1988年〜2013年にマンガ雑誌で連載された同作だが、2020年に電子コミックで6億円の売上を記録したのだ。

 その後押しをしたのが、複数のマンガアプリで展開された「無料キャンペーン」で、ピッコマでは2020年に「100話無料」を打ち出した。とはいえ同作は全1175話であり、100話でも全話の1割にも満たない。『静かなるドン』は旧作だが、マンガアプリで初めて触れたユーザーにとっては新作でもある。ちょうど若い世代がYouTubeで往年の名曲を“発見”するように、マンガアプリには名作マンガを次世代に継承していく役割もあるようだ。

 「新旧の区別なくUI(ユーザーインターフェース)に並べることで、『静かなるドン』は読者を増やし、『ピッコマAWARD 2022』にも選ばれました。UIを効果的に編成し、ユーザーの趣味嗜好に合わせ、最適なタイミングで作品をレコメンドできるのも、IT企業のノウハウ。書店が実店舗にオススメ作を平積みするように、ここぞというタイミングで目立つところにすぐ配置できる。マンガアプリにはこうした利点がありますし、読者がストレスなくマンガを読む環境を作ることができる。無料で読まれて終わりではなく、こうした工夫で少しでも作品との出会いを増やしていきたいと思っています」(熊澤氏)

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