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大手出版社参入により電子コミック群雄割拠の時代へ 苛烈するマンガアプリ市場、鍵は「デジタルと紙の“循環”」
コロナ禍で成長が加速 レッドオーシャン化するデジタルコミックビジネスの現在地
『ピッコマ』のスタートは2016年4月。当時すでに100以上のサービスがある中で産声を上げた。「その当時のマンガアプリは10万冊以上のマンガが読めるのが当たり前でしたが、スタート当時の『ピッコマ』は80作品、出版社も日本文芸社さん、竹書房さんの2社だけという状況でした。スタートして1ヵ月、サービス全体の売上はアイフォンで1日200円、アンドロイドで0円…。これには、弊社が単行本単位の売り方ではなく“話売り”にこだわったことが壁になっていました」(金社長/以下同)
さらにピッコマのプラットフォームには広告を入れないという他社とは違う方針を打ち出していた。一般的である広告ビジネスをなぜ重視しなかったのだろう。金社長は「広告ビジネスを否定しているわけではないのですが」と前置きをしてこう説明する。「私は韓国人ですが日本のマンガが大好きです。また私自身クリエイター寄りですので絵もお話作りも演出もできるマンガ家を尊敬しています。そんなマンガをしっかり“作品”として位置づけたかった。広告ビジネスだと、マンガが集客の“道具”として利用されているような違和感を覚えたのです」
お手本は“街の本屋さん”「AIだけを使用するとどうしてもラインナップが偏ってしまう」
スマホの登場によりエンターテインメントの多様化は加速した。テレビや映画だけでなく、You TubeやSNS、ネットニュースなど。スマホが手にあるだけで何らかの暇つぶしができる。その暇つぶしの一つに短時間で読める“マンガ1話分”を提案。コアなマンガ好き以外のライトユーザーを取り込もうとしたのだ。『ピッコマ』スタート当初、他の出版社には理解がされなかった。だがこれがヒットし、現在は多くのマンガアプリが“話売り”を模倣している。
ほかに広く模倣されたサービスといえば、「待てば¥0」。これは1話読んで一定時間(ピッコマでは23時間)待てば続きの1話を読むチケットがもらえるというサービスだ。ユーザーがこれを続ければ、広告収入もないサービスなので、『ピッコマ』は永遠に収益ゼロ。何故このサービスに取り組んだのか。「別に新しいことじゃないんですよ」と金社長は笑う。
「モデルはゲームアプリの部分課金です。例えば『パズドラ』は、『ピッコマ』がスタートする3、4年前当時で1000億円の売上がありました。まずは無料で遊ぶ。その“経験”を経て楽しければ人は課金をする。つまり間口を広げて無料でサービスをしても、ハマっていただければユーザーはお金を払ってくれる。この従来の証明されたシステムをマンガアプリに導入しただけなのです」
さらに特筆すべきは新たなシステム「TSシステム」だ。『ピッコマ』には優秀なAIシステムがあるが、オススメ機能でこのAIを使う比率は70%ほど。残り30%はピッコマ独自の「TSシステム」を使っている。「街の本屋さんを想像してください。本好きやマンガ好きの店員さんが棚を工夫するだけで売上が変わるのは御存知の通り。AIだけを使用するとどうしてもオススメに出てくるラインナップが偏ってしまいます。これを“手作業”で変えています。表紙もそう。新刊が出たら、アプリ内の表紙も新刊のものに“手作業”で変える。また、新刊や1巻目だけじゃなく30巻あれば30巻分、“手作業”で表紙をコロコロと変える。そうすることで興味を持ってもらえるんです」
つまり「TSシステム」の「TS」とは“手作業”の頭文字。街の本屋さんの手法を導入したものだったのだ。