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桝アナ転身で「良いこと尽くし」、“同業”研究者芸人が語る“研究”と“実践”の乖離

黒ラブ教授

  • サイエンスコミュニケーター兼大学の先生芸人

    サイエンスコミュニケーター兼大学の先生芸人

 3月末で日本テレビを退社する桝太一アナウンサー。『ザ!鉄腕!DASH !!』など番組出演を継続しながら、同志社大学ハリス理化学研究所の専任研究所員(助教)として「サイエンスコミュニケーション」の研究に携わっていくことが話題だ。突如注目を集めたこの研究分野だが、実は桝アナのように“研究”しながら“実践”もする人は稀だという。この転身を「いいこと尽くし」と語る、吉本興業唯一の“サイエンスコミュニケーター芸人”として活動する黒ラブ教授に、その理由と日本の研究者たちの抱える発信力への課題について話を聞いた。

“同業”から見た驚きと期待 「研究と実践を両立できる人材、あまりいない」

∞ホールでのライブの様子

∞ホールでのライブの様子

 吉本興業唯一の“サイエンスコミュニケーター兼大学の先生芸人”として活動する黒ラブ教授。現在は、大学で講義を持ちながら、ウイルスを早期に検出する研究、東京大学情報学環研究員としてサイエンスコミュニケーション研究、国立科学博物館認定サイエンスコミュニケーター、そしてお笑い芸人として活動している。

 「サイエンスコミュニケーションとはそもそも、“科学をわかりやすく伝える”ことを言います。大きく“学術(研究)”と“実践”の2つに分かれていて、なかでも実践する人のことを「サイエンスコミュニケーター」と呼びます。わかりやすい例では、科学館で一般向けにレクチャーする人です。また一般の方へ伝えるだけではなく、分野の違う研究者に知識を伝えるという役割もあります」

 サイエンスコミュニケーションという名称にまだまだ馴染みもない人も多いだろう。実はこの研究が日本で本格的に始まってから17年ほど経つという。しかし、そもそも存在を知られていないという現状をずっと抱えてきた。

 「まず一般の方に限らず、他分野の研究者のなかでも認知が広まっていないことが課題でした。それが今回、桝さんがきっかけとなり、Twitterでトレンドとなるなど突然話題となりました。それだけでも画期的なことですし、同じ分野を研究する者として嬉しく思っています。ほかのサイエンスコミュニケーションの研究者たちも同じ気持ちじゃないでしょうか」

 さらに、サイエンスコミュニケーションに携わる人の中でも黒ラブ教授や桝アナのように、“学術”と“実践”を両立する人は稀だという。「この研究をしているからといって話が得意だというわけではありません。今回の桝さんのように学術的に研究をしながらサイエンスコミュニケーターとして活動する人は貴重な存在で、今回の彼の転身は我々にとっては“良いこと尽くし”です」

日本の研究者の課題 「社会に向けてわかりやすく伝える練習をしてきていない」

 まだ一般的には知られていない分野ではある一方で、実はSDGsへの意識の高まりとともにサイエンスコミュニケーションが注目を集めているのも事実だ。黒ラブ教授の場合も、コロナ禍以前には年間100件を超える講演に出演するなど需要を感じているという。

 しかし、特に科学館のような「科学を学びにきた人」に向けた活動だけでなく、黒ラブ教授や桝アナのようにエンタメの領域で、「科学に興味があるとは限らない幅広い層」を対象にした活動の担い手は貴重だ。「科学嫌いの人たちにあえてアプローチをすることで、科学に興味をもつ人の裾野を広げていけます。そうすることで、日本の科学技術の発展に貢献していきたいです」

 エンタメとして専門性の高い科学知識を伝えることには、もちろん難しさも感じているという。「もちろんお笑いい”があるのが正解です。ですがネタ中で、研究の本質を伝えるところは譲れない。試行錯誤の繰り返しですが、そのため、研究分野の研究者にインタビューした上でネタを作成しています」

 なかにはお笑いで科学を扱うことに、抵抗を感じる研究者たちもいる。その背景には、お笑いでの研究者の扱われ方も少なからず関係しているという。「“笑いにされたくない”という声を聞いたこともあります。というのもひと昔前では、お笑いで研究者ネタというと“オタク”というイメージに基づいたキャラクターでバカにされることが多かった。ですが、ネタを見てもらって、そうしたお笑いではないことを理解してもらうことで研究者の協力いただいています」

 また、わかりやすく科学を伝えること自体に消極的な研究者が多いのも現状だ。「日本の研究者は、社会に向けてわかりやすく伝える練習をしてきていないんですよね。なので、簡単に伝えることに労力がかかってしまう。加えて、どこかで“自分が何年、何十年と積み上げてきた知識なんだから、そう簡単にわかるわけがない”、“わからないなら自分で勉強して“という空気があるのも活動しながら感じています」

 しかし、それでは後進が育っていかないと危機感を抱える。「そのまままでは、人を寄せ付けない”嫌われ科学“になってしまう。なので、お笑いでも、大学の授業でも、研究でも、可能な限り”不真面目な要素“を大事にしています。まずは親しみを持ってもらうことが大事です」

科学不信からはじまった対話研究、日本では“理系離れ”食い止める希望に

 そもそも現在のサイエンスコミュニケーションは、人々の“科学不信”が噴出したことの危機感から生まれた研究だという。1990年代のイギリスで狂牛病の問題(BSE問題)が論じられるなかで、社会の科学への不信感を解消する手段として、“対話”を強調するサイエンスコミュニケーション研究が盛り上がるようになった。

 一方、その頃日本では“理系離れ”が問題視されるようになり、これを背景にサイエンスコミュニケーションが取り上げられるように。また、科学技術なしには社会が成り立たなくなった現代において、科学を文化に根付かせることの重要性が語れるように。そうした中で、一般の人との対話を重視するサイエンスコミュニケーションが注目されていった。こうしたいくつかの事情を背景に、日本では17年前の2005年よりサイエンスコミュニケーター養成制度が開始するなど研究と実践を積み重ねてきた。
 
 「この分野に携わる方の動機は、本当にさまざまです。私の場合は、“理系”を増やしたいという思いが強いです。現在、大学進学でいわゆる“理系”を選択する人は全体の3〜4割だといわれていますが、裾野を広げて科学技術を発展させたいと考えています」

 これから益々、存在感を増していくだろう「サイエンスコミュニケーション」。そうした中で、サイエンスコミュニケーターとしても異色の経歴を持つ桝アナには、大きな期待が寄せられている。「現在、実践に近い学術研究で論じられるテーマの多くが、イベントアンケートのデータ分析や、養成講座の成果分析などです。私も研究を進めるなかで、“コミュニケーション”という目に見えないものをデータにして証明することは難しく感じています。だからこそ、桝さんがキャスターとして実践を積み重ねてきたなかで感じてきたことなど、ぜひ論文で読みたいですね」

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