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『空耳アワー』の全作品を網羅…30年に渡る独自研究から導き出した、採用勝ち取る“6つの傾向”とは?

 今年10月、放送40周年を迎える『タモリ倶楽部』の名物コーナーで、7月に放送30周年を迎える『空耳アワー』。外国語で歌われているのに日本語のように聞こえる“空耳”ネタが、これまで数多の爆笑を生み出してきた。同コーナーを、放送当初から研究し続けているのが、「空耳アワー研究所」。これまで放送された膨大な作品に番号を付けて管理。それをまとめた同人誌『空耳アワー辞典』は何度も改訂され、コミケ界の隠れたロングセラーとなっている。所長であり、自らも空耳投稿者である川原田剛氏に、探究心の源や、これまでの研究成果から導き出した“高評価”作品の傾向などを聞いた。

『空耳アワー』放送開始前から“空耳”を発見 マイケル・ジャクソンの曲に衝撃

 川原田氏が“空耳”の魅力にとりつかれたのは、『空耳アワー』の放送がスタートする10年以上前、まだ子どもの頃のことだった。

「幼少の頃から親が集めていたアナログ盤を聴くのが好きで、当時マイケル・ジャクソン、ビートルズ、サイモン&ガーファンクル、ピンク・フロイドなどの洋楽をよく聴いていました。そこでマイケル・ジャクソンのアルバム『スリラー』に収録されている『P.Y.T. (Pretty Young Thing)』のサビの部分が、日本語の「鼻の穴」に聞こえることに衝撃を受け、何度もレコードの針を戻して聴いていたのが、今思えば“空耳”との最初の出会いかもしれません(ちなみに、この“空耳”は数年後、他の人によって『空耳アワー』で採用)。そうやって他の曲からもたくさんの“空耳”を発見し、個人的に楽しむようになりました」

 洋楽を一風変わった方法で楽しんでいた同氏。そして1992年、以前から観ていた『タモリ倶楽部』の新コーナーとして『空耳アワー』がスタート。その衝撃と喜びが、データ化を始めるきっかけとなった。

「初回の第一印象は、『ヤバい!“空耳”に映像をつけたら、面白さが何倍にも増している!! 革命的な企画だ!』でした。作品をコンプリートしたいという衝動に駆られ、番組の録画を始め、その中でもお気に入りの曲が入ったCDを効率よく購入したりレンタルするために、作品をルーズリーフに書き留め、データ化するようになりました」

コミケ出展は「コアなファン」に出会うため 情報交換が『辞典』のブラッシュアップに

 当初は個人的にデータを集めていた川原田氏だったが、データがたまっていくなかで、友人からコミケの存在を教えてもらう。コミケのなかの“評論・情報”というジャンルに当てはまるのではないかと考えた同氏は、1996年、そのデータを製本し、「空耳アワー研究所」の名のもと、同人誌『空耳事典』(現・空耳アワー辞典)としてコミケに初参加。以降、数年に1度の割合で新刊として増補改訂し、そのたびに「自分だったら放送では紹介されていないこういう付加情報が欲しい」というデータを加え、“研究所”ならではの情報を盛り込んできた。

 例えば、“空耳”が収録されているCDを効率よく収集できるよう、品番を最新のものへと更新したり、極力少ない枚数でCDを収集できるような組み合わせを考え、掲載するなどの配慮もその一つ。今後は、各アーティストの公式ミュージックビデオ動画のURLをQRコード化して掲載することも構想しているという。

 だが、「個人的な趣味の範囲での収集から始まっているところもあり、特に研究しているという感覚は当初からない」と語る川原田氏。同人サークルの“研究所”を立ち上げ、同人誌を出し続けているのは、「コミケ会場で『空耳アワー』好きの方々に出会ったり、情報交換したり、交流がしたい」という思いから。しかし、その根底にあるのは、単に気の合う仲間を増やしたいという親和欲求ではなく、熱く深い『空耳アワー』愛と探求心だ。

「コミケで年に2回、コアな『空耳アワー』ファンに会えるというのは、Webでは得ることのできない唯一無二の刺激があります。コミケでは、『空耳アワー辞典』に込めた思いを直接説明したり、いろいろな人から意見を聞いて、辞典の内容をブラッシュアップしたりしています」

 昨今のコロナ禍から、一昨年末、昨夏はコミケ自体が開催中止に。それでも昨年末に東京ビッグサイトで行われた『コミックマーケット』には、久しぶりにサークル参加し、ファンと交流した。

「参加人数、行動範囲などが制限されていましたが、新刊を扱うサークルも多かったですし、各参加者の内に秘める思いは感じられました。逆に評論を扱うジャンルではこの中止期間に研究が進んだ(?)のかもしれません。近い将来、制限なしで開催されることを切に願うとともに、多大な困難を乗り越え、多様な表現の場を提供することに尽力された、コミケ運営の方々には感謝しかありません」

プリンスが『農協牛乳』を愛飲? 妄想力をかき立てる“違和感の心地よさ”

 そうやって気づけば30年。今では「“空耳アワー沼”から這い出せなくなるくらい溺愛している」と笑う川原田氏。そこまで深く『空耳アワー』に魅せられているのはなぜなのか? その理由の一つを、「知っている人だけが楽しめる洋楽の賞味法」と表現する。

「別に知らなくても洋楽を100%楽しむことはできますが、知っていると105%程度楽しめたりします。一方、この大勢に影響のないような5%がなかなか曲者で、一度“空耳”を知ってしまったら、知らなかった頃の感情で曲を聴くことができなくなるという“強烈な副作用”もあります。ある種、“諸刃の剣”のような禁断の賞味法かもしれません」

 その代表例として川原田氏が挙げてくれたのが、マイケル・ジャクソンの『Smooth Criminal』のイントロ部分の「パン 茶 宿直」と、プリンスの『Batdance』の「農協牛乳!」。どちらも年1回、その年の最優秀作を決める『空耳アワード』でグランプリを受賞し、ファンの間でも語り継がれる傑作だ。

「『空耳アワー』の面白いところは、“アーティスト側が意図していない突拍子もない日本語が突然聞こえるところ”と“映像のインパクト”の融合。あのマイケル・ジャクソンが、学校の“宿直”制度について熱く気持ちを込めて歌っているとか、プリンス本人が毎朝自宅で飲む『農協牛乳』を称えるための歌だったと妄想すると面白いし、スーパースターが急に身近に感じられるじゃないですか。さらに、人の言語を司る脳の機能の違和感の心地良さというか、いつも聴いている曲に裏切られた衝撃も『空耳アワー』の醍醐味だと思います」

 その一方で、深い愛ゆえの、ありがたくない(?)副産物もあるようだ。

「洋楽は常にニュートラルな感情で聴いているのですが、一度“空耳”を知ってしまうと、それ以降、突然、何の前触れもなく、その部分だけ日本語に聞こえてしまうのは厄介です。なので、(『空耳アワー辞典』は)純粋な洋楽ファンやアーティストの立場から考えたら、作品に多大な影響を与えかねない意図的な楽しみ方を本にして普及している可能性があり、少しだけ気が引けます(苦笑)」

高評価作品の潮流は「勢いのある単語単発系」から難易度が高い「長文系」へシフト

 30年間、『空耳アワー』を研究し続けてきた川原田氏に、番組で、高評価がくだる空耳作品の傾向について聞いてみた。

「1.サビの部分に“空耳”がある系、2.シャウト系、3.ささやき系、4.連呼/繰り返し系、5.長文系、6.映像のインパクトの6種類があるように思えます。番組放送当初は勢いのある単語単発系が主流でしたが、最近では発見の難易度が高い5の「長文系」が増えてきている傾向があります。6については以前まで投稿者側が関与することができませんでしたが、動画投稿枠が新設されたので、自信のある方は試してみるといいかもしれません」

 また、30年にわたるデータ管理から、こんな発見も教えてくれた。

「“空耳”を輩出するアーティストは、やはり日本語に似た発音で歌う独自の癖のようなものがあるので、常連アーティストの楽曲から効率よく見つかったりします。Rainbowのベストアルバム『The very best of Rainbow』は16曲中、15個の“空耳”が採用されていますが、野球に例えると16打数15安打(9割3分8厘)なので、なかなかの空耳含有率だと思います」

 2018年までの27年間をまとめた『空耳アワー辞典』では、アーティスト別採用ランキングも調査・掲載。2018年の時点での1位はクイーンで54回、2位はメタリカで42回、3位はプリンスで37回となっている。

 しかし、番組を見ていて思うのは、30年も続いているのだから、有名曲からはもう出尽くしただろうと思う頃に、目からウロコな作品が投稿されることだ。それについて、川原田氏はこう分析する。

「若いリスナーが柔軟な思考のもと、偉大な名曲に対して固定観念なしに聴いているのと番組制作者側もみんなが知っている超有名な曲にこんな日本語が隠されていたことを多くの人に伝えて驚かせたいという思いが合致した結果だと思います。実際、誰もが知る有名な曲が採用されたときの、『やられた!』感は強烈なインパクトです」

 そして、『空耳アワー』が長きにわたり続いている最大の要因には、MCのタモリにあると川原田氏は評価する。

「タモリさんは『ハナモゲラ』『4カ国親善麻雀』『つぎはぎニュース』『インチキ牧師』など言語系お笑いの第一人者なので、『空耳アワー』を進行し、作品を評価する役目は日本で一番の適任者だと思いますし、タモリさんがやる“空耳の歌い方ものまね”も、『空耳アワー』の魅力をより引き出していると思います。安齋肇さんの立ち居振る舞いや柔らかでニコニコした面持ちも然りです。長く続く要因はそういう細やかな奇跡が合わさったところにあると思います。私は洋楽ファンであり、『空耳アワー』のファンである前に、タモリさんの大ファンなので、ここまで空耳アワー研究所を長年やってこられたのも間違いなくタモリさんのおかげです」

 最後に『空耳アワー』の今後について聞いてみると、愛溢れる表現で、こんなふうに語ってくれた。

「まったくわかりません。空耳動画の投稿が主流になるかもしれませんし、そうならない可能性もあります。音楽系サブスクの普及で画期的な何かが起こるかもしれません。タモリさんの名言に『行き当たりバッタリが一番』というのがありますが、まさにその通りだと思います。将来、どんなフォーマットに変わろうとも“空耳”の魅力は普遍的なものだと信じています」

文/河上いつ子

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