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大谷選手がつないだ命…心臓病と闘った“翔平ちゃん”、子どもたちを救うため母が願うこと「ドナー登録のイメージが変われば」
手記にこめた感謝、「心臓移植の厳しい現状を知っていただくことで何かが変わるかもしれない」
「最初に出版社の方から執筆のお話をいただいたときは、正直悩みました。大谷選手とは一度しかお会いしていませんし、息子は亡くなってしまっている。私たちが何を語れるのだろうと自問自答しました。ただ、出版社の方の熱意と、印税の一部を心臓移植を待つ子どもたちを支援する団体に寄付するという提案もいただき、何か自分にもできるのかもしれないと考え直したんです」。
執筆すると決めてからは、静葉さんのなかで伝えたいことが明確になってきた。
「声をかけていただいたきっかけは大谷選手の活躍だと思うのですが、私が一番伝えたかったのは、まずは翔平に携わってくれた方への感謝の気持ち。そしてもう一つあるのは、心臓移植の厳しい現状について、少しでも多くの方に知っていただきたいということでした。資金面はもちろん、そこがクリアされてもさまざまな条件が揃わないと助かることが難しいということ。私自身は何もできない小さな人間ですが、多くの人に事実を知っていただくことで、何かが変わるかもしれないと思ったんです」。
変ってほしい、そう静葉さんが願うことに、ドナー登録のイメージがある。
「移植待機をすることに対して、『人の死を待っているのか』という批判もあります。それに伴ってドナー登録にも、あまりプラスのイメージを持たない人が多いと感じています。もちろん、逆の立場に立てば、ドナー登録にイエスと言えない家族の思いも痛いほどわかります。ただ、ドナーがいなければ、移植を待つ人の命は救えない。私の友人にも翔平と同じ病気でドナーを待っている方がいますが、決して良い健康状態ではないなかで、すでに待機日数が1000日を超えています。そこが少しでも変わってくれれば…という思いはあります」。
翔平ちゃんは天国に旅立ってしまったが、翔平ちゃんや家族の頑張り、さらには大谷選手の励ましは、のちに二人の幼い少女の命を救うことになった。翔平ちゃんのために集められた募金は、みうちゃん、ゆいちゃんという女の子のアメリカでの心臓移植のために使われたのだ。
「翔平が残念なことになったあとも、同じように苦しんでいる子の救いになれば…という思いは『しょうへいくんを救う会』に参加した方々の総意でした。とにかくこの病気は一刻を争うことが多い。二人の女の子が手術を受けられて、本当に良かったです。現在、同じくアメリカでの心臓移植を目指す男の子を支援する『ゆうちゃんを救う会』でも活動が行われています。みなさんに広く知っていただくことで、ゆうちゃんへの支援が集まればと思っています」。
弟の子育てに思う「生きているだけでも幸せ」、大谷選手は「一生スーパーヒーロー」
「以前からファンだったのですが、お会いしてからは、こちらの一方的な思いですが、本当に特別な存在になったと思っています。特に今年は大活躍されて、テレビやニュースで大谷選手を観る機会がたくさん増えました。そのたびに『翔平はこの選手と会ったんだな』としみじみ思うことがあります。皆さんにとってもそうだと思いますが、私たちにとって、これからどんなことがあっても、大谷選手は一生、スーパーヒーローです」。
今後も微力ながら、病と闘う子どもたちの支援を続けていきたいという静葉さん。
「翔平の弟が生まれ、ありがたいことに元気に成長してくれています。翔平は家に戻ってくることができませんでしたが、いま普通に子育てをしていても、本当に大変なことが多いなと実感しています。そんなとき、翔平とは一緒に寝たり、お風呂に入ったり、ご飯を食べたりすることができなかったぶん、ふと『生きているだけでも幸せなんだ』と感じることがあります。そんな些細な幸せを感じるからこそ、これから多くの子どもの命が救えるようになればいいなと思います」。
コロナ禍でギスギスした世の中になりがちだが「共に生きる」ということに寄り添えば、多くのことは好転する。大谷選手が翔平ちゃんに向けた優しい視線のように…。静葉さんはそんな思いも本書に込めたという。
(文:磯部正和)
『翔平選手と翔平ちゃん 奇跡のキャッチボール』
光文社 刊
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