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コロナ禍で収入激減… 現役漁師わずか10人、瀬戸内海離島の過疎化救いたい“漁師YouTuber”の挑戦
飲食店への出荷量激減で収入が3分の2に YouTube開設するも、最初は結果が出ず批判も…
「出荷される魚は、スーパー向けと飲食店向けがあります。外出自粛により飲食店の営業規制がかかると、飲食店向けの魚が全く売れなくなり、バナナの叩き売り状態になっていました。その結果、収入は3分の2程度に減りました。きっと他の漁師さんも同じような感じだったと思います」(瀬戸内海の漁師まさとさん、以下同)
魚がたくさん獲れても、売れない。かと言って、状況が落ち着くことをじっと待ってはいなかった。
前述の通り、コロナ禍でYouTuberのジャンルは各段に広がり、日々アップロードされる動画の数も飛躍的に増えた。瀬戸内海に浮かぶ離島の地で初めて動画制作に挑んだ漁師が、無数のコンテンツの中から選ばれるチャンネルにまで成長させるのは容易ではない。なかなか結果が出ない中、“漁師たる者、漁をすべし”という批判の声も一部あった。風習や伝統を重んじる文化の中で、新しい物や挑戦に対する反発は珍しいことではない。
「最初は安易な気持ちでやってみたものの、全く再生回数が伸びなくて…。とにかくあらゆるYouTuberの方の動画を研究して、漁師の自分だからこそできること、自分にしか発信できないことを模索して、じわじわと視聴回数を伸ばしていきました。日頃から、頭の中はいつも1人企画会議です(笑)」
YouTubeを見た青年が漁師を目指し定住! 高齢化する離島の漁師界に一条の光差す
「動画を見てくださった方から、よく『漁師になりたいです』というメッセージがくるようになったんです。中でも彼(サツキ)は、『漁を見学させてください!』と自分で旅館を予約して直接会いに来た。彼が突然現れて正直戸惑いましたが、嬉しかったですね。その行動力と情熱に応えたいと思ったし、大島の人口の減少や漁師高齢化問題の解決に一役買えるかなと思い切って、彼を雇うことに決めました」
サツキさんが訪ねてきたところから、新弟子となり漁の指導を行う様子も撮影を行い、動画として発信。まるでドキュメンタリーのような展開に、「サツキ君頑張って欲しい」「若者が挑戦する姿に感動しました」「これからがめっちゃ楽しみ」などと数多くの反響が寄せられた。
「これまで漁の経験が一切ない青年を雇って指導するのは想像以上に大変ですが(笑)、組合の中で31歳の自分が最年少で、60代、70代もいまだ活躍しています。漁師業を若い世代に継承していくためには、やっぱり稼げるか稼げないかが一番大きい。稼げれば、時代に合わないようなこの仕事にも夢を持ってくれる若い子達が少なからずいると思います」
若者継承のため「稼げる業界にしたい」 直送便立ち上げ、新たな特産品作りにも着手
「僕が獲った魚は、通常のルートでは県外の方は食べていただく事は出来ないんです。より多くの人に大島の魚を食べてもらいたいという思いで始めました。すると2日間で全国各地から100件以上の注文があって、対応が追い付かず、なくなく販売休止せざるを得ないほど、予想以上の反響がありました」
次なる一手は、『海底熟成酒』を考えている。一定の温度や湿度が保たれている環境が求められる熟成において、海底はうってつけ。漁師ならではの漁業権を生かし、日本酒やワインといった地酒を熟成させるのだ。一説によると、海中には波や音、生物の活動による細かな振動が絶えず発生しており、それがお酒の熟成を促進させる効果があるといわれている。当然、同じ海底でも地域によって微振動の具合や環境が異なるが、それによる差がそのまま地域の味わいとなる。まさとさんの挑戦が、大島に若者を呼び込むだけではなく、新たな特産品を生むかもしれない。
「僕の同級生はもうほとんど島外に出ていて、若者はどんどん減っています。でも、直送便を立ち上げて改めてそういった声を数多くいただきましたが、大島で獲れる魚は本当に美味しいし、人も温かくて、美しい景色に溢れた島なんです。僕が漁師として今があるのは、色んな人の支えや協力があったからこそです。だから、地元に恩返しをしたり漁師の魅力を伝えたりできるのであれば、何でもしていきたいです」
まさとさんにとって、YouTubeはいまや生きがいになっている。
「とにかく楽しいです。色んなことを挑戦する場所にもなっていて、もうYouTubeがない生活はありえないですね。ぶっちゃけ、魚を獲ろうと思えば誰にでも出来ます。ただ、僕の動画は僕にだけしか作れません。だからといって漁師もやめるつもりはありません」
漁師とYouTube、意外にも思われた組み合わせだが、自然と都会を結ぶ新たな定番ツールとなるかもしれない。
YouTubeチャンネル:瀬戸内海の漁師まさと