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「裾野が広がれば、あぶれる人たちが必ず出てくる」限界を抱え働く風俗嬢の切実な現状
20日間働いて10万円の稼ぎということも「お客さんがついてこその世界」
これまで1000人以上の風俗嬢に取材してきた小野一光氏は、現代社会で女性たちが抱えている“生活の現実”を話してくれた。「風俗=高収入、稼いだお金はホストで使っているんじゃ…というイメージがいまだにあるんです。でも、そんな女性はごくごく一部。身の回りの生活のために必死な方がほとんどです。20日入っているけど、10万円にしかならない方もいる。出勤しただけではお金にならず、お客さんがついてこその世界ですからね」。
例えば、1日待機して1本(お客1人)ついても、一番安いコースであれば女性に入るのは4000円〜5000円程度にしかならない場合も。そういう客が1日に2人いたとしても1万円。客がつかない日もあるかもしれない。「稼ぎは、子どもの水着を買ったり、林間学校の費用に使った」「どうせもう汚れているから、カネになるセックスをしたほうがいい」と、小野氏が風俗嬢への取材をまとめた著書『限界風俗嬢』(集英社)には、風俗業界で働く女性たちの本音が切実に綴られている。
「人というのは秘密を抱えていたくない存在」淡々と話す女子大生風俗嬢に驚き
「彼女を搾取していたのは、彼女と年齢はさほど変わらない地元の先輩でした。その人はスポーツ万能で成績も優秀。ごくごく普通に社会に溶け込んでいる人だったんです。そんな人がひどい行為をして、何もなかったかのように今も生活している。現実社会にはちょっとした印象では分からないものが潜んでいると感じました。表立って“悪”が見えないぶん、とてもたちが悪い。そういう世界に、小学生という年頃から関わっていて、よくぞ生き続けてくれたと…。アヤメさんは、自分の過去を客観的に淡々と語る子でした。置かれた状況をあそこまで冷静に分析できる人は少ないと、取材を進めたなかでも印象に残っています」
その女性は、自身の生い立ちだけではなく、通っている大学名、父親の職業なども取材で明かしてくれたという。なぜ、そこまで取材で話をしてくれるのか。小野氏は「結果的に人というのは秘密を抱えていたくない存在なのではないか」と分析する。
「秘密は、どこかで口にしたいと思っている。ただしそれを誰にでも口にしてしまうと、自分が不利益になるかもしれない。なので、取材する際は“相手の生活圏に入らない存在である”と提示するようにしています。風俗嬢の取材は、僕が担当していたスポーツ紙の連載から始まりました。当然、その1回の取材ではお店のアピールにつながることしか聞けないので、何かを話したそうだな、抱えていそうだな…と思った方には、個別に話を聞かせていただけないかと声をかけ、取材を進めていきました。新たな取材の場でも、こちらから聞き出そうとはせず、相手が言いたいと思ったことを聞くように。僕が相手の生活圏に決して近づかない存在と分かってもらえているからこそ、負い目を抱かずに話してもらえると思っています」
風俗で働く女性たちの背景に「社会を見ている気がしていた」
「昔に比べて、社会の許容度、認知度があがった部分はあると思いますが、地位が低いことには変わりない。立場が確立されていないですよね。行政からしてみても、後回しになっている。働いている彼女たちこそ支援が必要だと思います。
例えば、アダルトビデオの業界では、女優になりたい方が増えている側面もあります。でもアダルト業界も同様に、昔と比較すると考えられないくらいギャラは安くなっています。昔だったら単体で主演できた女優さんが、企画ものに出ざるをえない状況がある。そういう意味で、裾野が広がって全体がレベルアップすると、そこからあぶれる人たちが必ず出てくる。思うように稼げない人は増えていて、風俗にもその流れがあります。ライフラインを確保するための“仕事”なのに、そこで成り立たない。イメージとして、男性のために必要とされてきた風俗ですが、現在は働く女性にとっても必要なもの。そんな要素が強まっています」
事業者たちはあくまでビジネスとして働く女性たちに接しているため、“声なき声”を拾い上げる存在足り得ない。サポートできる行政の仕組みも不十分なままという現状がある。小野氏は「僕にできるのは、話を聞いて、助言をするくらいだった」と取材時を振り返る。
「彼女たちから話を聞くことは、僕にとって社会の窓。彼女たちの背景に社会を見ている気がしますし、そこから今の社会が抱えている問題も見えてくると思っています。それに問題は、彼女たちが関わっている男性側にもある。彼女たちがこれまで味わってきたことや話すことから、女性だけの問題ではないことも浮き彫りになればと思います。
僕が取材したエピソードは、啓蒙になる話ではないですが、少しでも彼女たちがラクになればと思ってやっていたところがあります。心にあるものを、吐き出せる相手になっていたいという思いでした。連載の仕事が終わってしまったので、これから風俗関係の取材をする場をどれだけ持てるかは分からないですが、今後もジャンル等区別せずに執筆活動を続けていきたいと思います」
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