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“アフター東京五輪”にどう向き合う? 選手のメンタル、SNS批判…残された“傷跡”
“鈍感”になることは危険、「五輪や競技の楽しさがなくなってしまった」という選手も
「今回の東京五輪は無観客で開催されましたが、以前ブラジルで行われたサッカーW杯を現地で観た際、わざわざ日本から応援に来たファンの中に、とにかくひどいヤジを飛ばす人がいました。大きなスタジアムなので聞こえないと思う人もいるかもしれませんが、選手に聞くと『けっこう聞こえてイラっとします』と言います。叱咤激励の意味もあるのかもしれませんが、観る側もリテラシーを持ち、ヤジではなく肯定的な言葉の応援で選手を強くしてあげて欲しいと思います」。
ヤジや誹謗中傷など、“負の攻撃”に対して「受け流して“鈍感”になりなさい」とアドバイスする人もいるというが、それは危険だと警鐘を鳴らす。
「相手が誰かもわからないSNSなどの誹謗中傷に関しては、そうせざる得ないと思います。ですが、“ネガティブな感情に鈍感になる”という捉え方には、実は心理学的に見えないリスクを伴います。いろんなストレスを感じないようするために自分の感情に鈍感になりすぎると、今度は知らず知らずうちにポジティブな感情にも鈍感になってしまい、喜びなどの感情も感じにくくなります。すると、『自分はなぜスポーツをするのか?』という意味すら見失うことになります。
実際、ある選手は『苦しくてもとにかくやるしかない!としか思えなくて、五輪や競技の楽しさがなくなってしまっていた』と言っていました。それが、知覚のできないスランプや燃え尽き症候群につながります。心を守るために感情を凍結させるのはいいですが、どこかでしっかりと溶かして回復させる必要があります。これは選手だけではなく、ストレスと闘う一般の方にも言えることです」。
スポーツ界の縦社会を打破するSNS、「五輪を国際ディスカッションの場に」
「より良いパフォーマンスをするために、ドイツの選手たちがとった行動は、とても良いことだと思っています。今はSNSなどで選手や観客、誰もが意見を言えることで誹謗中傷が生まれるリスクはもちろんあります。でも一方で、自由な発言は、これまで日本のスポーツ界にあった縦社会的な息苦しさを、よりフラットな方向に導いてくれるものになると思うのです。とくに選手たちが、自分たちのメンタルに寄り添い、しっかり声を上げることができれば、きっとすべてがより良い方向に進んでいくはず。その考えを、世界の人々も支持しています。
五輪はスポーツの祭典ではありますが、一方で、こうしたさまざまな課題を提起する、市民参加の国際ディスカッションの場でもあると思います。今回の五輪が一つのきっかけになって、多くの人がどうすれば自分たちの心をより豊かに、より良くしていけるか? を考えていくことが大切なのだと思います。それが、これからの私たちが向かい合う“アフター東京五輪”の始まりなのだと思います」
(文:磯部正和)
【プロフィール ※前編・後編それぞれに記載】
心理カウンセラー:浮世満理子(うきよ・まりこ)
全心連公認上級プロフェッショナル心理カウンセラー/メンタルトレーナー。大阪府出身。『アイディアヒューマンサポートアカデミー』学院長。『一般社団法人全国心理業連合会』代表理事。アテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロと五輪四大会にメンタルトレーナーとして帯同。トップアスリート、芸能人、企業経営者などのメンタルトレーニングを手掛ける。『週刊まるわかりニュース』(NHK総合)などメディア出演のほか、著書多数。