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「オレハマッテルゼ」「オマワリサン」、親子二代にわたる“珍名”競走馬への飽くなき情熱「実況アナ泣かせの珍名も…」

 今年6月、『エヴァ』と名付けられた競走馬の画像に「そんな…いきなり乗れるわけないよっ……!!!!!」とコメントが添えられたツイートが5.6万いいねを獲得した。競走馬というとさまざまな名前があるなかでも、『イヤダイヤダ』『オレハマッテルゼ』『ビックリシタナモー』など一度聞いたら忘れられないインパクトの、笑いを誘うユニークな名前の馬=「珍名馬」が存在。競馬ファンのみならず多くの人たちを楽しませてきた。そんな珍名馬界のパイオニアといえるのが馬主の小田切有一氏。数々の珍名馬を生み出してきた氏の流儀を引き継ぐ息子の光氏に、珍名馬にまつわるエピソードや、“名付け”に込めた願いを聞いた。

「『モチ』が伸びてきた〜!」当初は周囲からは非難の声も…逆境からスタートした珍名馬の歴史

 「モチが粘っている!」「モチが伸びてきた!」「モチが詰まってきた!」「逃げる逃げる、オマワリサン!」「オマワリサン、逃げ切ってゴールイン!」。これらは実際に競馬場で繰り広げられたレースの実況中継。競馬史上に残る“迷実況”を生み出したのは、名付け親である馬主の小田切有一氏だ。

 氏が競馬界で「変わった名前を付ける馬主」として、多くの人に知られるようになったのは、86年にデビューした『ラグビーボール』がきっかけ。右へ左へ急に動く姿がラグビーボールのようだと思い名付けたそうなのだが……。

「馬にボールの名前を付けるなんてと、当時は非難ごうごうだったそうです。でも父はまったく動じず、むしろ『何がいけないんだ』と言って、その後もユニークな名前を付け続けました」(小田切光氏/以下同)

 有一氏のそのこだわりの根底にあったのは、ファンへの思いだった。

「いち競馬ファンとして馬券を買っていた20代の頃、新聞に並ぶ馬の名前を見て、『もっと面白かったらいいのに』と思っていたそうです。30代半ば頃、自分が馬主になったときに、『競馬ファンがいるから自分は競馬に携わることができる。だから、ファンに楽しんでいただくために、面白い名前を付けよう』と決めたそうです」

「実況がややこしい」と審査で落選、実現しなかった“幻の珍名”とは?

 以来、『モグモグパクパク』『カミサンコワイ』『イヤダイヤダ』『マズイマズイウマイ』『オレハマッテルゼ』『ホンマカイナ』など、次々とユニークな名前を命名。それらの競走馬は、ファンから愛着や親しみを込めて「珍名馬」と呼ばれるようになった。

「子どもの頃、家で父が考えた名前を聞いて、母と姉と3人で『おかしいからやめたほうがいい』と言うことはよくありましたね(笑)。我が家で一番、ブーイングが大きかったのは、『アシデマトイ』かな。父としては“足手まとい”という名で速かったら面白いという考えがあったみたいなんですけど、結局、名前の通り、全然勝てなくて(笑)。でも父は、ファンに遊んでもらえたらいいという考え方だったので、勝敗はまったく気にしていませんでした」

 競走馬の名付けには、アルファベット18文字以内(国際協約)、カタカナ2文字以上9文字以内というルールに加え、功績を残した著名な馬の名、G1優勝馬の名、父馬・母馬の名、宣伝目的の名、公序良俗に反する名は付けられないなど、細かい制約がある。有一氏は、その制約をかいくぐり、人が思いつかないようなインパクトのあるものや、笑いを誘う名前だけでなく、初めて馬名に「ヲ」の字を使ったり(『エガオヲミセテ』など)、『キョカキョク』など実況アナウンサー泣かせの名前を付けたりと、「珍名馬」の祖として競馬界の常識を脱し、時代を切り拓いてきた。そんなチャレンジャーの有一氏だが、その審査でハネられた経験もあるという。

「『ニバンテ』(二番手)は、実況の際にややこしいことになるのでダメと言われたそうです。父としてはそれを狙ったんですけどね(笑)。あと、『ドングリ』は、農産物だからダメということで4回ハネられながらも、父は『ドングリは農産物ではない』としつこく申請し続け、5回目でやっと審査に通って付けられたそうです」

珍名馬馬主としての流儀は「名前によって誰かを傷つけない。皆で楽しく盛り上がること」

 そんな有一氏の息子である光氏も、現在馬主として活躍。今年、JRA重賞初制覇を果たし、話題となった『カラテ』も光氏所有の競走馬だ。「海外に行ったときに日本の馬だとわかるので、『いつか付けたい』とずっと温めていた」という名前だが、珍名馬馬主の血筋を受け継ぐ身の上のせいか、「名前を付けたときは全然面白くないと言われた」と苦笑い。だが、『カラテ』以外にも『ナミノリゴリラ』『ラッパーコロッケ』など、その流儀を受け継いだ珍名馬馬主として注目を集めている。

「『ゲツメンチャクリク』という馬には、勝った時に、『着陸成功!』って言ってもらうことを楽しみに名付けました。本命になるような強い馬になって、レース前日のスポーツ新聞で『月面着陸成功までのカウントダウン』とか遊んでもらえることも期待していたんですけど。結局勝てずに、みんなから『着陸失敗だね』というメールをもらい続け、そのまま引退してしまいました(笑)」
 そんな小田切家における珍名馬馬主としての流儀は、「その名前によって誰かを傷つけたりせず、ファンはもちろん、実況アナウンサーや記者なども巻き込んで、みんなで楽しく盛り上がること」。一方で「みんなそれぞれ価値観も好みも違いますから、周囲の意見をひとつひとつ聞いていたら決められません。父からも、『誰からの意見も無視して我が道をいかないと付けていられない』と言われました」と強いこだわりを見せる。

 ではなぜ、馬の名前を使って、ここまでファンを楽しませたいと願うのか?

「競馬というとどうしてもギャンブルというイメージがつきもの。でもそのなかには、年間デビューする7000頭以上の馬1頭1頭に、生産者から厩務員、調教師等多くの人が関わり、いろいろなドラマがあって、それを掘り下げていくと実に面白いんです。そういうところにも注目して、応援してもらえたらと思います。僕はすごい血統の馬を持っているわけではないので、強い馬でファンを獲得するのではなく、名前も含めて、人間味のあるドラマを見せることで、ファン層を広げていけたらと思っています」

 現在、光氏は地元・九州馬主協会で、馬主仲間と“ファン向上委員会”のメンバーとして活動中。SNSを通じて一般の人にも興味を持ってもらえるような競馬の情報を積極的に発信したり、競馬場で子どもたちにアイスクリームを配るなどの活動を行っている。それらも「ひとりでも多く、競馬ファンを増やし盛り上げたい」という思いから。今後、自身のSNSを通じて、デビューが決まっている馬の名前を広く一般から募集することも考えているという。

 光氏によるとこの5年くらいで、カッコいい名前を好んでいた年配のオーナーから、ユニークな名前を付ける若いオーナーへ世代交替が起こり、珍名馬はますます増えているそう。「その分、面白い名前を付けるのが難しい」と話すが、こうしたことで競馬界が盛り上がることを喜び、今後もこの名付けを続けていきたいという。

 次はどんな馬名が話題となるのか。その裏にある馬の、そして関わっている人たちとのドラマにも注目して楽しんでみてはいかがだろう。

取材・文/河上いつ子

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