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手術に寄り添う“病院勤務犬”の意義 「癒すだけではない」犬が患者にもたらす力

  • 手術まで患者と寄り添う勤務犬・モリス

    手術まで患者と寄り添う勤務犬・モリス

 病院で手術に寄り添う一匹の大きな犬。患者のベッドに横たわったり、一緒にリハビリする写真が投稿されると、「いてくれるだけで癒される、人間にはなかなかできない」、「家族から離れてさみしい患者さんの拠り所になるだろうな」と多くの反響が寄せられた。Twitterで話題を集めたのは、聖マリアンナ医科大学病院で“勤務犬”(※)として働くスタンダードプードルの“モリス”だ。動物介在療法を通し、医師や看護師と共に治療にあたる勤務犬。導入までの高い壁を乗り越え、モリスが患者たちに与える大きな影響と新たな可能性とは。

苦痛の緩和から、リハビリの手助けまで 病院内に広がる笑顔の素に

 「勤務犬のモリス、めちゃめちゃお利口さんで涙が出そうになる」というコメントと共にTwitterに投稿された4枚の写真。手術前、麻酔が効くまで子どもに寄り添う写真に「看護師のプロのような顔つき」、「日本でももっと勤務犬が普及するといいな」などのコメントが寄せられた。同病院では、2015年から勤務犬を導入。初代の勤務犬“ミカ”を経て、現在はミカの甥っ子にあたるスタンダードプードルの“モリス”が働いている。

「癒しを与えるだけではなく、動物介在療法を行っている犬なので、担当の医師や看護師さんからのご依頼を受けて、目的に合わせて勤務を決めています。なかなかリハビリが進まない患者様に意欲をつけていただいたり、もう治療ができないと言われた癌の患者様が苦痛と闘われるなか寄り添ったりと、様々な活動を行っています」(ハンドラー・竹田志津代さん)

 モリスが寄り添うことで実際にリハビリ室まで歩いて行けるようになったり、辛い苦痛と闘う患者がモリスといる時だけはリラックスできたりと大きな効果が。いつでも誰にでも素の姿を見せてくれるモリスの姿に、気分が落ちこみがちな患者から「自分も気を許してもいいんだと思えて楽になった」との声も多いと言う。医師と同じように頭に手術帽を被ったモリスの写真には、「毛はそこだけじゃないけど(笑)」、「思わず笑ってしまった」とのコメントが相次いだが、これも理由があってのこと。
「手術前のお子さんはやはりとても不安で、泣き出しそうな顔で向かうんです。そういう時に『モリスも一緒に頑張るよ!』って手術帽を被せると、その姿に思わず笑顔になってくれる。確かに実際には意味がないのですが、落ち込んだ気持ちをリセットするワンステップになっています」(ハンドラー・大泉奈々さん)

 元々は週に2回、患者一人につき30〜40分ぐらいの時間をかけて活動を行っていたが、コロナ禍で勤務体制が変化。緊急事態宣言下は活動を中止し、現在は週1回に絞って感染予防を徹底している。

「介入が終わったらモリスを全身拭いて乾かし、ブラシをかけて十分な休憩を取ってから次の患者様へ向かいます。患者様にも手洗い消毒をしていただき、様々な方が訪れる外来との接触を避けるなど、感染予防にはかなり気を付けています。」(竹田さん)

 看護師兼モリスのリードを握るハンドラーの竹田さんと大泉さんも、もともとは交代で担当していたが、現在は常に二人体制での勤務に。ひとりがリードを握り、ひとりは他との接触がないよう声がけを担当するなど、感染予防対策を行い活動中だ。

「犬は清潔ではない」という誤解 手術室でもチームの一員として見守る

 同病院が勤務犬を導入したきっかけは、2012年まで遡る。小児科に入院していた一人の女の子が、当時他の病院で勤務していた犬に、「会いに来て欲しい」と手紙を書いたことが始まりだった。実際にその犬の来訪が実現すると、女の子はもちろん、他の患者も喜び大きな笑顔の輪が広がったことから、本格的な導入を検討することに。しかし、その道のりは険しく困難なものだった。

「まずは、盲導犬協会と介助犬協会の協力を経て、毎月2頭ずつ来ていただいて病院内に犬のいる風景を作りました。その中にいたのが、初代勤務犬となったスタンダードプードルの“ミカ”です」(初代ハンドラー・佐野政子さん)

 何十人もの患者がいる中、自ら一人一人にあいさつに回るほど人が大好きなミカ。その姿を見て、佐野さんはミカの適性を確信したという。
「ミカはセラピー性をかわれて、スウェーデンから日本に譲渡された犬でした。プードルは毛が抜けず、匂いが少ないのが特徴。大型犬で頭がいいのに加え、ミカの性格は勤務犬に向いていると思いました」(佐野さん)

 勤務犬は訓練をしていい犬になるわけではないと言う。リードを引っぱって何かを指示するのではなく、楽しい遊びの延長線上で褒めて育てる。人間の言葉を理解できる力と、人が好きという性格を合わせ持つことが条件となるのだ。現在働くモリスも、患者の元にいる際「じっとしていなさい」などの指示はひと言も出さないそう。犬が患者を見て、自分で考えて近づいていくのをハンドラーが見守り、双方に危険がないようにサポートする形だ。

 適正の合ったミカを勤務犬として導入するため、感染予防などの安全対策や職員からの署名、ハンドラーの育成、資金面など2年以上をかけて準備。すべての条件をクリアし、2015年に初代勤務犬・ミカが誕生した。

「免疫が弱っていると感染するのではという声も多く、最初は限られた病棟にしか入れませんでした。実際には衛生面では問題がなく、口コミで効果が広がり、今では31の全診療科に加え手術室でもチームの一員として活躍しています」(佐野さん)

 当初懸念されたように「犬は清潔ではない」という感覚は、医療現場でも根強く残っているそうだ。しかし、定期的に抜き打ちで検査されるミカの身体は、毎回基準値をクリア。勤務中のスタッフより清潔な数値が出ると言う。動物アレルギーや犬が苦手な人には接触しないよう導線経路も徹底し、導入から現在まで事故や苦情は1件も起きていない。

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