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手術に寄り添う“病院勤務犬”の意義 「癒すだけではない」犬が患者にもたらす力

麻酔がかかるまで「ずっと側にいてね」度重なる手術をミカと乗り越えた男の子 保護者が流した涙

 初代勤務犬・ミカのハンドラーである佐野さんには、4歳の時に気管の病気と闘っていた男の子との忘れられないエピソードがある。

「毎月手術をしなければいけない状況でしたが、自我が芽生え始めた4歳の子にとってはどうしたって怖いし、痛いし、辛い。毎回、手術室に連れて行くのに大泣きだったのですが、『ミカを手術室まで連れて行ってね』とお願いすると、自分から向かってくれるようになったんです。“僕はお兄ちゃんなんだ”という感情が芽生え、手術は怖いけどミカとなら、と前向きになってくれた。自立性を高める勤務犬の本来の活動目的と一致した形です」
 麻酔がかかるまで「ずっと側にいてね」とリードを離さなかったという男の子。目が覚めた時もミカが寄り添い、痛みと熱でうなされている時も側にいて見守った。それまで手術の度に苦しむ我が子を見て「もう辛くて手術を受けさせたくない」とまで思い悩んだ親御さんも、「命が助かったのはミカがいてくれたおかげ」と涙を流したそうだ。治療を乗り越え、男の子は9歳に。今はもう引退したミカとこの4月に再会。男の子の姿を見ると尻尾を振りながら近づいて行ったミカ。時が流れても、ミカとの友情は続いている。

 人が大好きで穏やかな性格のミカは、産婦人科からの依頼も多かった。出産にも立ち会い、新生児室でも人気者だった。

「切迫早産でベッドから降りられず不安な妊婦さんや、新生児室で泣いている赤ちゃんに寄り添うことも多かったですね。赤ちゃんは温かさを感じたり、心臓の音を聴くとリラックスできるので、ミカのお腹に寄りかからせると泣き止むんです」(佐野さん)

3代目育成も視野に「今後も取り組みを継続していくことが大切」

 勤務犬の導入により、患者やその家族だけでなく職員にも笑顔が。ミカを通してみんなが笑顔になれる輪が広がったことも、導入してよかったことの一つだ。3年の勤務を経て、2018年12月に8歳になったミカは引退。現在はハンドラーの佐野さんと暮らしている。ミカの後を引き継いだのは、モリス。ミカ同様、人が大好きで、一度会った人の顔は忘れないという。

「十分な散歩やブラッシングなど身体のケアをすることで信頼を深め、日頃からストレスをかけないように気を付けています。病院の先生方やスタッフともコミュニケーションを取っているので、モリスにとって病院は友だちがたくさんいる楽しい場所。病院に来ることがストレスにならないようにも心がけています」(竹田さん)
 現在は、モリスに続く3代目の育成も視野に入れ活動中。「今後も取り組みを継続していくことが大切」だと学長の北川博昭氏は語る。

「目指したのは、看護師にハンドラーをやってもらい、一体となって患者様を診ながら治療に結び付けていくこと。ビジネスとして、犬を5匹入れて、ハンドラーを5人つけるということではダメなんです。犬もハンドラーもきちんと育成して、治療に結びつけた介在療法をやっていきたいと考えています」

 同病院でのハンドラーの条件は、看護師経験5年以上で、同病院での勤務経験1年以上。通常の看護師業務を行いながらハンドラーになるため、負担がかかりすぎないようサポートしている状況だ。資金面でも苦労はあるが、本を出版したりぬいぐるみを作ったりと、様々なアプローチで継続のために奔走している。また、他院からも「見学させてほしい」との依頼も後を絶たず受け入れているそうだが、導入報告はまだない。それだけ、ハードルの高い取り組みであるということだ。

 最後に、日々モリスと共に患者に寄り添うハンドラーたちに、今思うことを聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「例えば交通外傷で手足を失って、ある日突然生活が一変された患者さんは、何もかも受け入れられずシャットアウトしてしまうことがあります。そんな時、何もなかったかのようにただ鼻を擦りつけて寄ってくるモリスを見て、今まで拒否していたものを自然と受け入れてくださることがあるんですよね。ここにだったら、自分の気持ちを見せていいんだと思っていただける。人間との関係ではできないことを可能にする場面に立ち会うと、いつも感動します」(大泉さん)

 生死の際で働く医療スタッフと共に、患者に寄り添う勤務犬。彼らが持つ力は計り知れないものがあり、今日もまた多くの人を助け、その心を救っている。
(取材・文/辻内史佳)
※勤務犬は、聖マリアンナ医科大学病院の登録商標
聖マリアンナ医科大学病院 動物介在療法
https://www.marianna-u.ac.jp/houjin/lifelog/20190201_04.html

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