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「中国人女性から託された猫」、がんを患った飼い主が願った“家族”の幸せ

  • 『ねこけん』に保護されたイェンナイ(写真:ねこけんブログより)

    『ねこけん』に保護されたイェンナイ(写真:ねこけんブログより)

 NPO法人の『ねこけん』には、多くの保護依頼が寄せられている。これまでも、さまざまな事情を持つ人から、飼えなくなってしまった猫を保護してきた。愛するがゆえ、飼い猫を手放さなければならなくなった人もいた。もちろん、猫を飼う以上、猫の生涯には責任を持たなければならない。だが、どうしてもやむを得ない場合もある。今回は中国人女性から引き取った猫「イェンナイ」について、代表理事の溝上奈緒子氏に聞いた。

「早急に治療を行わなければ…」、猫のために何度も帰国を引き延ばした中国人女性

  • 最初は緊張している様子だった(写真:ねこけんブログより)

    最初は緊張している様子だった(写真:ねこけんブログより)

 くるりと後ろに反った耳が特徴のアメリカン・カールのイェンナイは、初めて『ねこけん』にきたとき、愛らしい表情できょとんとしていた。イェンナイとは、中国語でココナッツミルクの意味。飼い主は、国を離れて日本に留学し、卒業後に日本で働いていた20代の中国人女性だった。彼女は日本のペットショップでイェンナイを購入したというが、もしかしたら家族と離れて暮らす寂しさを埋めるためだったかもしれない。いずれは国に帰り、日本での経験を生かして仕事に就きたいという夢を持ち、彼女は頑張っていた。イェンナイはそんな彼女を支える日本の家族だったのである。中国に戻るときは、イェンナイも連れて帰るはずだった。だが、そんな彼女を病魔が襲った。子宮頸がんだった。

 両親と相談した結果、中国の家族のもとで治療を行うこととなった彼女。コロナ禍で飛行機の直行便もなく、イェンナイを連れて帰るのは難しい状態。もし連れて帰ることができても、治療に専念するため自分で世話をすることはできない。「早急に治療を行わなければならない状況下で、彼女はイェンナイのもらい手をかなり探したそうです。でも、友人、知人は留学生が多く、引き取ってもらうことはできなかった」と溝上氏は状況を明かす。

 愛護センターにも連絡を取ったが、返ってきたのは「殺処分」という非情な言葉。『ねこけん』以外の団体にも相談したが、終生預かりのため高額な飼育費がかかるということだった。「何度も何度も帰国を引き延ばし、やっと『ねこけん』にたどり着いたそうです」。

 こうして『ねこけん』のドアを叩いた彼女に、溝上氏は「イェンナイを幸せにします」と言い切った。この言葉がどれだけ彼女を元気づけたかはかりしれない。イェンナイをなでながら涙を流す彼女は、「すみません、なんかこれだけで…」と保護費として3万円を差し出した。病を患い、働くこともできなくなった彼女にとって、きっとなけなしのお金だったのだろう。当初、溝上氏はお金を受け取るつもりはなかったそうだが、このお金は彼女がイェンナイにできる唯一のこと。最後に愛猫にしてあげられることを探した結果の愛情のこもったお金だったからこそ、受け取った。

考えた末の結論、外国人への猫の譲渡を断る理由

  • 徐々に落ち着いてきたイェンナイ(写真:ねこけんブログより)

    徐々に落ち着いてきたイェンナイ(写真:ねこけんブログより)

 元飼い主の女性は、自らの病を省みずに何度も帰国を遅らせて、イェンナイの命を託す先を探した。溝上氏も、「家族だからこそ、簡単にはあきらめたくはないという気持ちはすごくよくわかる」と語る。「以前うちのメンバーにも、猫のために自分の病気を放置した人がいたんです。本当はすぐに入院しなければいけなかったんですが、そうすると猫の世話をする人がいなくなってしまうからという理由でした。そんなメンバーを見てきたから、とても他人事とは思えなかったんです」。日本人でも、外国人でも、家族である猫を思う気持ちは同じだろう。

 『ねこけん』では、保護している猫を希望する人に託す譲渡会を行っているが、譲渡先の相手には、いくつものルールが決められている。その中で、NG項目にあるのが外国人だ。

 「いろいろと考えた末、外国人の方はNGとしました。決して差別ではありません。猫を譲渡したものの、今回のように自分に何かあったとき、国元の家族に何かあったとき、どうしても母国へ帰らなければならないこともあります。ドイツのような動物愛護先進国だと、連れて帰るのも問題はないのかもしれない。ですが特定の国だけを優遇するとなると、それこそ差別になってしまいます。なので、国に関係なく、外国の方には譲渡しないという規定を作りました」。

 『ねこけん』では、譲渡後も里親と連絡を取り合い、猫が幸せな一生を終えるまでサポートをしている。その活動のためには必要な判断といえるだろう。

 『ねこけん』で暮らすこととなったイェンナイは、当初こそ緊張していたものの、徐々に落ち着きを取り戻しているという。猫とはいえ、話しかけられる言葉が中国語から日本語に変わることに問題はないのだろうか。そう聞くと、中国で暮らしたことのある溝上氏は「私も中国で猫を飼っていましたが、問題ありませんでした。猫ちゃんはすぐ言葉を覚えてくれますから」という。

 病気を抱えながら、最後までイェンナイの幸せのために保護先を探した元飼い主。だからこそ溝上氏は、今後のイェンナイの幸せな生活を約束した。イェンナイの姿を見るためにも、彼女にはぜひ病気を完治させて、日本に戻ってきてほしいものである。

(文:今 泉)

■NPO法人『ねこけん』(外部サイト)

■『ねこけん』オフィシャルブログ(外部サイト)

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