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ORICON NEWS
10年間続いた過食嘔吐、「漫画が抑止になれば」痩せた代償の大きさとカミングアウトの恐怖を語る
「痩せたら仕事がもらえるのか…」周囲と自分を比べて思い悩む日々
ーー『10年間過食症だった話』の実録エピソードには、渡部さんの経験した症状について、当時の心情について、細かく振り返られています。過食症の経験を漫画にしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
「この漫画を書き始める時、私が過食症だったとは知らずに、同じ症状を持つ知人の女性が相談に来てくれたことがありました。相談されたことで、私は知人に初めて自分の症状を打ち明けることができましたが、それまでは誰にも自分が過食症だったと言えなかった。そういう人達に『あなただけじゃないよ』と伝えたかったというのが漫画を描き始めたきっかけでした。長い間過食症だったため、なんとなく『この人もそうだろう』と分かるようになったりして、当時私の周囲に過食症だと明かしている人は1人しかいませんでしたが、実際にはもっと多いのではないかと感じていました」
ーー伝えたい思いがあって漫画で発信されていても、渡部さん自身が身近な人から声をかけられると、「心配をかけたくない」「バレたくない」という気持ちが働いて、あたふたしてしまうと。漫画にはそんなご自身の葛藤も描かれていました。
「作品として形にする際、最初は”過去のこと”と割り切っていたため、そこまで葛藤は無かったのです。この漫画を何人の人が見てるか、誰が見ているか、肌感として感じられてなかったからだと思います。なので、私が初めて葛藤を感じたのは、知人たちから声をかけられたときだったんです。声をかけてくれた知人に適切な態度を取れていなかったのではないかと、発信しておきながら自分の受け取め方の不甲斐なさに落ち込んでしまったことがありました」
過食嘔吐で痩せた代償は計り知れない大きさ「私のようになって欲しくない」
「正直これは難しくて、『こう行動すればよかった』というのも、『こんなコミュニケーションを取ればよかった』というのも、特にありません。今の私が過去の過食症初期の私を説得しに行けるならば、辞めさせることができるとは思うのですが、自分の行動を何か変えたところで過食症になってしまうということはあまり変わらなかったと思います。
それこそ、こういう漫画があって、それを初期に読んでいればもしかしたら変わっていたかもしれません。過食嘔吐は自分が自分に満足出来ていないと止められないものだと思うので、自分と言うより、周囲の人間からの評価が影響するものだとも思います」
ーー渡部さんの実録漫画は、警鐘の役割も果たしています。あらためて渡部さんから伝えたいことは?
「もし過食嘔吐してみたいと考えているか、過食嘔吐を始めたばかりの人がいたら…まだ辞められる可能性が高いため、ぜひ私の体験談の漫画を一度読んで見てほしいと思います。痩せる代わりに失うものの大きさや、自分自身が自由に生きられなくなる現実を知って欲しいと思います」
ーー”失うものの大きさ”や”自由に生きられなくなる”という部分、もう少し具体的にお聞かせいただけますでしょうか?
「過食嘔吐は続けていても、ある一定以上は痩せられ無いことが多いのです。『理想の体型』になるためには、過食嘔吐をするよりか『多少の空腹を我慢』する方がよっぽどの近道だと今の私は思います。その空腹が我慢できないから、過食嘔吐に走るのはとても理解できますが、お金や時間、友達、彼氏、仕事、綺麗な肌や髪や爪…失うものや、影響を及ぼしてしまうものは自分が思うよりもどんどんと増えていきます。私のようになって欲しくないと思います」
ーー症状の経験者からのメッセージなど、たくさんの反響が届いたかと思います。『10年間過食症だった話』のエピソードは、どのような意味を持つ作品になったと感じますか?
「元々は同じような過食症に悩まされている方々に向けて『あなただけじゃないよ』という思いを送るために漫画をスタートさせました。たくさん頂いたメッセージの中で『やろうと思ったけど、この漫画を読んで辞めました』『過食嘔吐を始めた友達に、こうなるから辞めたらと言えました』という”抑止力”になったというご意見が割と多かったのが驚きでした。
そのほか『自分からカミングアウトできなかったので家族にこの漫画を見せて、私は今こうなってると伝えることができました』というお話も頂き、自分が想像していなかった色々な用途で多くの方にこの漫画が影響を与えることができたのだと知って、描いてよかったと思えました。今後、この漫画『過食症だった話』がより多くの方の過食嘔吐への抑止力になればと思います」