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“もこもこ部屋着”ブームから10年、競争激化もジェラピケが愛される理由「“媚びない”可愛さを追求」
“寝るため”ではなく“楽しむため”に 下着もパジャマもコーディネートを考える新市場を創出
同ブランド立ち上げメンバーの豊山YAMU陽子氏は、当時パジャマはファッションの“脇役”だったと語る。
「初めは『インナーのラインナップがもっとあればいいのに』というお客様のお声がきっかけでした。スタートした当時は、パジャマは百貨店で上層階の寝具売り場の辿り着きにくい場所にコーナーが設けられていたり、ファッションビルでも下着コーナーは一角のワンラックほどしかなくて、パジャマはパジャマ、下着は下着、と明確に分けられていたんですよね。もっとお家の中のファッションを楽しんで欲しいという思いで、インナーとパジャマの間となるルームウェアをつくり始めました。勉強や仕事で疲れて家に帰ってきて、着替えるのが面倒くさいなっていう時間を『今日はなに着よう!』って高揚するような特別な時間に変えたかったんです」
「ブランドをスタートした2008年は、リーマンショックの影響から経済危機に陥った時代背景もあり、家の中で過ごす時間が増えて『巣ごもり』や『家ナカ』といった言葉が生まれた時期でした。そんな中でのジェラート ピケのフックたるや、すごかったですね。ブランドのコンセプトやプライス、全てが世の中の状況とリンクしたんですよね。色んな方の生活の中に入り込みやすかったんだと思います」(豊山氏/以下同)
独自の手触りとデザイン誕生の裏側「企画会議にはみんなお腹を空かせてくる」
「『ジェラート ピケ』を直訳すると“アイスの生地”という意味になるのですが、口の中に入れたらふわーと溶けてしまいそうなアイスの生地を手の感触で表現してみた結果、あのファブリックが完成したんです。今でも、商品開発において“食べてみたい”という感覚を大切にしていて、商品企画の会議でもみんなお腹を空かせてくるんです。例えば、『美味しそうなチョコレートの色!』『冬だしもうちょっとシナモン効かせたいな』『春だから柑橘の爽やかな酸味が欲しいね』といった会話から商品が生まれています」
ファッション業界の常識を覆した“もこもこ部屋着”だが、しばらくすると、やはり例に漏れず一大ブームは落ち着く。
同ブランドは、ルームウェア市場やファッショントレンドのみならず、インテリアや生活スタイルにまで至る、“衣食住”のトレンドの変化を踏まえた商品開発をしているという。実際、近年は暑い夏に対応する接触冷感素材や、季節の変わり目に着やすい調温効果のある素材などのアイテムでも新たな顧客層を獲得し 、寝具などを含む生活雑貨の販売やカフェの展開においても独自のブランディングに成功。立ち上げから10年余りで、まさに“衣食住”を提供するブランドにまで成長している。
ステイホームだからこそできるルームウェアの使命「競争激化に焦り全くなかった」
「そもそも、かつては寝具と同じカテゴリーに分類にされていたルームウェアの新たな市場を作りたいと思って事業を始めていますから。その市場が盛り上がることは、嬉しいばかりです。ステイホームという状況下で、ルームウェア市場を牽引するジェラート ピケでしかできないことが必ずある。デビューからここまで根強く支持していただいた一つの使命として、皆様への感謝の気持ち、そして地球への感謝の気持ちを考えながら、何かできることはないか、と必死に考えた1年でした」
「コロナによって、立ち止まる、立ち返る、話し合う、または色んな形で時間を共有できる機会が与えられたと思っています。ただ楽しむだけではなく、心と体のバランスをじっくり考えてみる時期が来たのではないでしょうか。そこで、改めて商品づくりについて見直したときに、従来の“可愛い”とか“大人のデザート”というブランドのコンセプトはもちろんですが、環境配慮や心地良さといった点を加えていくことも重要だと再認識しました。例えば、代名詞であるもこもこ素材の『 ジェラート』という商品も、昨年からリサイクル紙を使って作っているものもあります。ただ『リサイクルすることが大事だよね』と言うことではなくて、多くの人たちに愛されているブランドだからこそ、率先してそういった問題に向き合い、商品を通して伝えていくことが使命だと思っています」
コストを抑えて着心地を実現するために、綿を推奨するブランドは多い。リサイクル紙を使ってデザインや手触りを担保するのは、相当な労力と技術が求められるのだ。しかし、競合に勝つ、安くて生産性が高い、という目先の利益だけを追求しない真摯な姿勢が、より多くの人に支持される結果となった。アパレル業界の多くが赤字となった2020年、ジェラート ピケは年間を通じて前年を上回る業績を残した。
人々のライフスタイルまでも変えたジェラピケの真骨頂とは「誰にも見せないからこそ思いっきり楽しめる」
「私たちとしては、男性目線やあざといを意識したことは一度もありません。だからこそ完成されているブランドなのかなと思います。 男性と女性どちらの目線も大事にしていて、男性に媚びない“女性の自立”と“可愛い”の両立を大切にしています。私たちはランジェリーのようなセクシーを追い求めている訳ではないですし、誰にも見せないからこそ家の中だけでこっそり楽しめるおしゃれもあります。そのちょうどいいバランスこそがジェラート ピケの真骨頂だと思います」
「〇〇があるからジェラート ピケで居続ける っていうよりは、ジェラート ピケ自体が普遍的で居続けられることが理想です。会社の理念にも通ずる部分なのですが、体に一番良い作用って“高揚する瞬間”があることだと思っています。パッって心が躍る瞬間って、人間を一番美しく見せたり、自分や周りをハッピーマインドにしてくれたりすると思うんです。その一瞬を作るために朝も夜も考えを巡らせているので 、これからも商品を通して幸せの連鎖を広げていきたいです」
勉強や仕事で疲れてパジャマに着替えることすら面倒なあの時間を、見事に心ときめくひと時に変えたジェラート ピケ。誰かに見せるためのファッションではなく、自分の気分を上げるための家ナカファッションは、今まさに閉塞感漂う世の中で、多くの人々の“心躍る瞬間”を創出している。