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声優キャリア20年目、宮野真守が「天職」に出逢えた信条とは 『FGO』で伝えたいベディヴィエールの覚悟
⇒この記事をオリジナルページで読む(5月31日掲載)
撮影:田中達晃(Pash) 取材・文:遠藤政樹
声の仕事は「天職」 そこに導いた、ある“信条”
もともといろんなことに興味のある好奇心旺盛な人間ではあるのですが、同時に飽きっぽい人間でもあって。だからそんな飽きっぽい僕が30年も役者をやっているというのは“天職”だと信じたいのですけどね(笑)。
ただ、そのなかで全部が全部ストイックにやってこられたわけではなく、30年もやっていると、自分は何が一番できるのか、自分にとって何が天職なのかわからなくなる瞬間もあります。
それでも自分は自分として生きていくしかないし、自分にできることをやっていくしかない。だから改めて自分の信条を聞かれて頭に浮かんだのは「まずやってみる」ということですね。
自分が何に向いているかというのは、自分では決められないことなのかもしれない。意外とこんなところにおもしろいものが転がっていたとか、やってみて無理だったけど楽しかったなど、いろんな感情がそこに生まれると思うんですよね。
この年齢になると、よく後輩などに向けて「何かアドバイスは?」と聞かれることもありますが、「努力は必ず報われる」よりも「まずやってみる」という方が僕はしっくりきます。何が自分にとって向いているのかなんてわからないという想いは、僕も10代や20代のころ、たくさん経験しました。当事者の(若い)子たちからすると「そう言われてもわからないよ」となるかもしれませんが……。
僕にとっては、声優という仕事も当時のマネージャーから「こういうオーディションがあるんだけどどう?」と言われて、まずやってみようと思ったのがきっかけです。たしかに僕はテレビっ子でアニメも好きでいろんなものを観ていましたが、自分がそこに携わる立場になるなんて思ってもみませんでした。
それでも、まずやってみようと思ってオーディションを受け、それが好転していろいろとお仕事をいただけるようになりました。自分の声がこんなふうに求めてもらえるなんて予想もできなかったことです。どこにチャンスやきっかけが転がっているかわからないので、いいなとか好きだなと思ったことはやってみる、といったスタンスは大事にしていますね。
いえ、とにかく必死でしたね。目の前のことに必死で生きていました。
――宮野さんは幅広い層のファンを魅了されています。以前バラエティー番組で「男性のファンも増えてきた」とおっしゃっていましたが、男性ファンが増えたと実感したタイミングはありますか。
意外と長くやっているので、いろんなタイミングでありましたね。気づけば声優デビュー20周年らしいです(笑)。7歳の時点で子役ではありましたが、18歳のときに声優を始めて今年38歳。もう20年やっているので、いろんなことがあるなかで、いろんなタイミングでいろんな方に見てもらえたなというのは感じています。
必要なのは「あり得ない状況をあり得なく“なく”させる作業」
この物語が劇場版として描かれるということはうれしく思いましたし、ベディヴィエールの想いというか覚悟を、僕の声でも伝えられるようにしっかり集中して収録に臨みました。
――後編のアフレコはお一人で収録されたとうかがいました。
そうですね。もちろんほかのキャストと一緒にお芝居できた方がありがたいですけど、状況が状況なので自分のできることに集中して向かっていきました。
存亡の危機にある世界で何か重要なキーを持っている人物のようにベディが現れ、彼はそれを抱えつつ状況を打破しようと立ち向かっていくのですが、それが、彼自身が口にする自分の罪や贖(あがな)いなどに起因するものということがだんだん見えてきます。自分の秘密も明かせず、孤独だった彼が藤丸立香(ふじまる・りつか/CV・島崎信長さん ※崎=たつさきが正式表記)という“光”に触れて、自分の目的に対しての覚悟をしていく物語でもあります。
ベディヴィエールの迎える結末を描く…『劇場版FGOキャメロット 後編』公開記念PV
藤丸たちとの出会いや、アーラシュ(CV・鶴岡聡さん)が見せてくれた生き様はベディに非常に影響を与えたのですが、それが(具体的に)どういうものかということを藤丸にも明かさないまま、後編の最後まで進みます。彼が一人で抱えていたものが藤丸という光によって少しだけほだされて覚悟を持てた部分が、この物語のキーポイントになっていると思います。
この作品は「どうしてこの世界になってしまったのか」や「ベディが何を抱えているのか」ということが主軸になっています。前編では語られない部分が多い分、後編でやっと明かされるなかで、彼が何を抱えているのか、何を目的としているのかという部分が物語の根幹として描かれているので、ベディの想いに集中して演じました。
――「ベディヴィエールが抱えている罪や贖い」というキーワードが出てきましたが、宮野さんは演じる際、キャラクターのそうした感情にインスパイアされ同じ想いを追体験していくのか、それとも客観的に捉え表現されているのか、どちらでしょうか。
現実とは違う世界観の中で、普段の生活では感じ得ないことを演じていくというのは、たしかに難しいところではあります。でも、そこは「難しい」で終わらせてはいけないことだとも思います。キャラクターが思っていることを表現する上で、自分の中でどういう情報が必要でどういう感情が必要かというのは、演じる前の準備段階がすごく大事になってきます。
ベディのように実際に長い旅路をさまよい歩くことはできませんが、そのつらさはどういうものなのだろうとか、深く深く考えて、あり得ない状況をあり得なく“なく”させる作業が役者や声優には必要だと思います。声優は特にいろいろな世界観の作品が多いので、そこの作業は非常に大事にしている部分ではありますね。
後編で物語の核が明らかになっていくので、ご覧になる方も発見するところがたくさんあると思います。「なぜベディはこんなにも苦しそうなのか」「ベディはどんな想いでいるのか」と感じていると思いますが、ちゃんと彼のたどり着く結末が描かれるので、皆さんに観てもらえたらうれしいですね。