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伝説の“Tプロデューサー”こと土屋敏男氏に聞く『電波少年』復活と“天下を取る人”の条件
“文脈”を読まず、機械的に判断する“愛”のない媒体は滅ぶ
土屋確かに、ネットで文句言われるとか昔は聞こえなかったものが、今は可視化されるし、炎上もする。テレビってある種、公共性があるから、「誰にも文句を言われないものを作りましょう」というありえないことを目指さないといけないじゃないですか。だから、そうなったとも考えられますね。
という一方で土屋氏は、「今はいろいろなプラットフォームがあるわけだから、それに即したところでやればいいのではないか」とも話す。
土屋昨今は松本人志さんの『ドキュメンタル』など地上波でやれないような番組は動画配信サービスで提供されています。あと例えばアメリカだと同じ番組をネットでも流し、テレビ版では放送禁止の「ピー」ばかりで放送。ネットでは完全版で配信したりしています。いかにでもやりようはある。選択肢が増えたって意味では制作側としては逆にいい時代だと思いますけどね。作りたいものがあったらそれに即した場所で作ればいい。だって、自分でも配信ができる時代。観る側も選択肢が増えて、むしろ双方が豊かになっているんじゃないですか。
だが昨今のコンプライアンス事情に危機感もある。
土屋昨今はYouTubeも規制が厳しくなってきた。単純に、言葉としてこれはいい、これはだめと機械的に判断されて“愛”がない。『ドキュメンタル』について松本さんは「あれは下ネタではない」と断言。笑いのアルティメットで突き詰めていったらああなったと。つまり下ネタも“文脈”として捉えるべきなのです。あまりにビジネス的にBANする方法だと、その媒体は滅ぶのではないでしょうか。そこには“愛“がないですから。
これからの時代“天下を取る”スターの条件とは?
土屋いえ。なかったですね。猿岩石を起用したのは彼らが野宿経験があったと聞いたから、それだけ。当時は才能があるとは思えなかったし、ヒッチハイクが終わった後、別れたっきりです。ほぼ交流もありません(笑)。有吉はその後ブレークしましたが、トップを味わい、凋落を経験したからこそ、仕事が全くなかった“ゼロ”の時代に『内P』での起用がありがたかったのでしょう。そこで一つ一つ丁寧な仕事を続けていった。これが功を奏したんだと思います。有吉は、「ゼロの時に土屋さん何もしてくれなかった。だから土屋さんには恩はない」って言っています。確かにそうだろうなと思うけど、急下降を味わわせた俺がいたから、上がるありがたさが分かるもの。だから間接的には僕は有吉の恩人でいいやと(笑)。
そんな土屋氏は、有吉を“テレビで天下を取った最後の人”と言う。
土屋お笑いの歴史ってこれまでずっと、テレビと一緒に歩んでるんですよ。ウンナン(ウッチャンナンチャン)もダウンタウンも。欽ちゃん(萩本欽一)から始まって、ゴールデンに冠番組を何本も持ってというのがゴールで、天下を取るってことだと思ってきた。ところが、最近はそうじゃない人間が出始めてる。純粋にネットだけで出てきたフワちゃんや、ネットとテレビの両輪でやっている第七世代を見ると、有吉やマツコ(・デラックス)さんが、テレビしかなかった、テレビがエンタメだった時代の、最後に(天下を取った人に)近いんじゃないかなって気はしますけどね。
では逆に、今後“天下を取る”可能性のある人はどんな人なのか。
土屋テレビでやってる限り、日本チャンピオンしかなれなかったんだけど、今、動画配信サービスという、世界ラウンドがあるから。そういう意味でいうと、世界チャンピオンが出る可能性もある。渡辺直美ちゃんとか、ゆりやんレトリィバァとか、世界に向けて活動している人はその可能性があると思います。
「『電波少年』が出た時にベテランテレビマンから「こんなのテレビじゃない」と散々言われました。今回の『電波少年W』も今の時代で「こんなのテレビじゃない」と言われたら成功」とも土屋氏。果たして同番組がどんなハチャメチャを見せるのか。また有吉に続く、“天下を取る”スターを再び生み出すのか。期待したい。
取材・文/衣輪晋一