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愛ゆえの贋作探求… 1枚25万円『ビックリマン』“パチシール”に見るニセモノの価値基準

許されるものではなく、今後生まれることもない80年代の“パチシール”文化

パチシール界でトップランクの価格をつける「スパーゼウス」 画像提供/まんだらけ

パチシール界でトップランクの価格をつける「スパーゼウス」 画像提供/まんだらけ

 ではいつ頃からこの“パチシール”の人気が出てきたのか。始まりは2000年頃。携帯電話の普及と、インターネットのオークションの利用者が増えたことで、さまざまなものが気軽に売買できるようになったことを背景に、「ビックリマン」などの80年代のシールを収集しようという機運が訪れ、“パチシール”も出品された。そして「それも懐かしい!」と本物同様に人気が加速。ネットの発達で取り扱っているお店を行脚せずとも多くの品が確認できるようになったことも後押しし、2010年頃にピークを迎え、現在は少し落ち着いた状況だ。

「やはり希少性の高いもの、新たに発見されるなどこれまでの論考をくつがえすようなものは販売価格が高くなります。例えば、先述の『スーパーサンシリーズ』の『スーパーサン』も人気ですが、別の『スパーゼウス』というシールがそのシリーズの先輩にあたる、という事がのちに判明します。この『スパーゼウス』は販売価格が約25万円。“パチシール”でトップクラスに値段が高いものの一つです」

 こうした価格の高騰に便乗する人がいるのも事実。80年代当時に流通したものではないものが持ち込まれることもあるという。

「ただ“パチシール”もこれだけ人気が出ると“パチシールのパチシール”が出てくることもある。弊社ではこれを見極め、“本物のパチシール”のみを扱っています。変な言い方ですけど(笑)」
 “ニセモノ”なのに価値が上がったり、“ニセモノのニセモノ”が出てきたり、と美術品などとは異なる特殊な存在になっている“パチシール”。その背景には、「『ビックリマン』が流行した当時の状況がこうした特殊な現状を生んでいると言えるのではないか」と、田嶋氏は考察する。

「そもそも、著作権は守られるべきだし、ニセモノは許されるものではありません。それを前提にお話しさせていただくと、『ビックリマン』全盛となった6、7弾の『ヘラクライスト』が出てくるあたりではすでに、『スーパーゼウス』は既に過去の話(絶版)になっていました。だからブームが最高潮のときに、人気キャラが手に入らない。そんなファンのもやもやした気持ちが渦巻く時期に登場したのが“パチシール”。飛びついてみたものの、それらが『ニセモノ』だという事は当時すでに多くのファンは気が付いていたようです。その為、多くの『ニセモノ』否のファンには大切にされず捨てられてしまったようですが、『ニセモノ』だとわかっていても“パチシール”に魅せられたファンも少なく無いようです。騙されていたのではなく本物とは別の価値観を“パチシール”で満たしていたのではないか?もちろん“パチシール”を制作していた会社を擁護するわけではないですが、そう考えると、“パチシール”の存在は大きかったのではないかとも思えます」
「“パチシール”は単なるニセモノではなかった」と田嶋氏は続ける。

「いわゆる“贋作”はいやになると思うんです。本物だと思っているから、『だまされた』『つかまされた』となると思うんです。でも、そういったものとは違うと思うんです。それは、パチシールも文化の一つとして受け入れられていたということだと思います。
 本来、ニセモノって淘汰されていくものだと思うんです。でも、“パチシール”は『考古学』と位置付けられて、全貌を明かそうというマニアがいるくらい愛を向けられている。創作系、特に下手絵系は『味がある』とおっしゃる方は多いですし、ゆるキャラではないですがそこに価値を見いだしている。そんなことって、他になかなかないと思うんですよね。
 そして収集される方々は、リアルタイムで触れた“思い出”を集めていらっしゃるんだと思います」
 今ほど著作権などが厳しくない時代に、どこか牧歌的なカルチャーとして生まれた“パチシール”。最後に、今後こうしたカルチャーが生まれる可能性について聞いた。

「法規制も厳しくなり、『贋作』『ニセモノ』は、今この世の中に出にくくなっているので、こういう独自の発展を遂げた面白い文化は今後出てこないと思います。あの時代だったからこそ、生まれた文化だと思います」

文/衣輪晋一(メディア研究家)

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