ORICON NEWS
共感の先にあるのは“覗き見欲求“ カップルYouTuberの増加と台頭が示す若年層の興味の変化
イチャイチャした姿や浮気ドッキリまで…二人の関係が一つのエンタメに
そんなカップルYouTuberの第一人者的存在が、最近第2子出産で話題となったしばなんチャンネル(登録者数237万人)だ。もともとは単独で配信活動をしていたあやなんが、東海オンエアのしばゆうとの交際を機に「しばなんチャンネル」を開設。恋人時代は「友だちと彼女がキス我慢選手権」などの企画系が多かったが、結婚後は妊娠中にはじまったつわりのことを記録した「つわり日記」や、妊活、出産の模様、子育ての記録などを配信し、出産や育児に悩む視聴者から共感を得ている。恋人→夫婦→子どもが生まれて家族へと変化していく様子をエンタメコンテンツとして配信することにより、彼らの関係性や成長を疑似体験できることが人気の要因となっているようだ。
また、LGBT系カップルYouTuberのチャンネルでは、人には言えない葛藤や相談、カミングアウトしたときのことなどを知ることができ、セクシャルマイノリティで悩む視聴者たちが理解を深めるための拠り所の一つともなっている。
こうしたカップルYouTuberに対して視聴者の反応は、「見ていてほのぼのする」「(二人のやりとりが)癒される」「きゅんきゅんする」といった好意的なコメントがある一方で、「無理」「うざい」「痛々しい」と拒否反応を示す声も多い。中には「本当に幸せならわざわざチャンネルをしないのでは?」とチャンネル自体への疑問視する声もある。
チャンネル開設のきっかけはTikTok プライバシー感覚の変化
また、通常のYouTuberの流れと同じように、TikTokでバズったカップルがYouTubeに流れてくることも多く、もともとカップルYouTuber志望というよりも、TikTokのカップルアカウントでの需要の高まりに応じてチャンネルを開設しているようだ。
カップルYouTuberのメリットとして、こちゃにカップルが「一緒に仕事ができる。一緒に過ごしながら、楽しみながら、YouTubeで収益を頂いたりできる」と動画で話しているように、YouTuberが円熟・過渡期に入り、一人で成立するコンテンツがやりつくされてる今、カップルでやることでトークの間をもたせられ、コンテンツの幅が広がり、しかも収益を得られるので、カップルの絆も深まるということがあるようだ。
このようなカップルYouTuberの人気の背景には、テレビのコンプライアンス規制の厳格化が挙げられる。SNS時代の到来により、ユーザーの生の声がスポンサーに可視化されやすくなったのだ。そのため、TV番組の企画はスポンサーへの配慮から年々制限していき、視聴者は制約のあまりないYouTubeのほうへと流れていった。「よりリアルなものを見たい、覗き見したい」視聴者と「面白いものを自由に発信したい」配信者との「需要と供給」が一致したのである。
簡単に別れられない…デジタルタトゥーのリスク
それでも商社マンと受付嬢によるカップルYouTuber・華金カップル(登録者数7.53万人)は、「老後二人で『おもろかったよなアレ』って笑える話題を少しでも多く作りたいプラスもし有名になれたら別れるのめんどくなって別れなくなるやん」と動画で話している。彼らは今年の6月末にチャンネルを開設し、テレビ東京のプロデューサー・佐久間宜行氏がラジオで話題にしたことで一気に注目を浴びた二人だ。
しかし、3月17日に放送されたラジオ番組『きゃりーぱみゅぱみゅの なんとかぱんぱんラジオ』(JFN)では、“カップルYouTuber”をはじめようかどうか悩むリスナーに対してきゃりーが、「ありっちゃありだけど、YouTubeとかって、消したとしても誰かが残したりとか、キャプチャ、写真撮られちゃうから、もしほかの人と付き合ったときに『これ元カレじゃん』とか、そういうのはあるから、ネットはめんどくさいっちゃめんどくさい。だから、やるかやらないかは、あ〜な〜た〜次第です……」と回答。ただの若気の至りが、永遠に“黒歴史”としてネット世界をさまよい続ける…といったリスクも承知の上で、活動を行う覚悟が必要と言えそうだ。
芸能人のエピソードよりも身近にいそうな人間の日常…若年層の心に刺さる
しかし、こうした“共感”や“感情移入”だけでここまでニーズを拡大させることができたかといえば、疑問が残る。テレビのコンプライアンスが厳しくなったことにより、他者のプライベートを覗きたいという視聴者の欲求の矛先が、カップルYouTuberのコンテンツへと向かったことは“共感”以上に大きいのではないだろうか。他者の恥部や隠れた部分を覗きたいという欲求は普遍的なものだからだ。
SNSの普及により誰もが気軽に世界に向けて発信できるようになった今、若者の興味は、予定調和の面白さよりはリアリティの意外性、芸能人のような雲の上の存在のエピソードよりは、身近にいそうな人物の日常のほうへとシフトしてきている。今後は配信者も視聴者も、“距離感”と“親近感”を見定めながら、コンテンツを楽しんでいくことになるだろう。