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日本発の文化「ドール面」 今後、医療的な役割を果たす可能性も?
「ドール面」愛好者の多くは女性 女性マーケットを開く鍵に
『ぬこ☆パン』は、「アニメ面」と「ドール面」を開発・頒布している着ぐるみサークル。完成品もあるが、ベースとなる“素体”だけでも販売をしており、産声を上げたのは15年前。当時は『涼宮ハルヒの憂鬱』などアニメが今以上に元気な頃で、ハルヒを含むアニメキャラたちそれぞれに応用が利く“素体”を開発。時代時代のアニメに対応した“素体”を作ってきたが、2015年頃ある“革命”が起こる。
「ドール面の誕生です。いわゆるアニメ系の面ではなく、元は人気ゲームのCGキャラクターのコスプレがしたい場合の面として開発したのですが、それをリアルに作ったところドール風の顔になりました。そして2015年頃のアートイベント『デザインフェスタ』で、少年タイプの面を作り、人気漫画家・萩尾望都先生のようなゴシックで耽美な世界観を表現したところ、多くの人の心に刺さりました」(犬病ぬこ氏)
そしてこの「ドール面」が爆発的に広がるトリガーとなったのが球体関節人形風の出で立ちでモデル活動を開始した橋本ルル。マネキンよりも柔らかく、人間よりも無機質な「ドールファッションモデル」で16年7月にデビュー。今尚コアなファンから愛され続ける話題の人物だ。
この“ファッション”という切り口にも理由があるのだろうか。ドール面愛好者の多くは女性だと聞く。これまで『美少女戦士セーラームーン』や『プリキュア』シリーズのようなアニメ系でしか表現がなかったところで突破口を開き、女性へのマーケットを広げる“革命”に。モデルの橋本ルルの影響もあり、『ぬこ☆パン』はファッションブランドからも声が掛かる業界の雄となった。
コンプレックスの解消にも一役買うドール面 表現の場のメインはSNS
例えばゴスロリの服が好きな人が歳を重ね、「年齢的に着られないかも」と思ってもドール面をかぶればその悩みは解消される。お手軽で完璧な“美容整形“という言い方もできるのではという問いかけに、ふわちょん氏は「そういう捉え方も出来るかも知れません」と回答。
そしてドール面の発展は着ぐるみの表現にも変化をもたらした。従来、着ぐるみは野外イベントへの参加などライブでの表現を重視することが多かったが、ドール面愛好者の方々はスタジオに集まり、撮影会を催すことが多いそうだ。そしてそれをSNSなどにアップ。表現の場が、イベント会場よりSNS展開の方がメインとなっているようだ。
「通常の“素体”は真っ白な状態からスタート。アニメ面だとプラモデルなどの塗装なので一度塗ってしまうとなかなか応用が効かないのですが、ドール面は肌色に塗装された状態から、通常の化粧品などを使いメイクをしていくのが特徴です。また、普通に化粧落としで元に戻すことが出来ます。アニメ面は髪の毛が貼り付けてありますが、ドール面は普通に使用されているウィッグをかぶるだけでOK。素顔と同じようにその日の気分で化粧を変えられますし、髪を染める必要もありません」(犬病氏)
「ドール面にも“この子はオシャレさん”などのキャラクターがあり、その子のために買った服を着せたり、私服を着せたり」(ふわちょん氏)「大きい着せ替え人形のような感覚もありますね」(みはしまと氏)
医療的な役割を担う可能性も? すでに前例アリ
こうしたアニメ面やドール面にイベント会場や街中で遭遇したら「ギョッ」とする人やアンチ、差別なども生まれそうだが、「意外と好感を持って受け入れてもらえています」(犬病氏)。実際にドール面をかぶって表現するふわちょん氏も、家族や友人にこの趣味を隠す必要もないと胸を張る。
「今後、かぶる面ではなく、顔だけとか、顔の半分だけとか、部分的な開発を行う可能性もあります。そうすると例えば事故や怪我などで負った傷を隠すことも出来るでしょう。こうした医療面に関しては実は前例もあるのです。以前、醜形恐怖症で苦しんでいて、自身の顔を見てパニックを起こしてしまう方がいました。その方にドール面を作ってあげたところ、精神的な不安が安らいだと聞いています」(犬病氏)
趣味の枠を飛び越えるドール面。この日本のポップカルチャーが社会的な役割や現実の問題を解消する役割を担う日がいつか来るかも知れない。
(文/衣輪晋一)