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カラーコーンが地蔵に?SNSで反響の「地蔵コーン」作者が語る風景との調和美
古くから親しまれてきた「地蔵」はカラーコーンに似ている
長谷川さん以前から『パブリックアートを作りたい』という願望がありました。美術館やギャラリーといった場所に縛られず、日常空間に侵食していく作品を作りたかったのですが、一番の障壁は“場所の確保”で、僕のような駆け出しのアーティストでは話が通りません。そこで思いついたのが、“既製品に寄生する”という方法です。カラーコーンに目をつけた理由は、勝手に物を置けない公道に、自由に置かれたりすることに面白みを感じ、寄生するならこれしかないと思ったんです。
――モチーフを「地蔵」にした理由とはなんでしょうか?
長谷川さん日本では仏教が伝来したとき、地蔵は土着の道祖神信仰と習合して『道の守護者』という捉え方をされました。道ばたや、村の境界に置かれてきたのも、カラーコーンの役割に似ているなと思いました。また、地蔵は『仏』の代わりではなく、修行段階の『菩薩』のことです。苦しむ衆生(=生命のあるすべてのもの)を放っておいて自分だけ解脱すまいと、“あえて生滅をくりかえす輪廻の中に留まっている”のだと信じられています。そのため、素材は石や金属ではなく、風化するプラスチックがふさわしいと思いました。
繁華街に置いても2時間以上気づかれなかった
長谷川さん市販のカラーコーンを切り抜いて、金型成形した地蔵部分のパーツを接着、塗装して完成です。基本カラーの4色(赤・青・黄色・緑)は、全て工場加工で行っていますが、特殊カラーの場合は、僕が手作業で加工しています。そのため、切り口が雑かもしれません(笑)。
――今回Twitterで話題になっていましたが、普段から“発見ツイート”が散見されています。長谷川さん自身、現在どこで「地蔵コーン」に出会えるか把握していますか?
長谷川さんいくつかわかるぐらいで、ほぼ把握していません。ですから、たまにネットで消息が流れてくると『そんなところまで行っていたのか』と驚きます。そういう意味でも楽しみがいのある作品ですね。また、ネット上だと多くの人が反応するのに、以前試作品を繁華街に置いてみたところ、2時間以上誰一人気づきませんでした。人間の視野は意外と狭く、手を『前習え』に伸ばした間くらいの範囲しかちゃんと見えてなくて、あとの周辺視野は色も形も曖昧で脳が補完しているらしいんです。だから、目の端で赤い三角形を捉えても『単なるカラーコーンだ』と認識し、細かくは見ようとしないのでしょう。
「地蔵コーン」が隠れている都市風景を作りたい
長谷川さん手に入りやすくしてしまうと、 面白みがなくなってしまうと思います。僕が直接販売できるくらいの量で流通させるのが丁度いい。また『地蔵コーン』は、作品世界を拡大するためのプロセスであって、終点じゃないんです。
――と、言いますと?
長谷川さん物語『星の王子さま』で、『砂漠が美しいのは、何処かに井戸を隠しているから』という文があるのですが、最初読んだとき『これはすごい発想だぞ!』と思いました。ただ一つの井戸があるという可能性だけで、広大な砂漠を『美しい』と言い切ってしまうのですから。僕は『地蔵コーン』に似た発想で、毎年『夏の終わりごろ、街に隠したスピーカーから録音したセミの声を流し、夏を延長する』という活動を続けています。歩いている人々は聞こえているセミの声が偽物だと気づいていません。つまり『セミ=夏』という認識があるため、日時と場所を限定せずに演出することで、“夏の終わり”に疑惑が生まれるのです。そして、今タネ明かしをした時点で、これが『作品』となります。僕は『地蔵コーン』という物体を通して、『そういうものが隠れている可能性のある日本の都市風景』を作りたいんです。
ちなみにこの『地蔵コーン』だが、長谷川さんが販売価格8,000円(そのうち5,000円は工賃、3,000円は諸経費、初期費用)で『メルカリ』にて販売中。興味を持った人はチェックしてみては。