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“○○ロス”、エンタメ界のブームに一役も多用しすぎで経年劣化に?

  • “ロス現象”のきっかけ…『あまちゃん』に主演していた、のん(写真:八田政玄)

    “ロス現象”のきっかけ…『あまちゃん』に主演していた、のん(写真:八田政玄)

 7月期のドラマが最終回を迎え、10月期の新ドラマの番宣が流れるのを観ながら「ああ、毎週楽しみにしていたドラマはもう終わってしまったんだ…」と“ロス”を感じる人も多いのではなかろうか。“○○ロス”はもはやクール毎の風物詩。人気のバロメーターであり、今のこの時代に爪痕を残した証拠になっている。それを端的に表現できる非常に使い勝手のよい言葉だが、多くの人々がこの“○○ロス”を多用しすぎた結果、世の中は“ロス”だらけに。本来は“社会現象級”の人気を持つ作品や俳優に使われてきた言葉。あまりに使用されすぎて経年劣化を起こしているようだ。

「あまロス」「逃げ恥ロス」「おっさんずロス」、“ロス現象”は人気のバロメーター

 “ロス”が大々的に使用されるようになったのは、2013年に放送されたNHK連続テレビ小説『あまちゃん』だろう。最終回を迎え、「明日の楽しみがなくなった」「ぽっかり心に穴が空いた」など一般ユーザーから著名人まで、SNSでお互いの傷をなめ合い、そうした現象に「あまロス」という言葉が用いられた。メディア研究家の衣輪晋一氏は「その翌年、フジテレビの顔であった『笑っていいとも!』が31年半の歴史に幕。それが報じられた頃から、“タモロスが来るのではないか”との分析がネットニュースなどで報道されていました。このあたりで“○○ロス”は完全に定着したといっていいでしょう」と解説する。

 これ以降、エンタメ界で“ロス現象”が話題に。昨今のドラマでいえば16年の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の「逃げ恥ロス」、今年の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の「おっさんずロス」が筆頭格。「おっさんずロス」に至ってはとくに視聴者の愛が深く、先日のテレビ朝日の定例会見で、角南源五社長が「続編への期待も多くいただいている。その期待に応えたい」と発表されたほどだ。

 このほか、人気タレントの節目についても、2014年に一般女性と結婚を発表した西島秀俊への「西島ロス」。2015年、福山雅治が吹石一恵の結婚に「ましゃロス」も話題に。おめでたいことだけに不満や怒りとも言えない、漠然とした寂しさを見事に“ロス”が表現しており、仕事に行けない女性が続出した。また、9月16日に引退した平成の歌姫・安室奈美恵のファンはおそらくまだ「アムロス」の真っ最中だろう。SNSでも「#アムロス」で検索すると今も多数の投稿がヒットする。ここに挙げたのはごく一部だが、昨今はほぼどの現象にも“○○ロス”をSNSで訴えるユーザーが。まさに世の中“ロスだらけ”の様相を呈している。

SNS時代が生んだムーブメント、人気キャラクターの途中離脱も“ロス”で話題に

 ではなぜ、これほどまでに“○○ロス”という言葉が定着したのだろうか?
「“○○ロス”は、インターネットがこれほど世に浸透したからこそ発明された言葉。そして、SNSなどファン同士が共感し合えるツールがたくさんある現代ならではの現象です。“ファンの集いやすさ、話しやすさ、共感のしやすさ”という意味では環境的に、ネット台頭以前と比較にもなりません。テレビでは視聴率が低迷している昨今ですが、ネットメディアではこうした多くのユーザーの共感を集める言葉がトレンドとなり社会現象に繋がります」(衣輪氏)

 つまり、視聴率が昔ほど取れなくても、このネット時代に愛の深さを表す言う点で“ロス”の声は人気のバロメーターとしても機能していると言える。また、汎用性も高いことから、様々なバリエーションが生まれていくのも特徴だろう。

 劇中で途中離脱するキャラクターやその俳優を惜しむ“ロス現象”もその中の一つ。例えばNHK連続テレビ小説『あさが来た』でのディーン・フジオカの「五代ロス」や、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』での高橋一生の「政次ロス」は物語の途中で人気キャラクターの出番が終わり、視聴者の寂しさを表現している。

 今まで、どんなに印象の残る演技をしても、最終回まで残れないとなるともどかしいこともあっただろう。だが、“途中離脱系ロス”がSNSで話題になることで、作中の活躍が報われ、さらに、その役者の人気にも火がつく。“○○ロス”という言葉が役者人気を後押しした事例だ。

“○○ロス”多用に疑問、社会現象級の“ロス”が希薄化?

 だが、便利で話題性を実感しやすいゆえに問題点もある。「人の好みは十人十色、皆それぞれ好きな作品や好きな俳優があり、それがSNSの発展で簡単に世界へ発信できることもあって、それがごく個人的なロスなのか、社会現象級なのか、計れなくなってきているのです」(衣輪氏)

 この結果、使われすぎたことで本当に“ロス”なのか疑いたくもなってしまうケースは多い。さらにいえば、“ロス”で話題になったように思わせるプロモーションもメジャーになっており、自然発生的な本来の“ロス”ですら少々嘘っぽく見える現状もある。

 「“○○ロス”現象は今のSNS時代に適応しすぎており、表現の価値内のみで独り歩きで進化、好き勝手に扇動されることにも誰も疑問を抱かぬ状態。ファンの間ではそれでいいのですが、外から見ると頭に“?”が浮かぶこともある状況です。せっかくの“共感に便利な言葉”の本来の意味や価値が色あせ、経年劣化が進んでいると言えます」(衣輪氏)

 “○○ロス”が継続的なブームを作った功績は大きい。だがその一方で、軽率に使われすぎている感も否定できない。自戒も込めてメディアやプロモーション側は今一度、本来の“ロス”の意味や価値を見つめ直すべきではないだろうか。せっかくのエンタメ界を盛り上げるこの言葉、自身で衰退させてはもったいない。

(文/西島亨)

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