佐藤健、20代最後の勝負で勝ち得た再評価 芝居のおもしろさを視聴者へ再認識
同時期に2つのドラマで見せたキスシーンが話題に
そんな佐藤が今期、『半分、青い。』『義母と娘のブルース』(『ぎぼむす』)の2つのドラマに出演。『半分、青い。』で演じる律は、ヒロイン・鈴愛(永野芽郁)の幼なじみで初恋相手。恋人とも夫婦とも違う、その繊細な男女関係が視聴者をやきもきさせた。『ぎぼむす』では職を転々とした麦田役。語尾は「〜っす」でチャラくて雑。『半分、青い。』の律とは真逆のタイプの男性を演じ、SNSでも「同じ人とは思えない」などの感想が挙がるほか、18日『ぎぼむす』、19日『半分、青い。』と立て続けに違うシチュエーションのキスシーンを見せたことで「それぞれのキスが美しい」「役柄の違いでまったく違う感情が得られる。これがお芝居のおもしろさ」などのコメントも。どちらのキスシーンが好きかで熱く語り合うファンも多かった。
「オリコンドラマバリュー」満足度調査でも、『半分、青い。』では「律が風を読む姿がいい」(女性40代/千葉)、「佐藤健はカメレオン俳優。主演の邪魔にならず淡々と演じてきた『半分、青い』では、いつもと違う佐藤健を見ているような気がする」(女性50代/東京)など。『ぎぼむす』では、「佐藤健の演技の上手さをドラマを観て感じた」(女性30代/千葉)、「誇張されたキャラクターを嫌味なく演じていてとてもいい」(女性40代/東京)、「律とは顔から別人ですごいと思った」(女性40代/神奈川)、「佐藤健の演技の幅広さを朝ドラと比べて実感した」(女性50代/愛知県)などそれぞれの演技に対して高い評価の声が集まっている。
総じて佐藤の「顔まで別人になる演じ分け」「演じたそれぞれのキャラクターの良さ」を称賛する声が多い。本来、俳優なのだから演技力が高くて当たり前だが、今回それが同時期だったことから、その当たり前のすごさが浮き彫りになり、視聴者に改めて認識させた。だが、これが佐藤健ではなかった場合、やはり同じ反応があったかと問われれば、必ずしも「そうであった」とは言えまい。
20代最後の年、俳優として焦りも感じていた
また映画『亜人』の際のORICON NEWSでのインタビュー(17年9月)でも「あまり感情を外に出すタイプではない」と話す。そして「すごいアクションをしたあとには、まったく異なるヒューマンドラマ、コメディやラブストーリーをやりたくなる。そうやって、自分に正直にやりたいことをやっているところもあり、イメージが固まらないように気をつけている部分も少なからずある」と自己分析する。
さらに、仕事を始めた頃から「期待を裏切りたくない、応えたいという気持ちでずっと演じてきた」という佐藤は、来年30歳を迎えることについては「20代の自分が名残惜しいからこそ、作品に残したい、できる限り刻んでおきたいという気持ちが強くなっている」「20代が終わってしまうと思うと、多少は年齢的な焦りを感じますね。だから、30過ぎくらいまでは、久々に本気を出そうかと思っています」と語っている。
その本気を出した結果が今回の評価につながったのかもしれない。実は自身も危機感を感じていたようで、前述の映画『8年越しの花嫁〜』イベントでも、これまで少年漫画原作の実写化などが多かったことを振り返り、「そろそろ(普通の)人間を演じないと俳優生命が危うい」と冗談めかして笑いを誘っている。
演技の振れ幅の広さと母性本能をくすぐる男の色気
そんな役が多かったなかで、今期の2作での匠なストーリーテリングと見事にマッチしたキャラクター像の体現は、女性だけでなく、男性をもテレビに釘付けにした。とくにこれまで多くの作品で演じてきた“強い男”イメージとは異なる、『半分、青い。』の“弱い男”を匠に演じる演技の振れ幅の広さ、母性本能をくすぐる男の色気は、新たな佐藤健の魅力を開花させたと言っていいだろう。
作品として高評価を得ている2作だが、演技のおもしろさを改めて視聴者に再認識させ、自らもひとつステップを上がった佐藤を再評価する機運も今まさに高まっている。朝ドラで脚光を浴びた今、これまで以上に幅広い層の視聴者の視線を一身に集める佐藤。次のドラマではどんな姿を見せるのか。30代に差しかかる今、これまで以上の輝きを増している彼の動向に注目したい。
(文:衣輪晋一)