昨今の女性主人公ドラマの共通点、ハッピーなだけでは共感されない
『義母と娘のブルース』第8話より(C)TBS
各ドラマの女性主人公に見る特徴的なキャラクター
『健康で文化的な最低限度の生活』(関西テレビ・フジテレビ系)のヒロイン・えみる(吉岡里穂)は、区役所の生活課に配属された新人ケースワーカーだ。ごくごく平凡な家庭に生まれ育ち、かつては大学で映画を撮っていたが、安定を求め現職についた。ごくごく平凡と最初に言っているように、えみるよりも周囲のほうが個性豊かなのだが、生活保護を受ける人たちや、課の人々と過ごすなかで、タイトルにあるようなことをの通り、健康で文化的な最低限度の生活とは何かを考えるようになっていく。
『透明なゆりかご』(NHK)のヒロインのあおい(清原果耶)は、高校の准看護学科に通う17歳で、夏休みに産婦人科の看護助手のアルバイトをしている。アルバイト初日から妊婦を助けようとして遅刻してしまったり、不器用なところもあるが、じっくりと患者や状況を見つめているところがある。自分の身の回りに起こったできごとを受け止め、とことん考えるところがある。
ラストスパートをかける朝ドラ、『半分、青い。』(NHK)のヒロイン・鈴愛(永野芽郁)は、朝ドラヒロインのなかでは異色の存在と言ってもいいだろう。放送の上では、現在40代になろうとしているが、いまだに失敗続きで、実家に帰ってきて、まさに何かを始めようとしているところだ。傍若無人で、思い付きで行動しているようなところも多く、朝ドラヒロインの型に押し込めようとすると前例がなくて戸惑う人もいるかもしれないが、正しいだけではないヒロインに妙に癒されるところもある。
『高嶺の花』(日テレ系)のヒロインで、石原さとみ演じる月島ももは、華道の家に生まれた才色兼備で非の打ち所がない女性、とドラマが始まる前には紹介されていたが、いざ始まってみると、婚約者に結婚当日に裏切られ、その後はストーカーのような状態に。そんななかで会った自転車屋の冴えない店主に出会ったことで変化していく。
各ドラマに共通するのは女性主人公が“苦い経験”に向き合う境遇
『健康で文化的な最低限度の生活』(C)関西テレビ
『半分、青い。』は、朝ドラにしては珍しく、恋愛でも仕事でも、いまのところうまくいった試しはなく失敗ばかりだ。『高嶺の花』でヒロインに起こる出来事は、破談、出生の秘密による確執、お家騒動、格差恋愛など、現代のドラマにしては、少し大味な気もするが、それでも、ほろ苦い現実を描いていることは間違いない。
『透明なゆりかご』には、ヒロインが「現実は、私が思うより、残酷なのかもしれない、だけど…」というシーンがある。苦い出来事がヒロインにふりかかるのは、こうした残酷な現実があるという前提を共有するためかもしれない。
以前であれば、ヒロインが結婚したとか、何かを達成したとかをきっかけに、「めでたしめでたし」と終わるものも多かったが、最近のドラマには、単純なハッピーエンドは少なく、人生の区切りのその先を描いたり、この後も登場人物はどこかでずっと生きているんだろうなと思わせるものが多いし、そんなドラマには根強いファンがつく。
今期ドラマ女性主人公に映る、普通が共感されにくい現代社会
一方で、かつては多くあった、その世代に特有の自意識を描いたり、人と比べて自分は負けていると嘆いたり、世間の平均値やそれより上に到達することに(例えば結婚や就職など)目標をかかげて、そういう私になろうとするドラマは今期に限っては非常に少なくなっている。もはや、平均値や普通が共有されにくいし、それを目標に掲げることに共感を得られにくくなっているのではないか。
『ケンカツ』の第1話で、大学で映画監督を目指して奮闘していたヒロインのえみるが公務員になり、受給者が亡くなってしまうという苦い経験をしたことを受けて、「映画であれば、(担当受給者の)平川さんの死とともに物語は終わる。きっと主人公は最後に、『こんな思いもうしたくない』とかなんとかいって、エンドロールへ向かうのだろう。でも、現実の物語は、まだ始まったばかりで」と語るシーンがある。
このシーンに代表されるように、今のドラマは、物語をスッキリと終わらせるために進めて共感が得られることは少ない。ヒロインの物語は苦い経験を受けてからが始まりなのではないだろうか。
(文:西森路代)