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『半分、青い。』朝ドラ史上稀に見る“特異な”盛り上がり 現代ならではSNSとのマッチング

  • 永野芽郁(写真:逢坂 聡)

    永野芽郁(写真:逢坂 聡)

 9月29日、ついに最終回を迎えたNHK連続テレビ小説『半分、青い。』。永野芽郁、佐藤健ら俳優陣、同枠や作品の人気はもちろんだが、より注目度を上げたのが、リアルタイムで毎朝飛び交う視聴者による感想ツイートだった。そこには脚本の北川悦吏子氏も参戦し、結果本作は、朝ドラの中で歴代1位と言えそうな一種独特な盛り上がりを見せた。再放送含め1日計4回放送される特性も生かした朝ドラ。SNSとの驚異のマッチングを見せた同作をロールモデルとする事で、SNS時代におけるドラマの在り方が見えてくる。

『半分、青い。』脚本家も参戦したSNSでの予想以上の盛り上がり

 今年4月にスタートした同ドラマは高視聴率を維持しつつも、SNS上では個性豊かなキャラクター、親しみやすい時代背景、人気番組のパロディ、当時の流行歌、ヒロイン像や今後のストーリー展開の見どころなどをめぐり、様々な意見が飛び交って賛否両論があがり、本篇とは別軸のヒートアップを見せていた。

 賛否両論といえば、脚本を担当した北川氏のツイートもそうだ。北川氏は自身のアカウントでストーリーの背景やこぼれ話などを投稿。脚本執筆にあたり、「1971年前後生まれで、地方公立高校出身の方。兼部ってありました? 体育系と文科系の兼部です」など、ユーザーから情報を募るなどして、そのネタは実際に劇中に反映。その大胆な試みに「革命的」「親しみやすい」などの声がSNSやネットニュースで広がった。

 だが、SNSとの絡みで盛り上がる一方、時に視聴者との解釈の食い違いを起こし炎上する場面も。「それが律の気持ちだといわれても…」「こっちは自分なりに楽しんでいるのだから、自己内設定を語らないで欲しい。何より納得できない」「今ネタバレ的な見どころをツイートしないでほしい、何のために続きを楽しみにしているのか」など批判が多く寄せられ、北川氏も自身のツイートで「ドラマの裏側を一切知りたくない人は私のツイートを読まないでくださいね」と言わざるを得ない状況になってしまった。

 「同時に北川さんが難病を抱えての執筆だったことも話題に」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「北川さんは2012年、聴神経腫瘍で左耳を失聴しておられるほか、もともと腎臓に持病が。本作執筆中にも救急車で2度病院へ。病室で執筆もしていた時期もあり、SNSやネット掲示板では北川さんを応援する声が上がったほか、『あの独特なセリフは入院経験で浮かんだものなのか』『一種奇妙な展開も、普通では経験できない闘病経験あってこそかも』など、視聴者がそれぞれ分析、意見を交換し合う場面も見られました。放送とSNSが絡むことはあっても『半分、青い。』はかなり違う形で盛り上がっている。その意味では朝ドラ史上イチの盛り上がりといえます」(同氏)

前後番組との“無意識”のつながり、忌憚のない朝ドラ受けがSNSの土壌に

 北川氏のツイートに端を発するSNSでの盛り上がりは、次の昼の放送までの間の“答え合わせ”にもなっていた。再度各シーンを見てどんな違う印象を受けるか試みるきっかけになっていたようなのだ。

 “答え合わせ”や昼の再放送へのきっかけでは、朝の放送直後にスタートする『あさイチ』での“朝ドラ受け”も。博多華丸が、感慨深いラストで目頭を抑える場面が話題になったほか、様々な名言も誕生。木曜放送で問題勃発、金曜にジラし、土曜に解決する流れに「ムービングサーズデー」、第73話で律のプロポーズを鈴愛が断ったシーンでは「(鈴愛が)笛を吹いて(律を)呼び止められんかったら(律は列車に乗って、鈴愛の目の前に)いなかったわけでしょ? 帰る予定やったやん。なんであんな急に。これはおかしい。オフサイドだ。プロポーズのオフサイドだ」と発言。この「プロポーズのオフサイド」にSNSで「さすが華丸」「よくぞ言ってくれた」とユーザーが乗っかりまくった。

 過去にも、当時『あさイチ』出演だった有働由美子アナウンサーの忌憚ない意見、時に感情をむき出して話す姿も話題に。また朝ドラの昼の再放送後のニュースでも、精悍な印象の高瀬耕造アナが、ドラマの展開によってはニヤついたりうるうるするなど、そのチャーミングさが「高瀬アナの朝ドラの昼受け」として密かなブームとなった(高瀬アナは9月卒業)。これも総合テレビで朝・昼、BSプレミアムで朝(先行放送)・夜と数回放送される朝ドラならではの現象といえる。

 さらに、今では定番化された“○○ロス”というワードも「あまロス」「五代ロス」など、朝ドラ発信といえる。それほど注目されている枠ということであり、日本のドラマ界でも特異な位置にいることが分かるエピソードだ。

リアルタイムでフランクに突っ込める“余白”を視聴者に与える事がカギ?

 「とはいえ、『半分、青い。』も視聴率的には歴代作品に及ばないのが事実。ここから伺えるのは、やはり今のテレビは視聴率がすべてではないこと」(衣輪氏)

 NHK、朝ドラと聞くと、どうしても「優等生」「お固い」「マジメ」という印象がつきまとう。だが本作に関しても、先述したように“革新的”な面があり、SNSで良くも悪くも大盛り上がり、フランクにツッコまれ楽しまれている。

 「テレビがお茶の間の中心だった時代、家族や友達とツッコみながら見る光景はごく一般的だった。今はその場がSNSなどネット空間に移っただけ。視聴率では分からない盛り上がりがネットにはあり、テレビ離れとはいいますが、動画配信サービスの大半はテレビ発。つまり今も昔も視聴者はテレビを楽しんでいることに変わりはない。テレビがつまらなくなったとは到底いえない」(衣輪氏)

 また「視聴者の声を脚本家がSNSでリアルタイムで受けたり、同局の番組が感想を言う場として成立するなど、テレビコンテンツ史上初と思える光景もそこにある」と衣輪氏。脚本家の野木亜紀子氏がドラマの反響情報を自らツイートするなどはあったが、ここまでのSNSでのつながりは『半分、青い。』が作ったエポックで、さらには功績ともいえよう。これがどこまで民放でやれるかは未知数。だが『半分、青い。』のやり方を手本に似た形は今後、増えていくのかもしれない。

(文/西島亨)

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