ドラマ『dele』が切り拓いた新たなカタチ、出版不況のなか連ドラが小説家の新たな発表の場に
“物語のプロ=小説家”が映像先行でストーリーを構築
「『PAGE-TURNER』というプロジェクトがきちんと名前を冠したのは15年ですが、『BORDER』の頃からすでに原型は動き始めていました。小説を原作とする映像作品ではなく、最初から映像化を前提とする企画を小説家が本気で考えたらどうなるか、という発想です。作家というのは、世界観を構築し、キャラクターを造形し、物語を展開させることに関してはプロですから、これまでにない映像作品が生まれるのではないかと考えました。
単純に、映像業界にはより豊かな選択肢を提示できるし、小説家にとってはそこでの経験が自身の小説にフィードバックもできます。しばらくは僕の企画ばかりでやってきましたが、今回の『dele』で、友人でもある小説家の本多孝好さんを巻き込むことができました。彼の原案を元に、彼自身や私も含む複数の脚本家が参加するドラマを世に送り出すことができたことで、いよいよ『PAGE-TURNER』が本格稼働しつつあるという状況です」(PAGE-TURNER/小説家・脚本家 金城一紀氏)
金曜ナイトドラマ『dele』のドラマ満足度推移
常に放映枠を抱える「連続ドラマ」が大きな出力先に
PAGE-TURNER/KADOKAWA 執行役員 堀内大示氏
オリジナルの映画企画がなかなか通りにくい現在、常に放映枠を抱える「連ドラ企画」が大きな出力先となる。今も複数の企画が同時進行で検討されているとのこと。
「まだ金城さんの企画がほとんどなのですが、今後はほかの作家さんの企画も増えていくはずです。ほかの出版社が主戦場という作家さんでも、あるいはしばらく小説が書けずにいるといった方でも、もしも映像化を前提にした物語のアイデアが眠っているなら、ぜひ一度コンタクトしてみてほしい。優れた企画というのは、ほんの数十秒の簡単な説明を聞いただけでも、これは行けると直感的に判断できてしまうもの。そうした強靭でシンプルな企画は、テレビ局さんなど映像制作側も常に求めているものだと思います」(堀内氏)
そのまま海外でも通用するような、上質なドラマ作りに挑む
18年5月25日に発売された、小説版『dele』(角川文庫)
18年6月15日に発売された、小説版『dele 2』(角川文庫)
ですが、作家側のわがままを押し通すつもりはまったくない。万が一、ある小説家が何度直しても形にならない脚本しか書けない、といった場合、最終的に僕が全面的に書き直すくらいの覚悟はあります。幸い『dele』ではそんな事態にもならず、ドラマも高い評価がいただけて、仕上がりにも満足しています。でも、まだまだここから。リメイク権が売れて喜ぶのではなく、そのまま映像作品として世界の人がそのまま楽しめるような、普遍的な構造と魅力を持ったドラマが日本でも作れるはず。そのためにも、制作サイドには小説家の力をもっと有効活用してほしい。そのための結節点になれれば」(金城氏)
出版物全体の売上が連続して縮小傾向を続ける状況のなか、作家という特殊な才能を持つ人的リソースの新たな出口戦略としても、「PAGE-TURNER」の試みは大きく注目される。今後のさらなるプロジェクトの広がりと成果に期待したい。
(『コンフィデンス』10/1号掲載)
文/及川望