ヒットドラマ連発、“ドラマのテレビ朝日”へ? テレビ逆境の時代に愛された局
テレ朝ドラマの躍進の裏に放送枠カラーの浸透
最近では、視聴率でもドラマが好調な同局だが、とくに刑事ドラマ枠やミステリー枠の人気は固く、数字も安定しており、ドラマ視聴率ランキングでも上位が定位置になっている。木曜9時枠の木曜ドラマも人気で、先述の『ドクターX』をはじめ、最近では草g剛の人気シリーズ『スペシャリスト』、木村拓哉主演『BG〜身辺警護人〜』、『未解決の女 警視庁文書捜査官』、そして現在は『ハゲタカ』が放送されている。
この木曜ドラマは、他局のドラマともよく比較される枠。いつ頃から話題になり始めたのかを振り返ると、存在感を示すきっかけになったのは、米倉涼子の松本清張シリーズだろう。当時、木曜ドラマの裏にはTBSの『渡る世間は鬼ばかり』があり、視聴率的に負けることがほとんどだった。だが、2004年の米倉主演ドラマ『黒革の手帖』が『渡鬼』に数字で勝った。このシリーズは、『けものみち』『わるいやつら』へと続いていき、その後も米倉は『公証人 〜THE NEGOTIATOR〜』、そして『ドクターX』と同枠の顔になっていった。
若年層のテレ朝ドラマ視聴習慣を作った金曜ナイトドラマ枠
この枠は、尖った切り口などの評価だけでなく、2007年の『只野仁』の3rdシーズンでの視聴率14.35%など、深夜としては数字も高めなのが特徴。また『TRICK』など、今も続編が望まれている大人気シリーズもあり、この枠がテレ朝ドラマの視聴習慣を作るきっかけになったと言えるだろう。この頃、テレ朝深夜枠を観ていた若者が、歳を重ねて30後半から40代となり、テレ朝ドラマに好感を持ってチャンネルを合わせていることがある。
そして17年に土曜ナイトドラマ枠がリスタート。前クールの『おっさんずラブ』が大きな反響を呼んだこともあり、最近はちょっとおとなしい印象のあったテレ朝深夜ドラマ枠が息を吹き返した感がある。現在、深夜ドラマ枠では、20代後半から30代の勢いのある若手がプロデューサーとして活躍しているが、若い感性で従来にない、今どきのテーマで作品作りをしているのが見て取れる。
それができているのは、若手にチャレンジさせる社風だろう。現在上の立場にいるプロデューサーは、テレ朝が数字的に辛酸を嘗めていた時代を知っており、苦労もしている。“現状を打破するためにチャレンジしたい”という若いクリエイターの気持ちを理解しており、フォローしつつ後押しをしている様子。木曜ドラマでも同じことが言える。
刑事ドラマ枠やミステリー枠の好調があってこその挑戦
少子高齢化という、テレビ的には逆境の時代に愛されたテレ朝。ただ、時代は移り変わっていくもので、テレ朝土曜の顔であった『土曜ワイド劇場』は終了。今は、テレ朝が得意な潮流と釣り場になっているだけで、20年後も同じ視聴者層が同じ人数だけいるとは限らない。つまり魚はいつまでもいるとは限らない。だから深夜枠が重要になる。
テレ朝は以前より、視聴者層の高齢化については危惧しており、ドラマはもちろん、バラエティでも“ネオバラ枠”として、若者向けの番組作りのノウハウを培ってきた。これは社内的にも力を入れているところで、10〜15年前の金曜ナイトドラマ枠を観ていた層が今のテレ朝を支えているように、今も深夜枠でファンを作り出し未来に続けようとしている。
(文/衣輪晋一)