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現実世界とホログラムが融合した“MR技術”とは? インフレ化するバーチャル世界に光明
AR、VR、MRの違いとは? 現実世界に仮想世界の情報を“ミックス”
上田氏は、「MRはARとVRの両方を包括した、さらに広い概念です」と説明。続けて「ARを用いた『ポケモンGO』は確かにポケモンが現実世界に表示されますが、ずっと正面を向いていて3Dながら2次元的。しかし、マイクロソフトのMRデバイスMicrosoft HoloLensを使うと、実際に、そこに物があるように後ろに回り込んだり、下から覗き込んで見ることができる。そこが大きく違います」と話す。さらにMRでは、AR、VRでは不可能な、複数人による同じ映像のシェアが可能となっている。
MRデバイスは近未来のコンピューター 一般向け販売は未定
このような革新的な新しい技術は、一般的に、教育・ビジネス・医療・軍事といった専門的な分野からエンタメ関連の領域へ進出してくるのが通例。医療で使用している顕微鏡から発展したカメラ製造、軍事の弾道計算から実用化されたコンピューター、ミサイルなどの誘導から生まれたGPS機能などはエンタメを大きく変えた。
HoloLensはまさにその段階で、まだデベロッパーや法人向けにしか販売されていない。「戦略としては、まずデベロッパーや法人のお客様に使っていただけることを証明してから、マーケットを大きくしつつ、価格、大きさ、重さを調整。一般ユーザー向けに販売したい」と上田氏は語る。
エンタメ業界におけるMR ゴジラが街を破壊するイベントも話題
エンタメ業界ではMR技術を応用したアトラクションを国内で初めて東京・池袋『ナンジャタウン』に導入、『パックマン』の世界を楽しめる『PAC IN TOWN』が好評を博した。
日本テレビでは、『日テレMR』として、プロ野球中継のテレビの周りに、スコアや登板選手名が表示されたり、音楽番組の出演アーティストが等身大のホログラムで見えるなど、新基軸の視聴体験を模索。NHKでは、東日本大震災で津波に流された陸中山田駅をMRで再現、住民たちに感動を巻き起こした。
最近では『ゴジラ・ナイト』というイベントを開催。HoloLensを付けると、東京・日比谷の街に118.5mのゴジラが登場。ホログラムの建物を破壊しながら、ゴジラが吠え、巨大なしっぽを振るという衝撃体験を提供した。
現在のエンタメシーンで、ユーザーが本当に求めている“バーチャル”とは?
気になる問題点としてはやはり、HoloLensの価格と重さ。価格は33万3,800円とやはり企業向け、重さは579gだが、上田氏いわく「開発と普及とともに値段も重さも下がっていくと思います」とのこと。今後のハードウェアの開発次第でさらに使いやすく、洗練されていくはずだ。
バーチャルな技術が次々に登場している現代。最新技術を突き詰めていくインフレ化によって、ユーザーが置いてけぼりにされている感があるのでは、という疑問も。
近年のエンタメシーンでもさまざまな取り組みが行われてきた。映画業界では2009年の『アバター』以降、3D映画人気に火がついたが、世界的に人気は下火に。『リメンバー・ミー』など海外の有名作品でも日本では3D公開が見送られるケースも出ている。同様に映像に合わせて風、香り、水しぶきなどが体感できる4DX上映も制作作品は限られている。
ゲーム業界では、PlayStation VRもリリース当初は大いに話題となったが、持続的にヒット作が出ている状況とは言い難い。常に新たなチャレンジと技術革新は大切だが、作り手は、本当にユーザーが求めているものは何なのかをしっかりと見極めて、新たな技術、コンテンツを展開していく必要があるのではないだろうか。
そんな中、MR技術は、あくまで現実世界がベースにある技術。VRのような完全な仮想空間に一人で没入するのではなく、MRは自分以外の人とも“共有”できる楽しみ方もあり、“現実世界の延長線上”に位置する技術として、どこか温かみやアナログ感が残っているのも魅力だ。
MR技術はエンタメ業界に対して大きな可能性を秘めている。近い将来、身近に楽しめる日が来るのは間違いないだろう。愛しのアイドルをホログラムとして映し出したり、NHKの陸中山田駅の再現のように、“思い出の景色”を仲間と体験したり“感動を巻き起こす技術”として注目されそうだ。