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人間の思考すらも“タイパ”が求められる? 子どもの教育現場で問われる“生成AI”との向き合い方

 今年の『新語・流行語大賞』にもノミネートされた“生成AI”。業務の効率化や人的リソースの補助などから、急速な普及が進んでいるのは周知のとおり。一方、芸能人の偽コメントや児童の性的画像が生成・拡散されるといった問題や、小中学生が「読書感想文」や「数学の宿題」などに生成AIを使うケースも散見される。発達段階にある子どもの思考力や判断力の育成と生成AIの活用、教育現場は、どのように折り合いをつけていくべきなのか? 生成AIを活用した小学生向けサービス「自由研究おたすけAI」を開発したベネッセ「進研ゼミ小学講座」の責任者・的場一成さんに見解を聞いた。

生成AIは同質化した仲間とは異なる立場の意見が得られる補助ツールにも

──この夏、ベネッセがリリースした生成AI技術を活用した「自由研究おたすけAI」について教えてください。

的場一成さん 本サービスは、キャラクターとの対話を通して子どもの興味・関心を広げ、自由研究のテーマ探しをサポートするものです。「〜の答えを教えて」や「読書感想文を書いて」といった指示には直接的な答えを出さず、質問に対して「こう考えてみたら?」「こんな調べ方があるよ」とアドバイスすることで、子どもの考える力や能動的な学習意欲を促す設計となっています。

──自由研究のテーマをなかなか決められない子どももいると思います。しかしテーマにたどり着くまでに試行錯誤する時間を非効率的として、人間の思考すら“タイパ”が求められるようになるのでしょうか?

的場一成さん たしかに生成AIのメリットは効率化です。ではなぜ効率化をするべきなのか? それは単に楽をするためではなく、本質(自由研究そのもの)にじっくり向き合う時間を確保するためだと考えます。生成AIが普及した社会では、人間にはより本質的な思考力や判断力が求められるようになるのではないでしょうか。これからの未来を生きる子どもたちが生成AIに触れ、有効な活用法を培うのは、一定の有益性があると思われます。一方では、ゲームやスマホと同様でお子さんにどんな環境を与えるかは、家庭ごとにさまざまな考えがあると思います。

──生成AIは、時に突拍子もない回答をすることもあります。これが子どもの発想を広げるような側面もあるのでしょうか?

的場一成さん そうですね。生成AIをグループワークの一員と見なしてみるといいかもしれません。自分が全く思いつかなかった意見が出て、そこから新たな発想が生まれたり、論理が積み上がっていくのがグループワークの良さです。私たちもしばしば学校の先生から「生成AIは教育に使えますか?」と相談を受けるのですが、グループワークの提案をすることはあります。多様性が求められる今の時代、生成AIは同質化した仲間とは異なる立場の意見が得られる補助ツールにもなり得るのではないでしょうか。

「生成AIの答えは必ずしも正しくない」大人も子どもも批判的な思考力が求められる時代

──今年7月には文部科学省が「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表しました。教育現場では、どの程度、生成AIが活用されているのでしょうか?

的場一成さん かなり先進的な先生が使い始めた段階でほとんどの学校では、まだ活用されていない状況ではないでしょうか。また生成AIには、メリットだけでなくデメリットやリスクもあるため、現段階では教育現場への導入は慎重になるべきだと考えています。

──教育を取り巻く議論の中では、生成AIが子どもたちの思考力の発達を阻害してしまうのでは? といった懸念も上がっています

的場一成さん 生成AIに聞けばなんでも答えてくれる。その結果、子どもが考えることを放棄してしまうということですね。そのリスクももちろんあり得ると思います。しかしテクノロジーの発展は不可逆的であり、リスクがあるから完全にシャットアウトした方が良いかは疑問です。むしろ今は、生成AIをいかに有効に活用するかを、子どもたちに教育する局面に来ているのではないかと思います。またそれ以前に、大人も含めて「生成AIの答えは必ずしも正しくない」ことをしっかり認識しておくことも大切です。

──生成AIは発展途上で倫理的・思想的に不適切な回答をすることもあります。こうしたリスクに対しては、どう対処するべきでしょうか?

的場一成さん 例えば、「自由研究おたすけAI」は一般に公開されている生成AIサービスをベースにしていますが、小学生の安心・安全な利用に配慮して、システムにベネッセ独自の制御をかけてあります。特に低年齢の子どもは誤情報を素直に受け取ってしまいかねないので、年齢に応じた一定の制御、制限は必要だと考えています。

──誤情報は完全に排除できるのでしょうか?

的場一成さん 正直言いますと、現在の技術で完全に排除するのが難しいのも事実です。そのため「自由研究おたすけAI」は保護者の承認を必須とし、親子で利用するものとしました。現段階において子どもが生成AIを利用する際には、保護者や教師といった指導者の補助は欠かせないものです。また生成AIに限らず、ネット検索やWEB広告なども含めて、「これって本当に正しいのかな?」といった批判的な思考力が求められる時代です。情報を鵜呑みにせずに自分の頭で考えて判断する力や、正しい情報を得るスキル。いわゆる情報リテラシー教育は、生成AIが普及する社会においてますます重要になってくるでしょう。

生成AIは子どもの個別指導を補助する最適なツールだが、非認知能力や問題解決能力をAIでは担えない

──子どもの教育において、AIはどのような距離感を保って活用していくべきでしょうか?

的場一成さん 今の時代は積極性や粘り強さ、リーダーシップといった教科だけでは測れない、いわゆる非認知能力や問題解決能力が生きる力に大きく関わってくるとされます。そうした力は、友だちや先生、家族など人間同士の関わりの中で育まれるものであり、AIには担えません。

──すべての教育がAIに置き換わることはないということですね。

的場一成さん もちろんそうです。それと同時に子どもの発達は個人差が大きく、一斉授業や一律的なカリキュラムに適さない子どももいます。とはいえ、教師が個別対応をしていくのも限界があります。そういった意味では、AIは多様な子どもの個別性に最適化した教育を提供する補助ツールとしてますます活用が進むと思われます。

──学習指導要領に生成AIが記載されることもあるのでしょうか?

的場一成さん それはお答えできる立場にはございません。いずれにせよ、子どもたちによりよい教育を提供するためにも、AIといかに共存していくかの議論は、社会全体でもっと深めていくべきでしょう。

(文/児玉澄子)
◆生成AIを活用した小学生向けサービス「自由研究おたすけAI」はこちら(外部サイト)
◆「ベネッセ」オフィシャルサイトはこちら(外部サイト)

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