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外国籍、シングルマザー、LGBTQ、高齢者…“住宅弱者”と空き家問題を繋ぐサービス、加盟店4年で10倍に

 外国籍、LGBTQ、高齢者、シングルマザー、障害者などの“住宅弱者”は、あらゆる偏見から物件の賃貸契約に困難が伴う。一方、空き家増加が年々深刻化する中、賃貸経営が難しくなっている不動産も少なくない。そこで住宅情報サイトを展開するライフルホームズでは、“住宅弱者”に対応できる物件の案内や相談に応じてくれる不動産会社を検索できるサービス『フレンドリードア』を2019年より展開。当初約500店舗だった加盟店を約5000店舗にまで伸ばし、ユーザーへの認知も高めてきている。自身も中国籍で、差別を体感したという同事業責任者のキョウ・イグンさんに、住まい探しにおける偏見の実態を聞いた。

不動産業界に蔓延る”入居差別”に憤り「対話能力、収入に関わらずNGのケースも多い」

約5000店舗が加盟しているFRIENDLY DOOR(フレンドリードア)

約5000店舗が加盟しているFRIENDLY DOOR(フレンドリードア)

 住宅弱者と空き家問題をつなぐ検索サービス『フレンドリードア』。その誕生のきっかけは、自身が中国・上海の移民二世であるキョウ・イグンさんの体験に基づくものだった。

「就職活動をしていた頃、日本に留学中だった従妹の家探しを手伝ったんです。それで不動産会社に行ったら『外国籍の方はダメです』ととことん断られました。お金がなくて日本語も全く話せない、というなら分かりますが、従妹は日本人の保証人もいて、日本語も話せました。なのに、外国籍というだけでNG。そんな不動産業界の入居差別に憤りを感じ、解決したいと思いました」(キョウさん/以下同)

 その後、キョウさんはライフルに入社し、2019年の『フレンドリードア』設立に至る。同サービスは、「外国籍」「LGBTQ」などカテゴリー別に対応してくれる不動産会社を探せるシステムだが、実際、“住宅弱者”と言われる人たちに対してどのような偏見があるのか?その実態を尋ねてみた。

「FRIENDLY DOOR」カテゴリー一覧

「FRIENDLY DOOR」カテゴリー一覧

(1)外国籍
「まず、言葉や文化が違うために『コミュニケーションがとりにくい』と思われがちです。また借りた部屋をタコ部屋にしたり、パーティーをして大騒ぎしたり、地震など災害が起きた際、勝手に緊急帰国してしまう人たちが一部いるため、『マナーが悪い』との偏見を持たれています」

(2)LGBTQ
「不動産業界はまだまだ古い体質があり、同性カップルに対して不快感を見せたり、『近隣の住民が抜けるのではないか』と心配されたりするオーナーさんもいます。また、日本では同性婚が認められていないので、LGBTQの方々だと、2人で住める物件でも入れないことが多々あります。例えば、2人入居可の物件は、血縁関係や婚姻関係を前提としているため、入ることが難しいです。売買に関しても、今はペアローンもありますが、同性カップルだと家族としてローンを組めないという問題もあります」

(3)高齢者
「独居老人の方は、孤独死のリスクが最大のネックです。孤独死されると残置物の処分がとても大変で、オーナーとしては嫌なんですね。残置物は亡くなった方に所有権があるので、安易に処分できません。近親者にも連絡がとれないと行政が介入して処分しますが、その際に高額な費用をオーナーが負担しなければならないケースもあり、高齢者に貸すことにリスクを感じることもあるようです」

(4)シングルマザー
「日本では、母子家庭の貧困率が非常に高いです。正規雇用よりもパートや契約、派遣というケースが多く、そのため収入が不安で『シングルマザーは困窮している』という目線で見られがちです。踏み込んで経済状況を聞かれたり、対応を渋られたりするという感じです」

(5)障害者
「『車椅子で店舗に行ったら、雑な扱いを受けた』というケースや、不動産会社やオーナー側が『介助が必要なのではないか』『大変そう』といった偏見を持たれていることがあります。でも、実際に当事者に聞いてみると、『介助は求めてないです。ヘルパーさんがいるので』との返答がありました。不動産会社やオーナーが必要以上に負担に感じ、断ってしまっているのかもしれません」

空き家問題深刻化する中、高齢者や障害者が“優良顧客”に? 変わりゆく業界意識

「FRIENDLY DOOR」掲載イメージ

「FRIENDLY DOOR」掲載イメージ

 以上のように、さまざまな偏見がある不動産業界。そこに一石を投じるために2019年に誕生したフレンドリードアは、加盟店約500店舗でスタート。それから4年ほどで、現在は5000店舗と10倍に増えている。さらに対応できる不動産会社を増やす意味合いから、随時セミナーも行われているという。

「オーナーの皆さんには、『高齢者や障害者の方は、リスクはありますが優良顧客です』とお話しています。なぜなら、一度入居すると長く住んでくれるからです。家を探して住み替えするのがすごく大変なので、『いい家を見つけたら長く住もう』という考えになるんですね」

 賃貸物件は新築から年数が経つに連れて賃料がどんどん下がるため、入居者が入れ替わると賃料も下がっていく。しかし、長く住んでくれる場合はずっと賃料が高いまま、収入が得られるのだ。

「何かあった時のために『地域の支援センターと連携をとる』など対策しておけば、リスク回避もできます。こうした話を聞いて、『じゃあ対応してみよう』という不動産会社さんもあります」

不動産会社向けにチェックリストを提供

不動産会社向けにチェックリストを提供

 LGBTQや外国籍に関しては、“よく分からないからやめておこう”、“大変そうだから断ろう”といったケースは少なくない。そこで加盟店がユーザーとうまく接客できるようにと、接客チェックリストや接客サポートAIなどを開発し、提供している。

「たとえばLGBTQの方の場合、その方の性別を安易に管理会社からオーナーに伝えるのはアウト。ちゃんと本人の許可を取らないとダメなんです。そういった『何に気を付けなければいけないか』についてちゃんと知ってもらおうと、接客チェックリストを作って提供しています。また接客サポートAIは、たとえば日本語が分からない外国籍の方に『敷金・礼金』を説明したい時に日本語以外に6言語で自動翻訳できるようになっています。このように、接客のリアルな現場ですぐに使える伴走者みたいなものを用意しています」

接客サポートAIも

6言語対応の翻訳機能付き接客サポートAIも提供

 さらに、ユーザーからのクレームに対応するため、相談窓口も用意している。

「『フレンドリードアの加盟店に問い合わせしたけど、ちゃんと対応されなかった』といった報告があったら、その不動産会社に連絡して事実関係を確認し、誠実に対応していただけるようにお願いしています。 “フレンドリー”と謳っているのに、『対応が酷かった』というのは最悪じゃないですか。それを救済するために、相談窓口を設置しました。そこまでやらないと、ユーザーさんを守れないので」

 とはいえ、クレームが入るようなケースはごく一部で、「皆さん、フレンドリーにコミットしてきちんと対応してくれています」とのこと。ユーザー間でも着実に認知度は上がり、SNS上でも「フレンドリードアを使ったら、ちゃんと対応してもらえた」といった好意的な声が寄せられている。

住宅弱者側も“守られるべき”という意識は禁物「互いにフィルターを外すことが重要」

LIFULL HOME'S事業本部・キョウ・イグンさん

LIFULL HOME'S事業本部・キョウ・イグンさん

 これまで住宅を探す側と提供する側の間に立ち、課題解決に向けて尽力してきたキョウさん。ここ5年ほどで、空き家問題や偏見・差別に対する社会的理解が浸透し、不動産業界全体にも少しずつ意識の変化が感じられるという。重要なのは、「自分の目のフィルターを“互いに”外すこと」だという。

「前述の障害者の方のケースでも、不動産会社の方に『介助しなきゃいけない』というフィルターがありました。でも、彼らはあくまで家を探すのが仕事で、介助は仕事じゃない。当事者の方も『じゃあ介助してください』となると、それはちょっと違います。

 住宅を探す側も『自分は守られるべき、支援されるべき存在である』というフィルターを1回外すことは大事だと思います。住宅弱者だから守らなきゃいけないということではなく、お互いの尊重が必要なんです。オーナーとしても、収入やコミュニケーションに不安がある方と契約したくないというのは理解できます。ただ、カテゴリーで判断しないで、その人がどういう人なのかを、1人1人きちんと見てほしいと思います」
FRIENDLY DOOR(外部サイト)
(取材・文=水野幸則)

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