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掃除は修行? いまだ“精神性”を求める日本と海外の価値観の違い…コロナ禍で変化した日本人の衛生意識とは?

 高圧の水を噴射し、汚れを洗い流す高圧洗浄機。そのトップブランドとして世界に君臨するドイツのケルヒャーは、ヨーロッパで、高圧洗浄機で洗うことを「ケルヒャーする」と表現するほどのネームバリューを誇る。そのケルヒャーが日本に上陸して35年。徐々に日本の一般家庭に浸透しつつあるとはいえ、まだ欧米ほどの知名度を獲得するには至っていないのが実情だ。その理由を探ってみると、日本特有の掃除への価値観が見えてきた。日本人の需要に応えるべく“世界市場では特異”といわれるモデルを開発してきたケルヒャーの挑戦と、コロナ禍を経て、変わりつつある日本人の清掃への意識とは?

「高圧洗浄機」を知らない日本人に威力を見せつけたデモンストレーションの力

 ケルヒャーがヨーロッパで最初の温水高圧洗浄機を開発したのは1950年。業務用でその名と高い技術力を広めたことを背景に、1984年には「プロのようにきれいにします」をキャッチフレーズに家庭用のポータブル高圧洗浄機を発売。家庭の水道と電源で、手軽に高圧洗浄ができるとあって、瞬く間に人気を呼び、世界へと拡がっていった。そんな背景から日本に上陸したのは1988年。現在80ヵ国で展開する中、海外進出18番目と比較的早い段階だった。

朝喜当初は業務用のみの販売で、家庭用市場に参入したのは1990年のことでした。しかし、『高圧洗浄機』という言葉自体、まだ日本では知っている人が少なく、馴染みのない清掃方法だっただけに、『難しそう』『値段が高そう』といったイメージが強く、苦戦を強いられました。(ケルヒャー ジャパン マーケティング&プロダクト本部 朝喜謙二氏)

 そこで力を入れたのが、量販店やホームセンターでのデモンストレーションだった。

東郷一般の掃除機のように誰もが使い方を知っている商品ではありませんから、店頭に置いておくだけでは売れません。とにかく、その実力を知ってもらうためには、性能の高さと便利さを直接見てもらうしかないということで、営業が量販店やホームセンターに出向き、自らデモンストレーションを行いました。多い人では年50日、つまりほぼ毎週、行っていたそうです。(ケルヒャー ジャパン マーケティング&プロダクト本部 東郷みぎわ氏)

雑巾がけを良しとする日本特有の文化と安い人件費が掃除レベル向上の弊害に

 さらに認知度を高めるうえで大きな力となったのが、「ジャパネットたかた」のテレビ通販番組だった。

東郷番組内で実演し、どれくらい汚れが落ちるか、どれくらい汚れが落ちるか、商品の説明とともに視覚的に見せてくれたことで、高圧洗浄機の存在と、ケルヒャーの名前が広く知られることになりました。特に一般家庭に持って行って実演したときは、より身近に感じていただけたからでしょうか、非常に大きな反響がありました。

量販店やホームセンターでは実演した日は売り上げが上がり、ジャパネットたかたの放送日も売上がアップ。デモンストレーションを行っているときには、「テレビで見たの、本当だったんだ!」と、その洗浄力に感嘆の声をもらったことも多かったという。

 こうして、地道に日本に浸透させ、市場を拡大してきたケルヒャーだが、一方で「まだまだ保有率は低い」と両氏は厳しい表情を見せる。その理由は、「人件費の安さと、雑巾がけに代表されるような日本特有の掃除文化にある」と朝喜氏は分析する。

朝喜業務用において先進国でこれほど掃除が機械化できていない国はありません。その理由は先進国のなかにおいては人件費が安いためです。さらにこれは家庭用においても言えることですが、掃除に“精神性”を求める日本の文化も、機械化が浸透しない理由のひとつだと思います。日本の学校では生徒が教室の掃除をするのが当たり前で、教育的意義からも雑巾がけがよしとされていますが、濡れた雑巾で拭くのは病原体を含んだホコリを塗り広げる恐れがあります。日本に根付いたこの掃除の習慣も、機械化が進まず、掃除のレベルが上がらない原因だと思います。

 海外では学校の掃除は専門の清掃員が行うことがほとんどで、掃除には文字通り“汚れを取り去る”以外の意味はない。このマインドの差は、機械の需要にも表れているようで、求めるものが海外と日本では異なるという。

東郷日本で求められるのはご近所にご迷惑をかけない静音性と、手軽に扱え、収納も便利なコンパクトさですが、世界でこの2点を気にする国は他にはありません。日本で販売しているモデルは、本社と共同で開発・製造していますが、特に静音性については、世界市場において非常に特異なものでした。海外では、音を静かにすると、『パワーがないんじゃないか』とネガティブにとらえられてしまうんです。

コロナ禍で変化した日本人の衛生意識。今後、清掃機器に求められるのは?

 このように、日本市場においては日本人の需要に合わせて進化を遂げてきたケルヒャーだが、新型コロナをきっかけに、新たな需要もキャッチしているという。

朝喜バキューム型の掃除機と雑巾がけという従来の掃除方法だけでいいのかという声が多数聞かれるようになりました。除菌も必要だし、天井や部分的なところで掃除ができていないところが山ほどあるなど、コロナ禍によって衛生意識が高まったためと感じています。清掃機器の専門メーカーである弊社は、業務用で培ったテクノロジーを応用して、蒸気の力で汚れをしっかり浮かせて取り除くことができるスチームクリーナーや、高圧洗浄機ではパイプの中を掃除するものや網戸の目を掃除するもの、洗浄剤など多彩なアクセサリーをご用意しています。今後、それらのニーズはますます増えていくものと考えています。

 日本上陸から35年、日本人の意識を変化させるこんな時代のニーズもとらえている。

東郷以前は、『高圧洗浄機を買っても、年末の大掃除にしか使わないから』と使用頻度の低さをあげる方が多かったのですが、今は花粉や黄砂、台風など季節軸なニーズが出てきて、1年を通して求められるようになりました。ベランダやバルコニー、玄関周り、窓や網戸、お風呂など、デッキブラシでゴシゴシ掃除しなくても、高圧洗浄機なら“ひと撫で”で終わります。ですから、まだまだ需要はあるものと考えています。

 今、日本のとある小学校では、先生の発案で、毎月1回、授業の中で、生徒がケルヒャー製品を使い、機械を使って掃除をするとどれだけ効果があるかを体感し、レポートを書くプログラムを実施しているという。サッカーのワールドカップで日本人サポーターが試合後の客席でゴミを拾う様子が世界で賞賛されたが、日本人の美徳とされる掃除に関する道徳的価値や習慣は、機械を使おうが素手だろうが変わらず育めるはずなのだ。

朝喜弊社が目指すのは、掃除がつらいものではなく、楽しくワイワイしながらできて、結果、キレイで快適な生活が送れることです。今後、ロボット化を進める一方で、ロボットが解決できない掃除の部分も絶対残るはずですから、弊社としては、広く需要に応えられるよう尽力し、ケルヒャーのグローバルスローガンである『Wow』という感嘆詞が示す通り、キレイになる“驚き”と“楽しさ”を提供していきたいと考えています。

 「一般のユーザーたちがSNSにあげてくれている車とケルヒャーとか、玄関とケルヒャーの写真を見るのがとてもうれしい」と笑みをこぼす朝喜氏。仏道では、「心を磨く」修行とされる掃除だが、機械化が進むことで、今後日本人にとっての掃除は「鍛錬」から「楽しいイベント」へと変化していくのかもしれない。

取材・文/河上いつ子

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