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“おかゆ”の定義、知ってる? 限定的だった消費がコロナ経て伸長の背景
「おじや」や「雑炊」とは一線を画す「おかゆ」の定義 “平時の際”に食す文化が浸透
味の素社がおかゆ市場に参入したのは1988年。当時のレトルトおかゆの市場規模は約10億円程度と小さかったが、高齢化や、即食性・簡便性の高い食品の需要を見込んで開発。白がゆ、小豆がゆ、玄米がゆ(現在は終売)の3種類を売り出した。
その3年後である、1991年にはおかゆシリーズのCMに女優の牧瀬里穂を起用し、認知がさらに拡大。
「各社が市場参入したことや、当社の積極的なマーケティング投資により、レトルトおかゆ市場は1995年には市場規模約50億円にまで成長しました」(栄養・加工食品事業部 児玉悠輔さん/以下同)
その後、毎年前年比101%〜103%と堅調に成長してきたレトルトおかゆ市場に変化が起きるのは、コロナ禍となった2019年。新型コロナウイルス感染拡大により、体調不良者が急増したことでレトルトおかゆの需要が拡大していった。一時は品薄になるスーパーやコンビニであったという。
現在も売り上げは微減にとどまり、コロナ前と比較すると上がっている状況だ。コロナ禍の体調不良時の喫食をきっかけに、改めておいしさに気づいたり、健康のために普段の食事に取り入れたりする人が増え、今まで限定的だった消費者の幅が広がったことが要因だと推察される。
コロナ禍を経て変化したトレンド 具材入りのおかゆで購買層が若年化
「最も売れ筋なのは『白がゆ』ですが、近年売り上げを伸ばしているのは、『玉子がゆ』や『紅鮭がゆ』のような具材が入っている品種。2019年比で見ると、二桁ほど上がっており、トレンドが大きく変化しています」
その原因について、児玉さんは「食べるシーンの変化」だと分析する。体調不良の時に食べるのは『白がゆ』や『梅がゆ』だが、普段の生活で食べるとなると、おかず要素のある玉子や紅鮭入りのほうが、一食完結で手軽に食べられるため好まれる傾向に。ダイエットでカロリーを気にしている人が昼食におかゆをセレクトするなど、購入目的が変わってきたのだ。
「コロナ禍を経て、生活者の健康志向と、即食性・簡便性の高い商品への需要が高まっています。レトルトのおかゆは湯せんで5分温めるだけ、カロリーも100kcalほどなので、普段の食事に取り入れる方が増えたのかなと思います」
「具材は海鮮系や肉系など4〜5メニューの候補から検討しました。肉の種類もいくつか候補はありましたが、鶏肉に即決しました。コストが安くヘルシーなのに栄養素が取れるので、この5年ほどで豚肉・牛肉を超えて圧倒的に需要が増えていて。ヘルシーで栄養素が取れる部分は、まさにおかゆに求められていることなので、相性もよかったと言えます」
『鶏がゆ』に関しては、鶏がらスープではなくあえて和風のかつおだしを採用。
「鶏がらスープを使って中華風の味付けにすると、おいしいのですが、若干しつこさがあります。おかゆは体にやさしいものがほしい時に食べる商品であることを考えると、日本人に馴染みのある和風だしで、最後のひと口まであっさりしていて毎日でも食べやすい味付けの方がいいのではという結論になりました」
肉の種類も、あえて柔らかいモモ肉ではなく、低カロリーかつタンパク質がとれるムネ肉を使用。消費者からは「和風の味付けがあっさりしていて最後までスプーンが進んだ」「鶏ムネ肉は食べ応えがあるのでアクセントになってよい」と、狙い通りの反響が届いている。
さらに、『鶏がゆ』に関しては購買層に変化も。ターゲットの50〜60代だけではなく、一つ下の40代、そして今までおかゆを買っていなかった30代にまで広がっている状況だ。当初は、“新商品を出しても、紅鮭や玉子などの代替となってしまい、全体の売れ行きは変わらないのでは”という懸念もあったが、予想に反し健闘。『鶏がゆ』を導入したスーパーやコンビニ等では、新規ユーザーの獲得によって、昨年のコロナ特需による販売増の反動をカバーできており、高評価を得ている。
カップおかゆでZ世代にアプローチ パンや小麦の高騰も追い風に
「Z世代は勉強や遊びなどやりたいことがたくさんあって、食事に時間をあまり割きたくないという傾向があるようです。とはいえ、ファストフードばかりでは健康に良くないかもしれないという罪悪感や、思春期特有のダイエット願望も。簡単に食べられつつ栄養があって、糖質も抑えられるおかゆには、受け入れてもらえるチャンスが十分あると思っています」
飲食店でもおかゆ専門店が増えたり、デリバリーやテイクアウトでおかゆが選べたりと、間口が増加。「本当はラーメン食べたかったけど、太ってきたからおかゆにしてみた」「おいしかったから、ランチにちょうどいいかも」などのレビューも散見される。レトルトおかゆに対しても、若い世代がTwitterで「体調不良で初めておかゆを食べたけど、意外とおいしかった!」とつぶやくなど、認知も広がりつつある。
昨今、米の消費量の減少や糖質制限の流れにより、国内の米離れが叫ばれている。米を避けたいと思う人も増えているように感じるが、おかゆは米の使用量も少なく、低カロリーであるため、罪悪感を感じることなく日常食として選ばれている。
物価高騰でパンや小麦の値段が上昇する中、国内生産の米の価格は比較的安定していることも追い風に。また、レトルト製品の発達により、自宅でお米を炊いて食べる機会が減る“炊飯離れ”が進む中、レンジで温めてすぐに食べられる手軽な商品は、今後も伸びていく傾向にありそうだ。
(取材・文/辻内史佳)