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国内での家庭保有率、実は約4割の『味の素(R)』 長年、風評被害にさらされながらも100年以上あり続けるワケ

 日本が世界に誇る調味料『味の素(R)』。だが意外にも東南アジア圏の使用率のほうが高いという。「ですがこれはネガティブな話ではありません」と話すのは、2005年に味の素社に入社した宮坂文浩調味料事業部うま味調味料グループマネージャー。同商品が一般発売されたのは1909年。110年以上の歴史を持つ同商品だが、話を聞いてみると、令和の時世に非常にマッチするのではないかと思えてくる。

■そもそも『味の素(R)』自体を知らない若年層も…使用していない家庭の多さに驚き「“それが現実なんだ”と受け止めた」

  • バングラデシュの味の素のパッケージ((C)味の素)

    バングラデシュの味の素のパッケージ((C)味の素)

『味の素(R)』は社名になっているほどの看板商品。汁物はもちろん、煮物や揚げ物など、料理の味を引き立てる陰の立役者として知られているが、「調査によると、実は日本のご家庭の約4割にしかないという結果が出ています」と宮坂氏は語り始める。

 「要因としては、例えば『味の素(R)』に続いて発売された、弊社の『ほんだし(R)』『味の素KKコンソメ』のような風味調味料や、『Cook Do(R)』をはじめとする、回鍋肉などのメニュー専用調味料が普及し、その代替となっていったところが大きいと思います。ですが『味の素(R)』は全てのベースで、他調味料のように、料理に色や香り・風味をつけずにうま味だけをプラスすることができるという独自の特長があり、使いこなすと非常に便利なんですよ」(宮坂氏/以下同)

 そもそも『味の素(R)』とは、グルタミン酸ナトリウムを主成分とするうま味調味料。例えばプチトマトを何度も噛んでから飲み込むと、舌の上にうま味が残るのを感じるが、そのうま味の正体こそがグルタミン酸。同商品は天然のさとうきびを絞って作った糖蜜を発酵させ、これを使いやすいようにグルタミン酸ナトリウムの粉状にしたものだ。ほんの少し振りかけるだけで味が整う。宮坂氏の家庭では漬物や炒飯などに用いていたため、同商品の素晴らしさを感じ入社したそうだが「担当になり、使っていただけていないご家庭の多さに驚き、“それが現実なんだ”と受け止めました」と残念そうな表情を見せた。

 一方で、宮坂氏が数年前に4年間赴任していたバングラデシュでは、逆の驚きもあった。バングラデシュでは様々なスパイスを使ったカレーが盛んに食されているが、そのカレーにも同商品を入れるとより美味しくなると感じる人が多かったことだ。実は筆者も15年ほど前に4年間、インドネシアに住んでいたことがある。その際、「AJINOMOTO」は最もポピュラーな日本語であり、同商品は多くの家庭で用いられていた。このエピソードを伝えると宮坂氏は「中国はもちろん、インドネシアやベトナム、タイなどの東南アジア圏では、日本よりはるかに多い8割以上の家庭で使用されていると推察しています」と明かす。

“手抜き”ではなく“手間抜き” 『味の素(R)』による時短・効率化はイノベーションの基本

  • アジパンダ(C)味の素

    アジパンダ(C)味の素

 では、『味の素(R)』はアジア、東南アジア圏にどのように広がったのか。「赴任していたバングラデシュでも日本と同じように他社の類似商品が出回ったこともあったのですが、そこで重視したのはブランドを育てることでした。弊社では現金直売という方法を用いて、市場の小売店を回訪し、店主にその場で製品を販売して現金を回収、陳列してもらうという仕組みを取りました。味の素社の営業マンが直接販売するので、確実に弊社の製品を店頭に置いてもらえますし、このような営業活動の末に少しずつブランドが根付いていきました。また安さを売りにしている類似商品には塩が混ざっていることも多く、お客様にも違いをわかっていただけました」

 アジアや東南アジア圏で同商品がウケた理由は、“うま味文化”にあるという。例えば中国の魚醤、ベトナムのニョクマム、タイのナンプラーなどに含まれているうま味は『味の素(R)』の主成分と同じグルタミン酸であり、馴染みが良かった。日本のだしも同様であり、故に日本人だからこそ開発できた調味料といえる。

 ところで筆者はインドネシア人から「日本料理は簡単だ」といわれた経験がある。これも実は『味の素(R)』や、豊富な調味料の存在が要因にあると考えている。「やはり美味しい料理を作るとなると味を整えるのにそれだけの手間暇がかかります。ですが『味の素(R)』などの調味料を使用することで、非常に簡単に味が決まる。つまり時短になるのです」

 「ウェルビーイング」という言葉がある。これは「幸福」のことであり、深々とした社会的な健康を意味する概念。瞬間的幸せを表す「ハピネス」とは異なり、“持続可能”な幸せを意味している。つまり、料理で“時短”が行われると、家族と食事や趣味を楽しむ時間が増え、“美味しい”という「ハピネス」だけではなく「ウェルビーイング」につながる。味の素社の調味料事業のビジョンには、この「ウェルビーイング」がある。

 そもそも日本にはそうした効率化を“手抜き”とする、真面目な民族性故の癖のようなものがある。いわく食材本来の味で勝負するべきだ、いわく同商品を使うのは邪道だ…など。しかし考えてみてもらいたい。家電の発展により、例えば洗濯も洗濯板から、洗濯機に入れるだけに進化し、家事は昔よりかなり楽になった。時短・効率化…これは過去の度重なるイノベーションによって実現できたことであり、時短・効率化=“手抜き”とはただちにいえないのではないか。また、ほんの少しであらゆる食材にうま味をプラスし、まろやかな味わいにすることができる『味の素(R)』は、仕事と育児や家事の両立に奮闘するニューファミリー世代に非常にマッチした調味料なのではないか。

「『味の素(R)』は化学調味料だから体に悪い」…SNS時代、インフルエンサーによる発信で無根拠な風評被害を払拭

「味の素」の製法(C)味の素

「味の素」の製法(C)味の素

 『味の素(R)』を否定する人々のなかには、かつての化学調味料という呼称から「天然」よりも体によくないというイメージを持つ人もいる。人気漫画『美味しんぼ』にも何度もそう書かれているので知っている人は多いだろう。これはアメリカから世界に広まったといわれている。だが味の素社は、国連関連機関(JECFA:FAO/WHOの合同食品添加物専門家委員会)など第三者機関の見解も用いて、この噂に科学的エビデンスがないことを表明。アメリカで1回、日本で2回、グルタミン酸ナトリウムや食品添加物についてのフォーラムを開き、こうした風評被害を減らすよう試みた。

 「2019年から、料理研究家のリュウジさんに、『味の素(R)』について風評被害も含めて詳しく説明し、納得していただいた上で、同商品を使った時短料理を多数ご紹介いただきました。弊社公式SNSでも情報を発信。科学的根拠を元にした風評被害対策、また同商品の知名度アップへの取り組みを行っています。結果、特に若年層を中心に知名度が高まり、家庭に同商品が置かれる比率は2019年から上昇しています」

 むしろ、同商品を使うことで塩の量を減らせるなど、健康面でプラスなこともある。またSNSでは「リュウジさんの動画を見て『味の素(R)』を使ってみた。普段は天然派だったが使ってみたら本当に簡単に美味しくなって驚いた」などの声も挙がっているという。「例えば解凍する前のお肉にまぶしておくと、ドリップと共に出て行ってしまううま味を補えますし、お米を炊く際に入れると古米でも美味しくなる。マグロの刺し身に少しふりかけるだけで上品な味に。ぜひ試して下さい。『味の素(R)』には賞味期限もないので、常備しておくと重宝しますよ」

 もちろん苦手な人やこだわりがあって使いたくないという人もいるだろう。だが正しい知識を得ること、時短・効率化の恩恵など、日本人が改めて学ばなければならないことが『味の素(R)』という商品には秘められていないだろうか。

(文/衣輪晋一)

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