ORICON NEWS
地域密着スーパーで異彩を放つスーパー玉出、“安かろう悪かろう”と戦いながら独自性を貫く矜持と課題
(※)税抜1,000円以上のお買物で、対象商品1点のみ1円で購入可能
5年前に経営譲渡、当時の印象は「玉出は諸刃の剣」 良い意味の“ヤバさ”はそのままに、売り場づくりを改善
2018年にスーパーマーケット事業の運営を引き継いだ(株)フライフィッシュの國枝尚隆さんの第一印象は「スーパー玉出は諸刃の剣」というものだった。
「単なる食品スーパーを超えてお客さんが何かを期待し、面白がってくれる。こんなスーパー、どこにもないと思いましたね。しかしそれは一歩間違えれば炎上する危険性もはらんでいることに気づきました」
運営譲渡を受けてまず取り組んだのが、売り場づくりの改善だった。
一方でギラギラの外装をはじめとする玉出ならではの「いい意味でのヤバさ」は継承。ダサかわいいロゴを生かしたトートバッグやマフラータオルといったオリジナルグッズにも力を入れており、公式アプリで購入できるほか関西土産としても好評だ。
「激安をブラしたら玉出じゃない」物価高騰に苦心するもオリジナル商品で安さ貫く理由
「そうした声は十分に承知しています。だからこそ(株)フライフィッシュに運営が移ってからは徹底して“安かろう悪かろう”を排除してきました」
激安のイメージが根強いが、店舗によっては鮮魚や珍しい野菜などの高級食材も豊富に取り揃えている。特に繁華街の店舗は飲食店の仕入れ需要が多く、「仕入れ値にシビアな商売人のおめがねにかなったということは、それだけ価格以上の品質が信頼されている証拠」と國枝さんは胸を張る。
「昔から一部店舗で販売されていたうなぎのたれご飯を初めて見たときはびっくりしましたね。『アリなんだ!』と。しかもけっこう人気商品で、これをシリーズ化したら面白いのでは? と商品開発担当者にお願いして作ってもらったのが『たれご飯』3兄弟シリーズでした」
うなぎを一切使わずにうな重を再現した新商品「うなぎもどき重(※)」も話題を呼んでいる。こちらも235円と激安だ。
とは言え、食材から輸送費まであらゆるものが値上がりしている昨今、激安にも限界があるのではないだろうか。
「たしかに非常に苦しいのは事実です。しかし激安は玉出の誇りでありアイデンティティ。特に惣菜担当者は職人気質なところがあり、『激安をブラしたら玉出じゃない』といかに安く提供できるかばかりを日々考えていますね」
(※)恵美須店のみでの販売。価格は2023年4月時点。
広がる地域密着スーパーならでは取り組み キャッシュレス決済が背景に?
「1つにはキャッシュレス決済の普及です。スーパーマーケットの営業利益の平均は約1.4%で、全国展開する大手でも3%に届かない程度。そこにキャッシュレス手数料が乗ってくると、今後は存続できないスーパーも出てくるのではないかと心配しています。また最近は生鮮食品を扱うようになったドラッグストアも脅威的な競合となっています」
そうした苦境の中で観光スポット、あるいはカルチャーコンテンツ化して若者や観光客を惹きつけているスーパー玉出の独自の存在感は、他の地域密着型スーパーのロールモデルにもなっているようだ。
「やっぱりネタにしたくなるというんでしょうか。『店に来ただけでSNSに投稿したくなるのはディズニーランドかUSJか、あるいはスーパー玉出くらいじゃないか』って他のスーパーさんから羨ましがられますね。コロナ以前は中国人旅行客が多く見られました。中国人にとっては看板の黄色や漢字の“玉”が縁起がいいそうで、わざわざ写真を撮りに足を運んでくれる観光客も多かったです」
B級感あふれる外装や激安ばかりが話題になるが、それもすべては「お客さんに楽しく笑顔でお買い物してほしい」という想いが込められている。今年度も「オモシロを徹底追求した企画を打ち出していく」という。楽しみに待ちたいところだ。
(取材・文/児玉澄子)