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地域密着スーパーで異彩を放つスーパー玉出、“安かろう悪かろう”と戦いながら独自性を貫く矜持と課題

 スーパーなのに、店舗は観光スポット化、オリジナルグッズは完売するなど、地域密着スーパーの中でも独特の存在感を持つスーパー玉出。「1円セール」(※)をはじめとする激安価格はもとより、ネオンギラギラのド派手な外装は今や観光名所化しており、地元密着スーパーながら国内外から多くの観光客が訪れる。物価の高騰や地域密着型スーパーならではの課題、「安かろう悪かろう」という誤解と戦いながらも「激安は玉出のアイデンティティ」と庶民の味方を貫くスーパー玉出の心意気を聞いた。

(※)税抜1,000円以上のお買物で、対象商品1点のみ1円で購入可能

5年前に経営譲渡、当時の印象は「玉出は諸刃の剣」 良い意味の“ヤバさ”はそのままに、売り場づくりを改善

 関西に34店舗を展開するスーパー玉出の創業は1978年。長らく関西人にはおなじみの存在だったが、近年はSNSの普及で知名度が全国区に。1円セールをはじめとする激安価格や流氷の妖精・クリオネといったユニークな品揃え、そして何よりパチンコ屋と見紛うド派手な外装がネタとして語られることも多い。

 2018年にスーパーマーケット事業の運営を引き継いだ(株)フライフィッシュの國枝尚隆さんの第一印象は「スーパー玉出は諸刃の剣」というものだった。

「単なる食品スーパーを超えてお客さんが何かを期待し、面白がってくれる。こんなスーパー、どこにもないと思いましたね。しかしそれは一歩間違えれば炎上する危険性もはらんでいることに気づきました」

 運営譲渡を受けてまず取り組んだのが、売り場づくりの改善だった。
「すべての店舗ではありませんが、狭い通路にゴチャッと山積みにした陳列を、高齢者や車椅子のお客さんもお買い物がしやすいように動線を確保。品物も手に取りやすい高さにしました。ネットで生鮮食品を買える今の時代、わざわざ店舗に足を運んでいただいた方に快適にお買い物をしていただける売り場づくりはとても重要です」

 一方でギラギラの外装をはじめとする玉出ならではの「いい意味でのヤバさ」は継承。ダサかわいいロゴを生かしたトートバッグやマフラータオルといったオリジナルグッズにも力を入れており、公式アプリで購入できるほか関西土産としても好評だ。 

「激安をブラしたら玉出じゃない」物価高騰に苦心するもオリジナル商品で安さ貫く理由

 物価高騰の折、庶民には喜ばしいところだが、スーパー玉出の目を疑うほどの安さは「ヤバい」と懸念を持たれる点でもある。

「そうした声は十分に承知しています。だからこそ(株)フライフィッシュに運営が移ってからは徹底して“安かろう悪かろう”を排除してきました」

 激安のイメージが根強いが、店舗によっては鮮魚や珍しい野菜などの高級食材も豊富に取り揃えている。特に繁華街の店舗は飲食店の仕入れ需要が多く、「仕入れ値にシビアな商売人のおめがねにかなったということは、それだけ価格以上の品質が信頼されている証拠」と國枝さんは胸を張る。
 もちろん一般客が期待するのはオリジナリティあふれる激安商品。100〜200円のお惣菜はバラエティ豊富で、白飯と組み合わせて買っていく人が多い。また最近は白飯にうなぎや焼肉、天丼のたれをかけただけの「たれご飯」(149円)(※)がSNSを賑わせた。

「昔から一部店舗で販売されていたうなぎのたれご飯を初めて見たときはびっくりしましたね。『アリなんだ!』と。しかもけっこう人気商品で、これをシリーズ化したら面白いのでは? と商品開発担当者にお願いして作ってもらったのが『たれご飯』3兄弟シリーズでした」

 うなぎを一切使わずにうな重を再現した新商品「うなぎもどき重(※)」も話題を呼んでいる。こちらも235円と激安だ。
「試食した女性従業員に『こんなの食えるか!』と突っ込まれながら何度も試作を重ね、ようやく販売に漕ぎ着けた自信作です。価格はもとより『やっぱり玉出だ』と面白がってもらうのが狙いでした」

 とは言え、食材から輸送費まであらゆるものが値上がりしている昨今、激安にも限界があるのではないだろうか。

「たしかに非常に苦しいのは事実です。しかし激安は玉出の誇りでありアイデンティティ。特に惣菜担当者は職人気質なところがあり、『激安をブラしたら玉出じゃない』といかに安く提供できるかばかりを日々考えていますね」

(※)恵美須店のみでの販売。価格は2023年4月時点。

広がる地域密着スーパーならでは取り組み キャッシュレス決済が背景に?

 最近は、スーパー玉出はもとより、“霊視体験”を企画するベルクや、店内に鉄道模型が走るロピアなど、地域密着型スーパーによるユニークな取り組みが話題に上がることも増えた。日々の買い物にとどまらない体験やエンタメ性を売りにする背景には、「地域密着型スーパー共通の課題がある」と國枝さんは言う。

「1つにはキャッシュレス決済の普及です。スーパーマーケットの営業利益の平均は約1.4%で、全国展開する大手でも3%に届かない程度。そこにキャッシュレス手数料が乗ってくると、今後は存続できないスーパーも出てくるのではないかと心配しています。また最近は生鮮食品を扱うようになったドラッグストアも脅威的な競合となっています」

 そうした苦境の中で観光スポット、あるいはカルチャーコンテンツ化して若者や観光客を惹きつけているスーパー玉出の独自の存在感は、他の地域密着型スーパーのロールモデルにもなっているようだ。

「やっぱりネタにしたくなるというんでしょうか。『店に来ただけでSNSに投稿したくなるのはディズニーランドかUSJか、あるいはスーパー玉出くらいじゃないか』って他のスーパーさんから羨ましがられますね。コロナ以前は中国人旅行客が多く見られました。中国人にとっては看板の黄色や漢字の“玉”が縁起がいいそうで、わざわざ写真を撮りに足を運んでくれる観光客も多かったです」

 B級感あふれる外装や激安ばかりが話題になるが、それもすべては「お客さんに楽しく笑顔でお買い物してほしい」という想いが込められている。今年度も「オモシロを徹底追求した企画を打ち出していく」という。楽しみに待ちたいところだ。
(取材・文/児玉澄子)
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