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“レトルト=愛情不足”偏見と向き合い続けた『カレーの王子さま』の40年、女性の社会進出や働く母親を支えてきた功績
“インド人もびっくり”スパイシーなイメージからの脱却
1923年に日本初の国産カレー粉の開発から創業したエスビー食品でも、即席カレー(カレールウ)が家庭に普及した1960年代より、子どもでも食べられるマイルドな味わいのカレーを発売。ところが子ども向け市場への提案は、思うように進まなかったという。
「もともと弊社は60年代に“インド人もびっくり”というCMを放送していました。それだけに当時のアンケートでも、エスビーのカレーはスパイシーというイメージが強かったようなのです」(エスビー食品/広報・IR室リーダー:野瀬ゆり子さん)
そこで、定番商品の延長線上にある甘口タイプではない、真に子どものためだけのカレーを作りたい。そうした思いから、原材料や味づくりを根本的に見直して開発されたのが『カレーの王子さま』だった。
星形のニンジンをあしらったカレーや、王子さまのキャラクターといったファンシーなパッケージも、「エスビー=スパイシーなカレー」というイメージを払拭し、「子ども向け」を全面的に訴求するアイデアだった。
発売から40年。『カレーの王子さま』第一世代も親となり、もうすぐ祖父母になっていく。自分が食べて育った商品としての信頼感と愛着から、「弊社のラインナップでも特に指名買いの多い商品です」とのことだ。
“手抜き”から“ごちそう”へと昇格? レトルトの躍進
かつては手抜きの代表のような存在だったレトルトカレーだが、近年のクオリティ進化は目覚ましく、価格も含めてちょっとしたごちそうの域に達しているものもある。
一方で子どものメニューについては、今なお「手作り」と「愛情」を結びつけて語る風潮があり、SNSでもたびたび手作りか、加工食品かを問う「ポテサラ」や「冷凍餃子」などが論争となる。
『カレーの王子さま』のレトルトタイプが登場した1985年は、男女雇用機会均等法が制定された年。以降は、仕事と育児を両立する母親が増えていく。それでも当時は今よりさらにレトルトへの理解がなかったことが想像されるが、いかにしてエスビー食品は市場に定着させていったのか。
「きょうだいの数が少なくなり、また働く母親が増え、大人と子どもの料理を別々の鍋で作る負担が大きくなっていた背景がありました。弊社としては、お子さまの健康と安全を考えた商品設計を重ねるという形で市場に応えていきました」(野瀬さん)
『カレーの王子さま』の健康への配慮は進化を続けており、レトルトタイプも植物油100%使用、そして現在では食物アレルギーにも配慮した商品として展開している。
子育ての環境や食の価値観は多様化している。正解がないだけに、消費者に必要なのは選択肢だろう。『カレーの王子さま』のレトルトタイプが、発売から途切れることなく市場に定着していることこそが、「手作り神話」や「レトルト反発」への答えなのではないだろうか。
パッケージデザインも変更し“食物アレルギー配慮”を徹底、食品メーカーとしての使命感
「食物アレルギーを持つお子さまは増加傾向にあるほか、2012年には東京都で学校給食の配膳ミスによる死亡事故も起こりました。私たちは食品メーカーとして、食物アレルギーにしっかりと向き合い、食物アレルギーを持つお子さまでも安心して食べられる商品を製造するとともに、2017年からは現在の表示方法を採用して、食物アレルギーに配慮した商品であることを、よりわかりやすくお伝えしています」(エスビー食品/研究開発サポートユニットリーダー:高山大介さん)
「ルウではなく顆粒タイプを特定原材料等28品目不使用としたのは、カレー以外にもさまざまな料理にご利用いただきたいという思いからでした。食べムラや偏食にお困りの親御さんも多いとよくお聞きしますが、カレー味には食欲を増進する効果があるため、『野菜なども好き嫌いせず、よく食べてくれるようになった』という声をいただきます」(高山さん)
「初代の王子さまは、弊社の女性社員が描いたラフ図案が好評で採用されたもので、2、3代目も社内でデザインしています。アニメのキャラクター等ではなく、一貫してオリジナルキャラクターを採用してきたことも、『カレーの王子さま』を“エスビーの子ども”として大切に育てていこうという社員の意識に繋がっているように思います」(野瀬さん)
子どもの食への関心は、ここ数十年を振り返っても大きな関心が寄せられている。また、アレルギーに配慮するという人々の意識も変化し、食への考え方はますます多様化が進む。食品メーカーの挑戦はまだまだ続きそうだ。