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「飯テロ×動物」、鉄板同士の融合で疲れた心に癒し「同じ世界に行きたい」

 街の片隅にひっそり佇む、クマとサケが店員の甘味処。「頑張りすぎて傷ついた人に贈る物語」として、「沁みる」と話題を呼んでいる。この『泣きたい夜の甘味処』を生みだしたのは、看護師をしながらTwitterで漫画を配信している中山有香里さん。現在フォロワーは11万を超え、配信中の「疲れた人に夜食届ける仕事」シリーズも、更新されるたびに多くの反響が寄せられている。“おいしそうな食べ物×ゆるめの動物”という鉄板のコラボが生まれたきっかけや、看護師として2足のわらじで活動を続ける原動力とは?

看護師と漫画家の二足のわらじ 大好きな食べ物テーマの漫画が息抜きに

――まずは、漫画を描き始めたきっかけからお伺いできますか?

中山有香里もともと看護師をしながら、新人看護師さん向けに自分の経験をもとに「ここが失敗しやすいよ〜!」と語る『ズルいくらいに1年目を乗り切る看護技術』(メディカ出版)という看護技術の本作りをしていました。そのうち、一度自分の作ったキャラクターで看護とはまったく別の話を描いてみたい…と思うようになり、別の個人アカウントで、大好きな「食べ物」をテーマに漫画投稿もするようになりました。

――絵についてはどのように勉強されたんですか?

中山有香里お恥ずかしいことに、全くの独学です。何度も描いているうちに、「ここはこう描いたほうがいいのかな?」など手探りで今の形になった状態です。

――それは驚きです。

中山有香里兄がアニメーションを作ったり、絵を描くことを仕事にしていることもあり、兄にも聞きながら、とにかく下手でも描いて投稿することを続けてきました。

――漫画を描く上で、影響をうけた作家や作品があれば教えてください。

中山有香里5人家族全員本が好きで、小さいころから、家に様々なジャンルの本があったことはいい環境だったなと思います。その中でも特に好きなのが『三国志』です。どの国の誰の立場で話を見るかによっても、作者さんの解釈によっても見えてくる人物像が変わりますよね。「誰の視点で話をみるか」という点は、『泣きたい夜の甘味処』でも意識した部分です。

――看護師と漫画家の両立は大変ではありませんか?

中山有香里大変といえば大変ですが、看護師をして他のスタッフや患者さんと話をしたり、動き回ったりすることで、作家活動での辛さを和らげてもらっている気がします。ずっと一人で漫画を描き続けていると孤独を感じてしまうことがあるので、人と関わって、その人のことを考えて、自分が失敗したことも成功したことも、これからの創作のエネルギーにしたいな…と思いながら、日々過ごしています。

創作漫画として初の著書は、疲れた人へ甘味をそっと差し出しエール

  • 『泣きたい夜の甘味処』(KADOKAWA)

    『泣きたい夜の甘味処』(KADOKAWA)

――『泣きたい夜の甘味処』(KADOKAWA)は、創作漫画として初の著書となりますが、改めてテーマを教えてください。

中山有香里もともと食べ物の絵を描くことが大好きで、自分が「なんだか疲れてしまったな…」と思う時に、こんな店があったらいいなと想像して甘味処を描きました。誰もが、何かしら自分の感情に折り合いをつけて毎日生きていて、「頑張れよ!」とか「きっといい状況になるよ!」とかそんな前向きな言葉は言えないけれど、そっと甘味を差し出して、静かにほっとしてもらえるような本にしたいと思いました。

――甘味処の店員が、「クマ」と「サケ」なのも気になります。

中山有香里甘味を出して、お店にいるのは寡黙なクマの店長がいいな、と思ったのですが、あまりに喋らなすぎて話が展開しなくて…。最初サケは店の飾りとして描いたのですが、お客さんに声をかける多弁なキャラクターとして解放しました(笑)。

――「疲れた人に夜食届ける仕事」シリーズでも、動物が登場します。人間対人間の物語にしていないことに理由はありますか?

中山有香里「疲れた人に〜」は『泣きたい夜の甘味処』のスピンオフで描き始めたので、クマとサケをメインキャラクターにしました。人間が届ける設定でもよかったのですが、“ちょっと疲れた心に他の人間が踏み込んでくるのって、怖いのでは…?”という気持ちもあって、基本は動物をメインのキャラクターにしました。最近は、人間の店員も手伝いという感じで登場しています。

忠実さより「おいしそうに描く」 辛党作家が悲しい日の夜に食べるものは

――両作とも食べ物がテーマの作品となりますが、それぞれのこだわりを教えていただけますか。

中山有香里「おいしそうに描くことを心がける」、それに尽きます。写真のように忠実に描くことより、写真よりもっとおいしそうに見えるように描こうと意識しています。黄色みを強くしたり、照りを強調したり、湯気にも黄色やオレンジを足して、温かみを感じられるように。見て癒やされるような絵になっているかを、大切にしています。

――読者から「泣ける」というコメントも多いです。疲れた心にしみこんでくる言葉は、どのように出てきているんですか?

中山有香里「いいことを言おう!」と思ったら、読者にそのことがバレる気がします。『泣きたい夜の甘味処』には全て、自分の経験も含めモデルがいます。なので、きっと読者の方も登場人物と自分をどこか重ねているのではないでしょうか。「いいこと」は言えないけれど、「あのときこう思ったよね。誰にも言えなかったけど、飲み込んできたよね。」と背中をさすってあげられるような気持ちで、話やセリフは考えました。

――確かに、誰もが一度は経験のあるようなシチュエーションや人物像が、読者に共感を得る理由にもなっていると思います。作品のテーマや展開で、中山さん自身が心がけていることはありますか?

中山有香里一つの話があったら、そこに登場する人物の数だけ違うストーリーがあると思っています。主人公の視点と、他の人物からみた視点はどう違ったのだろうと、いろんな人に視点を切り替えて考えるようにしています。

――ここで『三国志』の視点が生かされているんですね。

中山有香里綺麗な展開になりすぎないようにも意識しています。クマとサケが解決してハッピーエンドというものではなくて、あくまで登場人物が自分のなかでどう折り合いをつけていくのか、という話にしています。

――そこも読者の経験にもリンクしてくる部分なのかもしれないですね。すべてが丸く収まるわけではないですもんね。ちなみに、中山さんが好きな食べ物はなんですか? 疲れたり、悲しかったりしたときに必ず食べるもの、食べると力が湧いてくるものは…。

中山有香里実は私、辛党で…(笑)。ストレスがたまったときは、激辛ラーメンを食べています。でも、悲しかったり、モヤっとした日の夜は激辛ではなくて。夜10時くらいに「夜だけど今日はアイス食べちゃおうかな」と思って食べる甘味って、本当に何か心にしみるようなものを感じています。他にも、最近ずっと上手くいかない、明日は忙しい! などと思った時には、山盛りの白米に生姜焼きなどをわっしわっし食べたり、その時々に応じて食べ物の力を借りています。

――最後に作品を通して、読者に伝えたい思いを教えてください。

中山有香里みんな何かしらと毎日戦っていて、いい日でも悪い日でも、毎日お疲れ様です。読者のみなさんにとって、一旦、肩の荷をおろせるような作品になっていれば嬉しいです。嬉しくても悲しくても、明日を続けていくためにまずは何か食べましょうか。という気持ちです。

中山さん@イラストレーター×看護師 @musashi_0303(外部サイト)
ズルカン@新人ナース応援! @zurukan2018(外部サイト)
『泣きたい夜の甘味処』(KADOKAWA)の詳細はこちら(外部サイト)

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