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他局の追随許さないテレ東の専売特許? “人生の機微”描いて進化する「食ドラマ」
部署をまたいだスタッフが集結してヒットした『孤独のグルメ』
振り返ると、『孤独のグルメ』初回放送時に川村庄子プロデューサーは、情報バラエティなどドラマ畑ではないスタッフも集結させ、得意分野が違うメンバーが集まることでお互いを補い合いって、新しい食ドラマを完成させたことを語っている。そこには、たとえ低予算でもフットワークの軽い同局ならではのチームワークがあったという。
実際にその後は、任侠の世界をかけ合わせた『侠飯〜おとこめし〜』(2016年)、美食で失恋を癒す女性を描く『忘却のサチコ』(2018年)、同性カップルの日常を描いた『きのう何食べた?』(2019年)、絶滅グルメを描いたロードムービー『絶メシロード』(2020年)、ハンバーガーを軸にしたコメディ『女子グルメバーガー部』(2020年)など、じつにさまざまなテーマと食を融合させ、エッジの効いた作品を提供し続けている
それぞれプロデューサーは異なるものの、決して、「食ドラマ=数字が取りやすい」という共通意識だけではないはずだ。食欲そそる料理を見せながらも、人情ドラマの物語と味のある演出、出演者の醸す奥深い演技テクニックや音楽など、トータルの世界観そのものをしっかり見せているからこそ、多くの視聴者に支持されているのだろう。
「俺のほうが面白くできる!」、初のオリジナル脚本にかけた意地とプライド
これまでに『侠飯〜おとこめし〜』や『きのう何食べた?』などを手がけ、現在は激辛をテーマにした『ゲキカラドウ』が放送中の松本拓プロデューサーは、食ドラマへのこだわりと想いについてこう語る。
「中途半端なものは作れないという自負はあります。『孤独のグルメ』のヒットがひとつの基準となり、誰もがそれよりも美味しく見せたい、おもしろくしたいと思うでしょうから、お互いに切磋琢磨しながら向上させている雰囲気はありますね。グルメドラマといっても多様性があるので、プロデューサーそれぞれが観点や角度を変えて、今の世の中に受け入れられるかどうかを検証しながら企画を練っています」
同局で初めて、オリジナルの食ドラマに挑んだ松本氏。その理由については、まさに自身の食ドラマに対する感性を追求した結果だという。
「オリジナルへの想いはずっとありました。原作に縛られないことで、自分が信じている食に対する感性を、存分に発揮できますからね。激辛をテーマにしたのは、赤い色はインパクトがあって画面に映える絵力があるから。それに激辛を食べるときの汗、息、しずる感は、観る人の食欲を誘います。脚本家とは、『辛い料理だけで12話分のストーリーが持つのだろうか』と議論にもなりましたが…(笑)、結果としていい作品が完成できました」
『ゲキカラドウ』は放送開始から、Twitterでトレンド入りするなど好スタートを切っている。激辛といえば、汗だくで勢いよくガッつく食事シーンを想像しがちだが、そこを上品に見せるところもポイントだという。
「バラエティではなくドラマですから、激辛を食べておいしそうに見えるかどうか、そのバランスはなかなか難しいんですが、主演の桐山照史さんがうまく演じてくださっています。それから激辛監修スタッフに入ってもらいながら、“お店の外に出たときの爽快感”のようなあるあるネタや、激辛に向きあったことで視野が広がり、人生の気づきを得るといった、激辛の真髄に迫っているところにもこだわりました」