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『全裸監督』が転機に、アダルト界の演技派・川上なな実が偏見を乗り越え俳優1本勝負「“体”ではなくて“人間”を見せる」
騙されて始まったAVのキャリア、ファンに励まされながら“足かせ”にも
川上なな実 ファンの方の存在だけですね。あるとき、デビュー当時から応援してくれてたファンの方が、急にイベントに来なくなったことがあったんです。それからしばらく経って、ガリガリの体で現れたんですね。「入院して生死を彷徨ってた。奈々美ちゃんの写真を見て頑張ったんだ」って。やっぱり目の前の人の言葉って心が動くものですし、求めてくれる人がいる、ここが私の居場所なんだって考えるようになっていったんですよね。
──一方で、現役時代からアダルト作品以外にも多く出演してきましたが、きっかけは?
川上なな実 デビュー3作目がドラマ仕立てのAVだったんですが、あまりにもセリフが棒読みで「これじゃダメだ」と芝居を勉強しようと思ったんです。それで舞台のオーディションを受けるうちに、舞台や映画の出演作を重ねるようになりました。
──デビューから10年経った今年から俳優業に専念すると発表されましたが、これまでのように“両立”を考えたことは?
川上なな実 当初は尖って、「絶対に両立してやる!」と言ってました。ただいろんな監督やプロデューサーから、「キャスティング候補に上がってたんだけど、現役セクシー女優という理由で下ろされた」という話を何度か聞いて。それが本当かどうかは別として、「この肩書は“足かせ”になるのかな」と考えるようになったのも事実です。
『全裸監督』で乗り越えたセクシー女優という“疎外感”、山田孝之と向き合って流れた涙
川上なな実 内田英治監督作品には、その前も何度か出演しているんです。だけど『全裸監督』は世界配信されるし、出演者の顔ぶれもセットの豪華さも過去作とは比べ物にならないスケール。プレッシャーに押し潰されそうなところを、「まあ、私はセクシー女優だし」と思うことでなんとか平静を保って現場入りしたのを覚えています。
──セクシー女優なんだから芝居ができなくても脱げばいいんでしょ、と?
川上なな実 そうですね。それまでも商業作品で“そういう扱い”をされた経験が何度かあったので。キャスティングの権利を振りかざして体の関係になろうとしてくる人は何人もいましたし、なんなら役者さんも共演者というよりは“セクシー女優”としか見てくれない疎外感はありました。
──でも、内田監督は違った?
川上なな実 いい芝居をしなければ絶対に納得してくれないですし、あくまで一俳優として私を見てくれます。『全裸監督』の現場でも、「君の芝居が一歩抜けきれないのは、共演者を信頼してないからだ」など厳しい言葉をかけられました。たしかに過去の経験から、共演者を警戒してたところはあったんですよね。だけど勇気を出して心を開いて山田孝之さんと向き合ったら、芝居ではない涙が自然に出てきて──。
──『全裸監督』は芝居の向き合い方でも大きな転機に?
川上なな実 はい。初めて本当の芝居ができたと思えましたし、公開後の評価や反響の大きさからも「俳優1本で歩んでいこう」と決めたきっかけの作品でもあります。
引退後に行き場をなくす女優たち、セクシー女優の経歴を武器にしたい
川上なな実 映画関係の方々やAV業界、そして常連のファンのみなさんもたくさん支援してくれました。現役セクシー女優時代を知る人たちから応援してもらったことで、改めて自信になりましたね。引退を決めてからはリターン品の制作と並行して、海外作品のオーディションにも挑戦しています。
──AV関係者やファンから「AVを否定された」といった反応はなかったですか?
川上なな実 私自身が、「セクシー女優だった経歴を武器にして俳優業に専念したい」と宣言していて、そのことを応援してくれる方が多いですね。今のAV界はとても回転が早く、新しい女優さんがどんどん入ってきます。その一方で、引退後に行き場を失ってしまう子も多い。それこそ看護師になったのに、過去の経歴を知られてクビになった子もいます。
──引退後も偏見や足かせがついて回る?
川上なな実 現役の子たちはみんな口を揃えて、「セクシー女優になった自分をマイナスに捉えたくない」と言います。それはやっぱり、何のアクションも起こさなければ今の世の中ではマイナスになることを知っているからだと思うんです。だからこそ私が、「セクシー女優の経歴は武器になる」という背中を見せなければと思っています。