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ORICON NEWS
コクヨ新型『修正テープ』大ヒット “目からうろこ”のアイデアの背景に「人に見られるノート作り」への意識
大ヒットも初動は“渋め”に設定「社内での懐疑的な意見もあった」
柳井はい。予想以上の反響で、正直ビックリしました。発売前、小売店の方々からの前評判が非常に良かったのですが、内心はエンドユーザーさんが本当に受け入れてくれるのか不安だったんです。社内の評価も当初はそこまで高くなかったですしね(笑)。
━━社内では“期待の新商品”ではなかったんですか?
柳井はい(笑)。テープの色のわずかな違いだけで本当にお客様から受け入れて頂けるのか、自信が持ち切れていない状況でした。「あったらうれしいかもしれないけど、購買のフックになるほどか?」とか、「こんなビミョーな違いがわかるのかな?」と懐疑的な意見もあり、当初は生産数も渋めに設定されて(笑)。ところが、事前受注での店舗からの引き合いがすごく多く、予定していた生産数では足りないということで、発売を2ヵ月遅らせて11月に販売となったんです。
━━大ヒットの背景は、SNSのコメントなどにもあるようにまさに「ありそうでなかった」商品であることだと思いますが、発想の源はどんなところから湧いてきたのでしょうか?
茂野弊社では、長らく修正テープの新商品を出せていなかったため、何か新しい切り口で展開できないかということになりました。まずは学生さんの困りごとの声を直接聞くために、実際に教室にお邪魔させていただいて、ヒアリングを行うとともに、使っている様子を観察させてもらいました。また、学生さんたちのノートを集めて、どういうふうに修正テープが使われているか、ノートそのものの観察も行い、潜在的な困りごとや改良できそうな要素をピックアップしていきました。
オフィスのデスクに座って、頭で考えているだけでは、ユーザーが本当に求めている商品のアイデアが出てこないので、実際に足を運び、ユーザーの声を直接聞くことや行動観察することを大事にしていて、常に時間を割いて情報収集を行っています。
もともとあったアイデアを今の時代に生かした商品
茂野せっかくキレイにとったノートだったのに、ちょっと間違えただけで直したところが白く目立ってしまって、モチベーションが下がっちゃうという声が多かったですね。間違えて修正するだけでも、ネガティブな行為なのに、そのうえキレイに修正できなかったらより一層マイナスな気持ちになってしまう、と。
━━気持ちの面での落ち込みが大きかった。
茂野はい。それに、今はノート提出の評価が内申点に反映される学校もあり、また、きれいにまとめたノートをSNS上にアップする学生さんも多いんです。今の時代ならではの声といえるかもしれません。
━━自分さえわかればいいと考えられていた時代から、人に見られることを意識してノートをとる時代に変わった、と。
茂野今の学生さんたちがこだわりたいところと、我々が学生だったころに思っていたことは、時代が変わって望むところが違うというジェネレーションギャップがあった。それが、“目からうろこ”と言っていただける商品につながったのではないかと思います。
━━そして、それらの声から生まれたのが、修正したところが目立ちにくい「ノートの色に合わせたテープ色」と、「ノートの罫線に合わせたテープ幅」という発想だったのですね。
茂野色に関しては、弊社は学生さんの7〜8割が使っている『キャンパスノート』というブランドがあったので、それを強みにコクヨだからこそ解決できる悩みとして、ノートの色に合わせたテープを作ることを決めました。テープとノートでは素材が違うのでまったく同じ色にすることはとても難しいのですが、何種類か作ったものを学生さんに見てもらって、どの色が一番目立ちにくいなど、実験的なことを繰り返しました。
柳井最初のリサーチの時間も含めると、構想から発売までには3年くらいかかっています。
━━「ありそうでなかった」と大きな話題となりましたが、これまで紙の色に合わせた修正テープは存在しなかったのでしょうか?
吉村昔、弊社も他社も再生紙や茶封筒の色に合わせた修正液などを発売していたことがありました。まだ、封筒やハガキに手書きで宛名を書いていた時代だったので、修正箇所の色が目立つのが嫌だというお声を受けてのことでしたが、その後、宛名をプリントアウトする時代になったために商品カテゴリーとしては徐々に縮小し、現在に至ります。
100年以上受け継がれるコクヨの精神「商品を通じて世の中の役に立つ」
茂野テープの定着が悪いために、引いたあとで指でなぞって押さえつけていたり、テープの切れが悪くて、ノートの見た目が汚くなってしまっている点が目につきました。そこを改善したいと思って、本体のメカ側の開発にも取り組みました。テープの定着のしやすさと、最後の切れの良さというのは相反することなので、両立させるにはけっこう苦労しました。先端のヘッド部分に、薄い金属プレートを入れているのが他社とは違うアイデアなのですが、実際に薄い金属で試作をしてみると貼る前からテープが切れてしまうといった問題が起きてしまって。それを改善し、引き心地と使い心地を上げる調整にはかなり時間がかかりました。
━━お話を伺っていると、ユーザーの声を聞きながら、それを上回る商品を開発しようという皆さんの熱意を感じますね。
吉村弊社は「創造性を刺激し続け、世のなかの個性を輝かせる」ことをモットーに「be Unique」を企業理念に掲げています。その根底には、創業以来100年以上、ずっと守り続けてきた「商品を通じて世の中の役に立つ」という思いがありまして。そのため、商品化にあたっては、お客様が今何を求めているかを一番大切にしていて、企画会議でも「それを求めている人がいるのか」が一番問われます。今回は、学生さんの実際の困りごとから開発部が考案した商品でもあったので、社内の懐疑的な意見にも、「そんなに言うなら」ということになったのだと思います(笑)。
茂野(開発部の)情熱を信じてみよう、みたいなところも(社風に)あるかもしれません(笑)。
柳井商品そのもののアイデアもですが、情熱やこだわりをお客様に伝えるためのパッケージや店頭の販促物、キャッチコピーも議論に議論を重ねて作っているので、その部分も今回は奏功したのだと思います。
━━ヒット作を誕生させた今、次に、開発に取り組みたいと考えている商品はありますか?
茂野今回の修正テープを発展させて、いろいろな種類の修正テープを出していけたらと考えています。修正テープは、思っていた以上に奥が深くて、まだまだ伸びしろがある世界だと思うので、修正テープを極めたいですね。
取材・文/河上いつ子