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山田孝之が自作解説でひもとく「詩」の世界 “ネガティブ”とうまく向き合うために
⇒この記事をオリジナルページで読む(10月19日掲載)
撮影:KOBA 取材・文:磯部正和
記事制作:オリコンNewS
ヘアメイク:灯 スタイリスト:五月桃/ともにRooster
衣装:シャツ ¥64,900/YOHJI YAMAMOTO
ネガティブは、視界の隅に置いて「たまに見る」
一言で言うなら、ネガティブと向き合う作業のような気がします。僕は人を楽しませようとか、笑わせようという感覚では一つも書いていないので。とかくネガティブってマイナスなイメージに捉われてしまいがちですが、決して悪いことではないと思っています。どうやったって出てきてしまう感情じゃないですか。そういったネガティブとどういう距離感で向き合うか。それが僕にとって書くことの大きな理由だと思っています。
――どのような塩梅(あんばい)で向き合っているのでしょうか?
まっすぐダイレクトに受け止めると、しんどいし病んでしまいますよね。でもだからといって、無視してしまうのではなく、ちょっと視界の隅に入るところに置いて、たまに見るぐらいかな。そうすることで人に対しても事象に対しても、一面的ではなくなる。ポジティブだけでは見えてこないことが浮かび上がってくるじゃないですか。
――詩を拝見していると、両義的な見方をされている印象が強かったです。それは山田さんという人間の特性なのでしょうか?
僕のなかで主観と客観が明確に分けられていないからだと思います。自分という位置を定めないので、そう感じられるのかもしれません。
どんな役でも、僕が台本を読んでいる時点で、僕を通過しているので、そこで50パーセントは自分であると思うんです。でも50パーセントは自分を捨てる。そこで一つになるような感覚はあるのですが、そもそも僕は自分なんてものはあってないようなものだと思っているんです。例えば僕のなかで「山田孝之ってこういう人間なんだ」って決めつけたとしても、受け取る人によって見方は変わるので、すべては伝わらない。だからあまり自分を持つというのは意味のないことなんだって思っているんです。
――いつも俯瞰(ふかん)で物事を捉えているのでしょうか?
主観的に「こう捉えて欲しい」と言っても、受け取り方は三者三様なので、あまり「こうだ」と決めつけたくないんです。過去にバンドをやっていたことがあるのですが、歌詞を考えるときも、自分の思いというよりは、例えば架空ですけれど、二流タレントみたいな女の子の気持ちになって書いてみたり、とある極悪大企業の人物の側に立って書いてみたり……という部分はあります。
山田孝之、自ら詩を解説。「人って人ばっか見ているけど…」
でも、逆に「そんなに全部自分の思い通りにいきたいの?」という気持ちもあって書いた詩ですね。梅雨も嫌われがちですが、拒絶するばかりではなく、楽しもうと受け入れることで、気持ちって大きく変わると思うんです。そんなことを提案したかったんだと思います。
――なるほど。続いての詩も、多義的な思いがこめられた詩に感じられます。
人間なんて、地球上のただ一つの生き物でしかないのに、人って人ばっかり見ているなって感じるんです。もっと地球全体のことを見たり、感じたりした方がいいなと。だからこういう言葉をよく使うのですが、「もうちょっと風を感じてみたり、雲の流れを追ってみたりすることってすごく重要だと思いませんか?」という問いかけですね。人のことばっかり気にしているから、新たなことにチャレンジすることに腰が引けちゃうし、いろいろ行動ができなくなる。向き合う視点を変えれば、もっと自分らしく生きられるのに……という思いを込めていますね。
13年つづった作品で感じる“自身の変化”
映画『クローズZERO』の公開(2007年)のとき、キャストでブログリレーをするという企画があり、そこで文章を書いていたのですが、それを見た編集の方に「なにか言葉で連載をしませんか?」と声をかけていただいたんです。そこで面白そうだなと思って「やります」と言いました。思い返してみると、言葉を作ることって昔から好きだったなって。10代のときにチェーンメールとか作っていましたからね(笑)。
――13年という長い歳月をかけてつづられたものを、今回1つの形にする際、どんな感情が湧いてきましたか? またご自身の変化を感じましたか?
切なさも恥ずかしさも懐かしさも……すべての感情が湧き上がってきました。本当に素直にそのとき感じたことをつづっているのですが、最初の方は僕という一人称がカタカナなんですよね。それは自分を指していることでもあり、あなたに対してでもあり、あなたが世間に対して言っていることでもあるんです。それがだんだん後半では主体が自分になってきて、僕という表記が漢字になっているんですよね。そういった変化は感じました。
それは違いますね。生きた年数分、いろいろなものが入ってきたり、出て行ったり、出てしまったり、入ってきてしまったりということがあるのですが、散々いろいろな問いかけをやってきて感じたのが、もうちょっとはっきりと伝えないと伝わらないと感じたから。20代のときは「汲み取ってくれよ」という思いもあったのかもしれませんが、結局はこちらの思い通りには伝わらないので、よりシンプルにハッキリと言った方がいいのかなと思ったからです。
――撮影に入っているときに書かれている詩は、役柄に影響されている部分が大きいのですか?
それはあると思います。撮影期間は山田孝之という人間よりは、役の人でいる時間が多いので、確実に影響していると思います。
それもあると思いますが、そもそも役になることがつらい作業なんですよね。自分を消すわけじゃないですか。だから俳優は病んでしまいがちなんです。でも僕は自分なんてものはないと思っているので、ほかの俳優さんよりは病まないで済んでいると思います。
――自分を消すという行為はかなりきついのでしょうか?
自分を過去から消して、役柄の人生が本物なんだって塗り替えるわけだから、相当精神的にダメージは大きいと思いますよ。
自身の行動が「人の気持ちを動かすきっかけになれば」
僕がやっていることのすべては表現なんです。でも情報が多い今の時代、やっぱり流されてしまっているという感覚ってあると思うんです。だから僕が出すものが、自分を見つめ直すきっかけになったら、それはすごくうれしいですよね。変化が起こることってすごく重要だと思っているんです。停滞って怖いじゃないですか。
すべてが良い方向に動くわけではないと思うけれど、何か人の気持ちを動かすきっかけになれば……という思いでやり続けているところはありますね。以前プロデュースした『デイアンドナイト』(2019年)という映画がありますが、あの作品はすごく多くの人に観てもらったわけではないんです。でも当時高校生だった女の子が「50回以上劇場で観た」と言ってくれたんです。高校生だったらお金とかも大変だと思いますが「説明できないけれど、世界観に惹きつけられて、観られる場所全部で観たい」って。その女の子の存在を知ったとき、興行収入とか動員数とかの数字とは関係なく「僕らは成功した」と思えたんです。
先ほど、自分なんていらないという話をしましたが、年々その思いは強くなっています。僕の思いを伝えたいのではなく、僕がなにかをやることで、それを受けてなにか行動を起こしてくれたら、意味があると思っています。今回の『心に憧れた頭の男』も、そういうきっかけになってくれたらうれしいですね。
山田孝之(やまだ・たかゆき)
1983年10月20日生まれ、鹿児島県出身。1999年俳優デビュー。以降、フジテレビ系ドラマ『WATER BOYS』、TBS系ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』、同局系ドラマ・映画『闇金ウシジマくん』シリーズ、テレビ東京系ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズ、映画『電車男』などさまざまな作品で主演を務めた。ドラマ、映画、舞台、CMなど、幅広く活躍している。近作に映画『はるヲうるひと』、Netflixオリジナルドラマ『全裸監督 シーズン2』などがある。
1983年10月20日生まれ、鹿児島県出身。1999年俳優デビュー。以降、フジテレビ系ドラマ『WATER BOYS』、TBS系ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』、同局系ドラマ・映画『闇金ウシジマくん』シリーズ、テレビ東京系ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズ、映画『電車男』などさまざまな作品で主演を務めた。ドラマ、映画、舞台、CMなど、幅広く活躍している。近作に映画『はるヲうるひと』、Netflixオリジナルドラマ『全裸監督 シーズン2』などがある。
月刊誌『+act.(プラスアクト)』における人気隔月連載として注目を集めた「心に憧れた頭の男」。2008年より、俳優・山田孝之が詩をつづってきた。そこには今まで知らなかった山田の視点、価値観、思考、内面が記録されている。ベストセラーとなった初書き下ろし本『実録山田』から5年。まったく違う姿で現れる「山田孝之」を楽しむことができる充実の内容に。さらに、本著のためだけに新たに収録した山田自らが全79篇を朗読したCDも付いており、永久保存版の「詩集」となっている。声にも定評がある山田。読んで聴いて、その世界にどっぷりと浸かってほしい。
この記事は、LINE初の総合エンタメメディア「Fanthology!」とオリコンNewSの共同企画です。
俳優・歌手・芸人・タレントらの趣味嗜好を深堀りしつつ、ファンの「好き」を応援。今後、さらに気になる人の「これまで」と「これから」をお届けしていきます。
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