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「Yahoo!への抗議」も辞さない、デジタルでも勝つ『週刊文春』貫くスクープ主義と稼ぎ方

ブランドか? 下世話か?「稼ぐことに消極的では、新聞もテレビも出版社も生き残っていけない」

 しかしながら、スクープ主義はときとして下世話な方へと傾きがちだ。芸能人の不倫、スキャンダルの記事はよく読まれるし、稼げる。だが、そこに特化しすぎると『文春』ブランドの価値が下がる。「芸能人の不倫専門誌ですか?」と言われかねない。

 「“ブランド価値を磨くこと”と“稼ぐこと”は、必ずしも両立しないわけではないと考えます。報道の世界では、以前は、『意義のある良い記事を出すことこそが我々の社会的役割だ』として、稼ぐことを下に見る風潮が強かった。ですが、デジタルが主戦場となった現在ではそうも言っていられない。稼ぐことに消極的では、新聞もテレビも出版社も生き残っていけない。まさに渋沢栄一の『論語と算盤』の精神です。ジャーナリズムと稼げる記事、この2つをいかにバランスよく回していくかが大事です」。

 新谷氏によれば、スクープには4種類あるという。売れるスクープと売れないスクープ。社会的に意義のあるスクープと意義のないスクープだ。

 「難しいのは、『売れるけど意義はない』という記事と、『意義はないかも知れないが売れる』という記事、このどちらを取るか、どちらの見出しを大きくするか。これは世の中の風向きを見て行うセンシティブな判断となるため、AIやマニュアルではできません。もちろん政治家の記事でも芸能人の記事でも、『文春』としての譲れない“一線”は、常に守っています」。

ポリコレ、コンプラ…そんな日本のど真ん中で「本音を叫ぶ」

 このように、現在の潮流を見極め、デジタル化を成功させた『文春』。だが、ネット媒体も増え、フェイクニュースなども問題視されている昨今。SNSで誰でも発信できるようになって来たことから、より“情報の信頼性”が問われるようにもなった。ネットニュースのひとつである『文春オンライン』が、そうした記事と一緒くたに見られてしまう懸念はないのだろうか。

 「主戦場がネットになれば、玉石混交になるのは仕方がない。読者の皆さんのメディアリテラシーも、問われる時代になったと思います。一方でメディアにとっては、信頼こそが生命線です。そしてそのためには、開かれた存在でないといけない。『文春』は特定の権力、組織の代弁者になることはありません。また自らの記事が問題になったり、炎上しても、すぐに記事を取り下げたり、謝罪するのではなく、記事掲載に至るプロセスを読者にきちんと説明します。そうした姿勢こそが信頼につながると信じています」。

 そんな新谷氏の信念は現在、編集長を務める『文藝春秋』にも反映されている。

 「ポリィティカルコレクトが重んじられ、コンプライアンス至上主義が幅をきかせる世の中において、私が目指しているのは、日本のど真ん中で本音を叫ぶ雑誌です。もちろん炎上上等と開き直るのではなく、今こそ、作家や学者やジャーナリストといった、言葉のプロフェッショナルたちが、研ぎ澄まされ、磨き抜かれた言葉の力で、正々堂々と本音を伝えていくべきだと考えています。例えば、大河ドラマの影響で渋沢栄一が話題になりましたが、『文藝春秋』では大河では触れないであろうお妾さんの存在に焦点を当てた鹿島茂さんの原稿を掲載しました。彼女たちの存在が陰ながら渋沢の偉業を支えたことは厳然たる事実ですし、その存在、人生をなかったことにしてしまったら、かわいそう。世の中はきれいごとばかりではありません。本音を叫ぶというのは、つまりこういうことです」。

 「スクープ」という言葉を借りながら、人間の光と陰にスポットを当ててきた新谷氏。その挑戦については、近著『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』(光文社)に詳しい。妙に潔癖になってしまっている世の中の真ん中で、きれいごとではない真実を伝える。デジタル化を成功させた『週刊文春』と、新たに手掛ける『文藝春秋』。これから日本の社会、人々にどんな影響を与えていくかを見守りたい。

(文/衣輪晋一)
『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』(外部サイト)
光文社 刊

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