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恋愛スキャンダルで一発退場…なぜアイドルのルールだけが厳格なのか?

 『文春オンライン』でシンガー・ソングライター優里との熱愛が報じられたアイドルグループ・Juice=Juiceの高木紗友希に対し、所属事務所のアップフロントプロモーションは「ハロー!プロジェクトのメンバーとして、自覚を欠いていると総合的に判断」し、ハロー!プロジェクト及びJuice=Juiceの高木の活動終了と、その後同事務所の退所を発表した。これをきっかけにSNSではさまざまな議論が続いており、「過去の先輩たちの処遇を見ていたら仕方のない結果」との意見が多いが、一方で「一発解雇は重過ぎる」「人権の侵害だ」などの声も上がっている。多様な働き方を取り入れる「ダイバーシティ」の考え方が進む中、“芸能人の働き方”も変化している。今なお続く「アイドルの恋愛禁止」は時代錯誤なのか? 芸能法務に詳しい「レイ法律事務所」の河西邦剛弁護士に話を聞いた。

事務所や運営側を“悪”とするのは短絡的、誰も望まない“脱退”という禊の形

 所属タレントの恋愛禁止を大々的に掲げる芸能事務所は減ってきているように見えるが、こと“アイドル”となると状況は別だ。特に、モーニング娘。などが所属するハロー!プロジェクト(以降ハロプロ)では、前述のように恋愛禁止条項が頑なに守られているようだ。過去には矢口真里や藤本美貴などが熱愛報道を理由に所属グループを脱退している。

 「なぜ、アイドルに恋愛を禁止する必要があるのかといえば、ファンの中には恋愛禁止を求める声もあるからです。アイドルビジネスの主な顧客はファンであり、その中に恋愛禁止を求めるファンがいるから、芸能事務所は恋愛禁止のルールを作ることで顧客ニーズに答えようとします」(河西弁護士)

 しかし、矢口や藤本が脱退を余儀なくされた当時と比べれば、現在はスマホカメラやSNSが爆発的に普及しており、一般人に“現場”を撮影されてメディアやSNSで拡散…というのもなくはない話。バレずに交際を続けることは昔以上に難しくなっている。芸能事務所・アイドル本人・ファンの三者が本来は望まない“脱退”という結果になってしまうのだが、そもそもアイドルに恋愛禁止を強いることの法的根拠はあるのだろうか?

脱退はアイドルの伝統と歴史を守る気概の表れ 一方で残された側の思いは?

 「もちろんケースによりますが、過去の判例を見ると、恋愛発覚からグループ解散に至ったケースで、アイドルに一部の支払いを命じた判決もありました。しかし、その後の裁判では『異性との交際は人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権』であることを理由に、損害賠償を認めない判決が出ています。さらに多様化が進む近年の時代背景においては、恋愛禁止は契約書に明記されていたとしても法律上は無効と判断される傾向がより強くなり、違約金の請求や、一方的な解雇は認められないでしょう」(河西弁護士)

 つまり、昨今の法律的判断の傾向としては、恋愛発覚を理由にアイドルに損害賠償を求めたり、所属グループや所属事務所を辞めさせることはできないということだ。となれば、芸能界では長年守られてきた“恋愛禁止”のルールに対して、アイドルたちは自らその“しきたり”に従い、体を張ってその“伝統”と“歴史”を守ったというある種の“気概”を見せたのだともいえる。

 「一方で、歌唱スキルが極めて高いと評されるメンバーであっても交際発覚からグループ一発退場となれば、『私たちは今まで何を評価されていたんだろう』とアイドル側を取り巻く不安も残ることになります」(河西弁護士)。 実際に高木のようにハロプロ内でトップクラスの歌唱力を誇るモーニング娘。'21の小田さくらは、高木の“事件”を受けて自身のブログで以下のように語っている。

 「音楽を武器にしようとしているハロー!プロジェクトが私は大好きです。なので、高木さんのように歌声という最大の武器を持ち合わせていた人ですら、戦えない事があるという現実に、音楽が1番大事ではなかったんだと感じた事がすごく悲しかったです。“アイドル”は音楽という娯楽の中にちゃんと属せているのでしょうか?」(小田さくら|モーニング娘。'21 天気組オフィシャルブログより一部抜粋)

 事務所も、大切に育てた人材を手放したい思いはないだろうし、タッグを組んでやらないといけないはずのアイドルとの間に溝ができるような状況は避けたいはず。ルールの見直しや、より一層のケアも必要なときなのではないだろうか。

 「実際に本人の精神的負荷にも相当なものがあるでしょう。大切なことは一方的に『処分する』のではなく、本人と今後について話をしながら一緒に『次の道を探す』ことかと思います。本人がグループで続けたいのであれば、一旦はルール違反に伴う活動休止をして復帰の道を模索する選択もある。ソロ活動したいのであればグループを去る選択もある。芸能界引退ももちろんあり得る。本人の意思がなければアーティスト活動は不可能ですから」(河西弁護士)

アイドルは“存在”が商品 プライベートにまで清廉性を求めてしまう傾向もあり

 恋愛禁止というルールは、今や時代遅れの感がある。しかし音楽アーティストには楽曲、俳優には演技という“商品”がある中で、アイドルが“売り”とする商品はどうだろうか?

 「歌やダンスという技能面、顔や姿などの身体的側面、さらには性格やキャラという人間性の内面・外面的側面など、アイドルの“存在すべて”がファンからの評価対象になるとともに、プライベートにまで清廉性や理想を求められる傾向すらあります。」(河西弁護士)

 アイドルによっては、こうした評価にさらされることに疲れてしまい、早いうちからアイドルを卒業してアーティストや俳優へと活動をシフトしていくも人も多いのではないだろうか。

 男性アイドルであれば結婚後もアイドルを続けるなど、昔に比べれば高齢化も認められつつあるが、女性アイドルではまだそうはいかないようだ。今のルールのままでは、アイドルは息の長い職業とはなりにくい。ここにきてファンたちも、アイドルへの要求やハードルを上げてアイドルを縛ることは、結果的に自分の“推し”の寿命を短くしていることを自覚すべきではないだろうか。

 「『どちらも本当の私だけど、仕事としてのアイドルの姿と実際の私は違っていて…』。私が弁護士としてアイドルから相談を受ける中で、こういう声を聞くこともあります。プライベートを詮索され続けることに限界を感じるアイドルの声も少なくありません。仕事以外でも監視される日々に耐えられなくなり、アイドルでいることを維持できなくなっては、ファンも望むところではないでしょう」(河西弁護士)

  “推し”という言葉が一般に使われるようになって久しいが、ファンが推しに対して求めるハードルがいつのまにか高くなってしまうということが多々見受けられる。

 「恋愛発覚含め自分の想いに適わないことが起こると『こんなはずはない』『裏切られた』と自分の理想を押しつけてしまいがちです。しかし、プライベートは詮索せずに、ある程度の距離をとることが結果としてより長く推しを応援することにつながるのではないでしょうか」(河西弁護士)


 スキャンダルにより一発退場など、本来は法的根拠も何もないことなのだが、アイドルはある意味ファンを守るために、自ら身を引いている(脱退する)のかもしれない。“アイドルの恋愛”…あなたはどう思うだろうか。

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