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鴨川シーワールド、海獣シャチと歩んだ半世紀 国内初の繁殖成功の裏で乗り越えた“死”
日本初の調教に、当初は飼育員も戦々恐々…! “退屈嫌い”なシャチのトレーニング法とは
「いくら大丈夫と言われても、頭の片隅には『食べられてしまうのでは!?』という思いもあって、当時はかなり緊張感があったようです。シャチが動き出すと、散り散りに逃げたり(笑)。輸送中のシャチは人間で言うとずっと正座をしているような状態だったので心配もありましたが、プールに放すとすぐに泳ぎ出すほど元気だったと聞いています」(勝俣館長、以下同氏)
「通常3日後、1週間後、1ヵ月後と、新しいところに来てすぐの時は、健康管理のために尾ひれの血管から採血をして検査をします。身体を抑えるのにイルカであれば4〜5人で十分ですが、若くて元気なシャチを抑えるのは相当大変だったと思います」
日本でも有数のイルカ研究者だった初代館長の鳥羽山照夫博士は、豊富な知識を元に飼育員を指導。国内初で手探りながらトレーニングを進め、1ヵ月ほどで形にした。
イルカは小道具をいきなり見せると驚いて警戒されてしまう繊細さがあるが、シャチは大胆な面もあるのでトレーニングは進めやすい。水中で遊びながらトレーニングをしていくが、人のことをよく観察しているだけに難しい部分もあるという。
毎日の日課は、8:00〜18:00の間にショー、トレーニング、運動、遊び、自由時間が繰り返されるが、その時間割も日々変化させて、シャチを飽きさせないように工夫しているのだ。
喜びの裏にあったいくつもの深い悲しみ…「出産後も祈る思いで24時間つきっきり」
「シャチは妊娠期間が1年半、赤ちゃんも体長2メートルほどで150キログラムあります。マギーの出産を経験していても、その時に何が起きていて、何が必要かを試行錯誤しながら対応していました。ステラは無事出産したものの、母乳をあげるようになるまでに2日間かかり、飼育員が交代で、24時間つきっきりで見守っていました」
「生まれたから大喜びというわけにはいかず、ずっと不安でした。いつ“もう大丈夫”と思えたかは覚えていませんが、毎日ただひたすら世話をしていたら、いつの間にかしっかり育ってくれたという感覚です」
目玉パフォーマンス“水かけ”は当初なかった シャチとともに50年変化し続けてきたショー
開園当時に試行錯誤しながら作り上げたショーも、年々変化。ダイナミックなジャンプで観客に水がかかる演出は、今から10年ほど前にスタートした。
勝俣さんを始め、飼育員にとって、シャチをはじめとする水族館の生物は、いわば大切な“仕事仲間”。そこで暮らす生き物たちが充実した時間を長く過ごせるようお手伝いしている感覚だという。
「狭いところでは本来の行動を見せない」、「虐待を受けている」といった誤った情報や様々な反対意見に対し、胸を張って飼育していると言えることが大切だと勝俣さんは語る。現に、日本初のシャチの飼育、繁殖に成功したことで、多くの人がその生態や魅力を知り得たことを考えれば、功績は大きいだろう。
コロナ禍で厳しい状況が続く中、改めて「命」について考える機会があった人は少なくないだろう。各地で水族館閉鎖が相次ぐ中、太平洋に面した恵まれた立地を生かし、シャチを始めとする多くの生物の展示してきた鴨川シーワールド。これからも今まで築き上げてきた生き物たちとの信頼を守りつつ、新たな魅力を伝え続けてくれるに違いない。