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顔にアザのある女子高生を漫画の主人公に、『青に、ふれる。』作者がコンプレックスを描く理由

  • 漫画『青に、ふれる。』(双葉社)より

    漫画『青に、ふれる。』(双葉社)より

 太田母斑という額、目の回り、頬などの片側に生じる“青アザ”。生まれつきこの青アザがある女子高生を主人公とした漫画『青に、ふれる。』(双葉社)の作者・鈴木望さんは、自身も同じ症状を持つことが、同作品を描く契機になったという。思春期の頃から抱えてきたアザへのコンプレックス、周囲から投げかけられた心無い言葉…そんな過去の出来事を思い出しながらも、漫画を描き続ける理由を聞いた。

アザのコンプレックスを指摘されるたび「心から血が噴き出る感覚になった」

――鈴木さんは、漫画家になった当時から“太田母斑”を題材にした漫画を描きたいと考えて担当編集者に相談したそうですね。その時に、アザについて抱えてきたことを初めて第三者に打ち明けることができたと過去のインタビューで語られていたのが印象的でした。

鈴木さん『青に、ふれる。』の担当編集のお二人に、私は生まれて初めて”安心して話ができる”場を与えていただきました。といっても、最初はなかなか自己開示ができなくて、過去の実体験をネタとして話していたんです。でもその話を「えー!ひどい!」とか「それは傷つきますね!」と担当さんお二人が反応して下さって。“ああ、これはひどいって言って良かったんだ”、”私は傷ついてたんだ”という思いを認識することができました。

――実体験を打ち明けた当時、鈴木さんはどんな感情を抱きましたか?
鈴木さん自分を大事にするって怒りを持つことだ、怒りの感情って、自分の話を聞いてくれて、共感してくれて、一緒に怒ってくれる人がいて初めて、抱くことのできる感情なのだと知りました。

 『青に、ふれる。』を描き始めた頃、私自身が色々傷だらけで(笑)。漫画を描くことにも不安があったんですけど、担当さんに「そのままの鈴木さんでいい」と言って頂いた時は号泣しました。その時は「いやいやいいわけないじゃん!」「もっと頑張らねば!」と焦ってしまったんですけど、今はどんな自分も認められるようになりました。

――同作の主人公・瑠璃子は多感な年ごろの女子高生。学校でアザのことを周りに言われても、気にしていないように(気にさせないように)明るく振る舞う場面が描かれていました。そういうエピソードは、ご自身の実体験を元にされているのでしょうか?

鈴木さん瑠璃子のエピソードは、あくまでも瑠璃子のこととして描いています。私以外の太田母斑をもつ方や、他の症状をもつ方への取材を元にしているエピソードもあります。ただ、根底にある感情の部分で、自分の体験との共通項がいくつかあるかな、という感じです。
――ご自身の体験として、ショックを受けたことは?

鈴木さん高校生の頃、父親に”レーザー治療を受けたい”と話したら「お前はアザがなくなってもブス」と言われたことです。「あはは!そうだよねー!」と笑って答えたのですが、それからカバーメイクや治療を人から勧められる度、心から血が噴き出るような感覚になりました。今なら「傷ついたよ」とちゃんと伝えて、コミュニケーションを図るんですけど、私はずっと笑ってごまかす対処しかできませんでした。

――鈴木さんにとって、度々フラッシュバックする過去の出来事だったのですね。

鈴木さんでも、ネガティブに思える経験は、自分次第で活かせるんですよね。私は”あるものに目を向ける”ことを身につけられたと思います。どんな外見でも”好き”と言ってくれる人はいるし、居場所だって家庭や学校・職場になくても、探せば沢山あるし、自分で作ることもできる。現実の世界になくても、物語や空想の世界にはあったり…私自身がそうでした。自分のこうした経験が漫画に活かせる場合もあるので、周囲からの言葉や態度って、どんなものでもプレゼントだな、と。とはいえ、今私が誰かに「ブス」と言われても受け取らない、スルーしますけどね(笑)。

打合せでは「怒ってもいいんですよ」と伝えた、担当編集者の想い

 『青に、ふれる。』には太田母斑のアザを持つ女子高生が主人公として登場するほか、相貌失認という顔の表情を判別できない症状と向き合ってきた教師が登場する。編集担当は「“アザのある少女”という目に映るコンプレックスと“相貌失認”という目には映らないコンプレックスを抱えている二人の掛け合わせが斬新。誰しもが何かしらのコンプレックスを抱えていると思うのですが、作品ではそれが本当に丁寧に描かれていた。すごく共感性のある作品だと感じ、連載をお願いした」と経緯を語る。打ち合わせで実体験を打ち明けた鈴木さんの言葉をどのように受け止めていたのか。

――鈴木先生が伝えた“あざへの思い”について、どのように感じてどんな言葉を返したのか、お聞かせいただけたら幸いです。

担当編集者色々お話をさせていただいたので正確には覚えていないのですが、ついつい笑いながら「私なんて」と答えてしまっていたという鈴木先生のお話を聞いたときに「それはひどいですよ」や「怒ってもいいんですよ」とお伝えしたと思います。こうやって気持ちを出せたのは初めてかもしれないと伝えてくださったとき、少しでも鈴木先生の気持ちを軽くできることができたのならよかったと感じました。

 先生との打ち合わせは、我々にとっても「自分と向き合う場所」だと感じます。「三人寄れば文殊の知恵」ではないですが、こうした言葉の積み重ねがコミュニケーションそのものなんだと思います。

――鈴木さんが作品を描き上げる姿は、編集者さんたちにはどのように写っていますか?

担当編集者繊細な面と、とてもまっすぐな面と、両方をもった方です。取材協力していただいた方々、読者の皆さん、そして我々に対しても常に気を配ってくださっていて、これは強い信念が無いと出来ないことだと思います。ただ、時たま顔を出す「気の抜けた鈴木先生」も素敵だと思うので、そのメリハリのお手伝いができるよう頑張りたいです。

「コンプレックスや悩みは、なくすことは難しくても、感じないようにすることはできる」

 鈴木さんは作品を描き上げる際に、過去の体験がフラッシュバックして、気持ちが沈んでしまうこともあるという。「”あざのある女の子の物語”ではなく、エンターテイメントとして瑠璃子の物語を描きたい」と語る鈴木さんの言葉には、コンプレックスに悩む人の気持ちに寄り添う“強い信念”が感じられた。

――作品では、様々なコンプレックスの形を描かれています。センシティブなテーマをどのように作品として昇華していますか? ご自身が過去に傷ついたこと、嫌だったことがフラッシュバックするときもあると、過去のインタビューで話されていました。そういう時は、どのようにご自身の心のバランスをとっていますか?

鈴木さん『青に、ふれる。』では太田母斑だけでなく、相貌失認の症状がある方、不登校の経験がある方等にも取材協力して頂いています。過去のことを掘り起こしたり、解決できないことを語るのって、精神的につらいんですよね。それでも協力して下さるのは、”少しでも多くの人に知ってもらいたい”という強い希望があるからだ、と。私は「しっかり伝えなきゃ」と、必要以上に思いすぎることがありました。

 そういう時にいつも、担当編集の2人に引き上げていただいています。それでも描くのがつらくなる回はあって、そういう時は”打ち合わせ”と称したカウンセリングとヒーリングをしていただいています。なぜ、どこがつらいのか、思考回路の整理をして、感情を吐き出して共感していただいたり…。おかげで、最近はネガティブな感情を引きずらず、線引きができるようになりました。

――鈴木さんが、この漫画を描くにあたってもっとも伝えたいことは何ですか?

鈴木さん私は漫画が好きだから描き続けています。コンプレックスや悩みって、なくすことは難しくても、感じないようにすることはできると思うんです。つらいことがあっても、幸せを感じることはできる。私は漫画を描いている時は孤独を感じないし、ご飯を食べている時は腱鞘炎の痛みを忘れているし、たこ焼き職人さんの手元を見ている時はとても幸せです。

 自分の抱えているものを解消しようと努力するのも素晴らしいし、忘れてしまうほど好きなことに没頭するのも一つだし、夢中になれなくても”好き”をいくつも作ればいいし、それも難しいときはとにかく休むとか…そうしてまずは自分を大事にして、自立できて初めて、他人と心地よいコミュニケーションが図れるんじゃないかな、と。

 『青に、ふれる。』では、それぞれが考えて選んだ自分の道や、”個”を尊重し合えるコミュニケーション、その形のひとつを伝えたいと思っています。

『青に、ふれる。』(双葉社)

「青に、ふれる。」特集 鈴木望×有村藍里対談はこちら
https://natalie.mu/comic/pp/aonifureru(外部サイト)

生まれつき顔に太田母斑(おおたぼはん)と呼ばれる青いアザを持つ女子高生・青山瑠璃子。アザのことを気にしすぎないよう、周りにも気を使われないよう生きてきた。
新たな担任教師の神田と出会った瑠璃子だが、ある日神田の手帳を目にしてしまう。クラスメイトの特徴がびっしりと書き込まれているのに、自分だけ空欄なことに気づいた瑠璃子は神田を問い詰めに行く。しかし、神田は“相貌失認(そうぼうしつにん)”という人の顔を判別できない症状を患っており――。
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