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(更新: ORICON NEWS

女子高生11人が“失われた学校生活”を黒板アートに、ソーシャルディスタンス保ち600時間制作

 黒板アートとは、文字通り黒板をキャンバスにチョークのみで絵を描くアートであり、近年SNSなどを通してその存在が広まり、黒板メーカーの日学(株)が2015年に『日学・黒板アート甲子園(R)』を創設した。全国の中・高生を対象とし、これまで6回開催され、累計800を超える作品の応募、4500人強の生徒が参加した。入賞作品はどれもクオリティが高く、黒板に描いたとは思えないものばかり。昨年、最優秀賞を受賞した大阪府の好文学園女子高等学校の作品は、11人が協力して作り上げられた。一見するとささやかな日常を描いた作品だが、そこにはコロナで失われた11人の学校生活への想いが込められていた。

「自分たちの本来の過ごし方をまた取り戻したい」前向きな姿勢で挑んだ黒板アート

 好文学園女子高等学校が大会に参加したのは2018年から。今年で3回目の出場となる。美術部の顧問をしている前土井先生によると、参加を決めたのは先生からの勧めではなく、当時の3年生が黒板アート甲子園に出品したいと言ってきたことがきっかけ。チラシを持ってきて「自分たちもやってみたい」と言われたのだそう。

 これまで3回出場してきたが、最優秀賞を受賞したのは今年が初。チームのキャプテンである川戸さんに受賞した時のチームの様子を聞くと、「皆で思いっきり喜びました。この作品に込めた私たちの思いが伝わった事、このメンバーで最高の作品を制作できた喜びが込み上げてきて感動しました」とチームのみんなで喜びを分かち合っていた。
 今回最優秀賞を取った作品の名は「懐かしい未来」。テーマを決めるのに約1ヶ月。制作には夏休みを含めて約600時間かけて3年5人、2年3人、1年3人の合計11人で描いた本作は、コロナで失った学校生活での未来を描いた。

「私たちが今までの学校生活で当たり前の事が今では、“だったね”と過去形になってしまいました。なので、絵の中でみんなと楽しくワイワイして、楽しい学校生活をおくりたい。そんな思いでこの絵を描き、『懐かしい未来』というテーマを決めました」

 前土井先生はあまり技術的な指導はしていないというが、毎回生徒たちに作品を描く前にコンセプトや世界観を考えてもらう際に、制作中にもその意味を考えたり再確認したりする機会をもつような声掛けを行っている。

「最初は先輩から続く伝統を受け継がなければという気持ちで取り組んでいましたが、テーマが決まり、内容が具体的になるにつれ、『ここはこうしたほうがいいのでは』とか、『コロナ(禍)になってからこういうことできなくなったよな』とか、『こんなんしたいな』など、自分たちの心情を重ね合わせ試行錯誤する姿が見られました。高校生の思い出という視点ではなく、自分たちの本来の過ごし方をまた取り戻したいという前向きな姿勢で取り組んでいたと思います」

ソーシャルディスタンス保ちながらも、11人の“個性”を1つに「高校生活の大切な思い出」

 川戸さんに作品を描く上で苦労した点を聞くと、最初に出てきたのは絵のことではなく、「ソーシャルディスタンスを保ちながら制作すること」だった。それでもチームで描くことには大きな達成感があったという。

「チームで制作すると、それぞれ絵には個性があり、その個性を合わせることが大変でした。それぞれが絵を描き進めていると、ここの色が違う。大きさが合わない。等、バランスをとる事が難しかったです。でも、そのそれぞれ良さが引き立ち合い完成したときの達成感はとてつもなく大きいです」

 黒板アートを描くコツは、チョークだけでなく綿棒や筆、雑巾など他の物を使うこと。

「いろいろなものを使うことで細かい表現を出せます。始めはチョークを塗り重ねてみてどのくらいの発色が出るのか試し、ひたすら描いてみるのがいいと思います」

 前土井先生によると、黒板アートは多くのことを生徒たちに学ばせることができるという。「技法としては、下地の暗い色を活かしながら描くので、いつもとは逆の発想で描ける力が身に付きます。また、限られた色のチョークで描くので混色や色の重ね方も勉強できるんです。それから、黒板アートはチームで取り組むので個人制作とは違った責任感やチームワークが生まれるところもいいところだと思います」

 最後、川戸さんに黒板アート甲子園はどんな経験だったのか聞いた。

「私たちのスキルアップを目指す場でもあり、先輩、後輩との絆を深める貴重な時間でもあります。そして、黒板アートに参加する事は私たちの高校生活のひとつの大切な思い出づくりでした」

 コロナ禍で何気ない日常を奪われてしまった高校生たちは、あるはずだった未来を黒板に描いて見せた。黒板という学生が最も日常的に目にするキャンバスだからこそ、その想いはより強く見る人に届き、心を動かしたのかもしれない。彼女たちが描いた未来が早く現実になることを切に願う。

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