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SNSで「語彙力ください」の声 ネット時代にあえて“紙の辞典”が選ばれる理由
初版発刊から13年後 “あるツイート”がきっかけで品切れ状態に
その後、2008年Twitter日本上陸、2014年日本語版Instagramアカウント開設……と、誰もがSNSという場で自己発信をする時代となり、“語彙力ブーム”が到来。2015年には、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)や、「類語辞典」「書くための辞典」といった、語彙力に関する書籍の需要が拡大していく。
そんな中、2016年あるツイートをきっかけに、『ことば選び実用辞典』が全国の書店で売切れ続出となるほどの注目を集める。「全国の創作クラスタに伝わりやがれ下さい(原文ママ)」と投稿されたツイートに約10万ものリツイート、いいねが集まった。創作クラスタとは、趣味でイラストや漫画、小説などを創作する人たちのこと。
“創作クラスタ”の目に留まり、再び脚光を集めることになった同辞典。当時の盛り上がりが現在まで続いている要因を田沢さんは分析した。
「発刊当時と異なり、Web上に自分の作品をすぐ載せることができるため、創作活動を始めるハードルは下がっています。文章を書く機会が増加するにつれ、自分の理想とする文章に適したことばが思い浮かばないと悩む方が増加しているものと推測されます」
あえてターゲットを絞る「何らかの思いを発信したい人へ」
「企画時にコアターゲットとしていたのは、いわゆる創作クラスタでした。そこから、自分自身は創作活動をしなくても“感想を発信したい人”、作品の感想に限らず“何らかの思いを発信したい人”へと広がっていったように思います」(田沢さん)
現在11タイトルあるうちで1番の売れ筋は、気持ちや人物の特性を表現するための『感情ことば選び辞典』。
「シリーズの中でも、読者となりうる人が特に多い内容の辞典ではないでしょうか。マンガ、小説、シナリオ、歌詞……とあらゆる創作物で、人間の感情を描くことは避けて通れません。またフィクションだけでなく、現実の生活でも自分の感情を言語化することは求められており、それに特化した辞典に需要があるのではないでしょうか」(田沢さん)
また、同シリーズにはもう1つこだわりがある。それは「まえがき」だ。SNSでの反響の中に「まえがきの時点でもう買って正解だった感がある」という意見もあった。創作クラスタへ届くよう、まえがきの書き方には試行錯誤したという。「創作クラスタあるある」をまえがきに入れることで、より「あなたのための本です」とストレートに刺さったのではないか。
「読者にとって必要なものは何か、常に考え続けるよう意識しています」と田沢さんは言う。1つの単語に対し、いくつもの言葉が収録され、足りない語彙力を10にも100にも補強してくれるところが重宝されている。もちろん量だけではなくきちんと質も担保されていることが前提だ。ほかにもスマホサイズに収めるために、ページ数も極限まで減らし、価格の抑制にも成功。手軽でリーズナブルという点でも、“読者(利用者)ファースト”の辞典が作られている。
「知らないことばと出会いたい」に応える 現代における“紙の辞典”の役割とは
「かつて紙の辞典は“意味を調べるためのもの”だったのかもしれません。現代は「○○ 意味」で検索すれば事足りる人が多く、そのため意味を調べるための国語辞典を指して『紙の辞典は売れない』といわれる時代なのでしょう」(田沢さん)
では、なぜこの時代に“紙の辞典”に需要があるのだろうか。
「2019年現在、紙の辞典には『自分の知らないことばと出会いたい』『ことばの使い方を知りたい』といったニーズに応えるという役割があるのではないでしょうか。また、ことばの使い方や似た意味のことばを調べたい場合、検索するときもある程度の知識を要求されます。そもそも知らないことばを検索するということは非常に困難です。このような場合、“紙の辞典”が読者のお役に立てるのではないかと思います」(田所さん)
さらなる広がりを見せている『ことば選び辞典』シリーズ。「知らないことばと出会える」から先を目指した展開も考えているのだろうか。
「どのターゲットに、どのように展開するか模索しているところです。『辞典×図鑑』『辞典×実用書』というようなスピンオフや、Webや電子書籍での展開なども現在検討しています。いずれにせよ、今まで辞典に興味を持たなかった方に面白いと思ってもらえるような展開ができればと考えています」(田沢さん)